2015.02.03 tue

2015年2月03日【新聞解説】希望の火

2015年2月03日【新聞解説】希望の火


【リグミの解説】

「イスラム国」による日本人人質事件は、最悪の結果となりました。本日の読売、朝日、毎日、日経、産経の5紙が関連社説を掲げています(毎日は2本)。特徴的な論点を比較します。
 
<読売新聞> 「人質」国会論戦 対テロで冷静な検証が重要だ
・ 人質事件の再発を極力防ぐとともに、発生時に政府がより効果的に対処できるようにする。国会は、その具体策の議論を深めてもらいたい。政府の危機管理体制を強化するためにも、今回の事件対応を冷静に検証し、分析することが大切だ。どんな情報に基づき、どう対処したのか。政府は国会などで、丁寧に説明することが求められる。無論、政府の手の内をすべて明かすのは、関係国との信頼関係を壊し、過激派組織を利する。
 
<朝日新聞> 人質事件と日本外交―平和国家の構えを崩すな
・ 「テロに屈しない」のは当然である。だが一方で、その常套句(じょうとうく)に流され、拙速な結論を導いてはならない。米国での9・11事件から十余年、「対テロ戦争」の限界と弊害を世界は目撃してきた。力には力で、と走る危うさを今世紀のイラク戦争とその後の中東の混沌(こんとん)が物語っている。日本はこれまで各国の軍事作戦とは一線を画し、人道的な支援に取り組んできた。その実績には中東一円で高い評価がなされている。
 
<毎日新聞>① 日本人人質事件 冷静に役割を果たそう
・ 各国メディアが大きなニュースとして扱ったのも、ISの行為が日本だけでなく、世界の文明社会全体に対する挑戦と映ったからだろう。恐怖に屈しない国際社会の連帯は文明の強さを示すことになる。ナイジェリアの過激派組織「ボコ・ハラム」もISも「文明の敵」という意味では日本も含めた国際社会が共同で立ち向かうべき相手だ。 テロリストがまき散らす恐怖に屈せず、理性的な判断を下すことができるのが文明の力だ。
 
<毎日新聞>② 日本人人質事件 疑問にこたえる検証を
・ 今回の事件にはわからないことが多いが、検証を要する問題として大きく2点を指摘したい。一つは、安倍晋三首相が、日本人2人が拘束されているのを知りながら、先月中旬、中東歴訪に踏み切ったことと、首相の中東政策に関する演説内容の検証だ。もう一つは、人質解放に向けた交渉の経緯だ。
 
<日経新聞> イスラム社会と手を携えて
・ イスラム国が仕掛ける「憎しみ対憎しみ」の土俵に私たちが乗っかり、イスラム社会そのものを危険視するようなことがあってはなるまい。当たり前だが、イスラム社会のほとんどの人はテロと関係ない。テロの撲滅に向け引き続き各国との連携を強めながら、イスラム社会とこれまで以上につながりを深め意思疎通をはかっていく。それこそが新たな犠牲者を生まない道ではないだろうか。
 
<産経新聞> 邦人保護 救出の法と態勢が必要だ 対外情報機関の創設を急げ
・ 海外で危機にさらされた自国民を救出するという国家として当たり前の対応を、日本はとれない。過激組織「イスラム国」による卑劣なテロにより、改めて想起させられたといえよう。残念ながら、戦後の日本では自衛隊を活用して国民を救出する態勢と意思を持つことが許されなかった。
 
過去のテロリズム
「イスラム国」による日本人人質事件は、衝撃的な結末を迎えました。湯川遥菜さんにつづいて後藤健二さんも殺害されました。ふたりの救命を求めた日本国民、そして世界中の心ある人々の願い無慈悲に裏切る所業です。ご本人たちの無念さ、ご家族や友人知人など関係者の悲しみを思うと、言葉もありません。ご冥福をお祈りいたします。
 
歴史的に見ても、日本人をターゲットとしたテロ事件は、数多く国内外で起きています。記憶に強く残る事例だけでも、戦前の青年将校らの反乱(五一五事件、二二六事件)、戦後では右翼による日本社会党委員長・浅沼稲次郎暗殺事件、左翼過激派による一連のハイジャック事件、あさま山荘事件、三菱重工ビル爆破事件、そしてカルト宗教団体が起こしたオウム真理教事件などがすぐ列挙できます。
 
新しいテロリズム
いずれも社会を揺るがした大事件であり、その後の社会のあり方に大きな影響を与えたという意味でも、歴史的なふりかえりと検証を続ける必要がある事象ばかりです。そうした中でも、今回の「イスラム国」の所業は、インターネット時代のグローバル社会の弱みにつけこんだ、きわめて悪質な事件といわなければなりません。
 
テロリズムとは「政治目的のために暴力あるいはその脅威に訴える傾向と行為」と広辞苑にありますが、「イスラム国」の巧妙なメディア活用は「恐怖」(テロ)をかきたてました。「これは悪夢のはじまりに過ぎない」というメッセージこそ、暴力に汚染されたテロリスト集団のマインドを端的に表明しています。彼らは、暴力は肉体の前に精神を脅かすということをよく知っているのでしょう。だからこそ、私たちは湯川さんと後藤さんの犠牲を無駄にしてはならないのだと思います。
 
暴力主義と非暴力主義
ハムラビ法典にあるとされる「目には目を、歯には歯を」は、憎しみと暴力の連鎖を象徴する言葉に思えます。「テロに毅然とした対応を」というとき、そこに報復感情が混じる限り、私たちは苦しみの連鎖に巻き込まれることになります。テロリズム=暴力主義に対抗するにはどうしたら良いのでしょうか。私は、インド独立の父ガンジーと、米国黒人の公民権運動を指導したキング牧師、そして反アパルトヘイト運動に身を投じたネルソン・マンデラらが、一様に「非暴力主義」で理不尽な現実を変革したことを思い出します。
 
かすかな希望があります。昨日、国際ジャーナリストの土野繁樹さんがリグミに「シャルリー虐殺事件 カラシニコフ銃vs諷刺画家」という重要な記事を寄稿してくださいました。きわめて示唆に富む内容であり、日本国内にいては見えてこない景色もわかります。是非ご一読ください。この記事のなかで、土野さんはBBCが「非常に尊敬されているジャーナリトKenji Gotoが殺害された」と報じ、アルジェジーラも彼を「優れたベテラン・ジャーナリスト」と言いその死を悼んだと紹介しています。
http://lgmi.jp/detail.php?id=2427
 
希望の火
フリージャーナリストだった後藤健二さんは、紛争地帯の子どもたちに笑顔を取り戻してほしいと願って活動していたといいます。今、後藤さんの国内外の友人や同業者たちが、「イスラム国」がインターネットに投稿した画像ではなく、後藤さんの生前の活動を伝える写真を積極的に世界に配信する運動をはじめています。
参照:ハフィントンポスト
http://www.huffingtonpost.jp/2015/01/31/kenji-goto-forever-alive_n_6586852.html
 
「暴力主義」に対して「非暴力主義」を、という主張に現実性がないと感じる向きもあるでしょう。しかし、これこそ真のリアリズムではないでしょうか。ユダヤ人強制収容所という絶望的な状況に希望を捨てなかったオーストリアの精神科医ヴィクトール・エミール・フランクルのことを、1/29のリグミの解説で取り上げました。600万人ともいわれる想像を絶する数の人々が虐殺された現場に居合わせたフランクルは、戦後に報復ではなく、自省的な思索を通して、世界中の何千万人もの人々に深い洞察と希望の火をもたらしました。
http://lgmi.jp/detail.php?id=2423
 
映画『ガンジー』で、私の記憶に深く刻まれたシーンがあります。イスラム教徒との争いで幼子を殺されたヒンズー教徒の男性が、憎しみからイスラム教徒の赤子を殺害してしまい、その苦しみから抜けられず、ガンジーのもとを訪ねました。ガンジーは、深い悲しみを共有したあと、静かに言いました。「あなたが苦しみから解放される方法があります。イスラム教徒の孤児を養子にもらいないさい。そしてその子をイスラム教徒として育てるのです」。「恐怖」(テロ)に対して、無敵の力を発揮するものが何か。洞察と慰めと希望に満ちた逸話です。
 

(文責:梅本龍夫)



  1. 危機対応 日本の転機 首相「国際連携と邦人保護 両立」国際テロの時代
    http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20150202-OYT1T50144.html
  2. 秋葉原殺傷 死刑確定へ 最高裁 加藤被告の上告棄却
    http://www.yomiuri.co.jp/national/20150202-OYT1T50066.html
  3. TPP 車合意違反で対抗措置 日米最終調整 高い関税率を復活
    http://www.yomiuri.co.jp/economy/20150202-OYT1T50150.html

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/
 



  1. 「イスラム国」に適用困難 首相答弁 法人救出の安保法制
    http://www.asahi.com/articles/DA3S11583017.html
  2. むしろ中東と関係深める時「イスラム国」事件と日本
    http://www.asahi.com/articles/DA3S11583019.html
  3. 秋葉原殺傷事件 死刑判決確定へ 最高裁判決「酌量の余地ない」
    http://www.asahi.com/articles/ASH223JJ9H22UTIL00G.html

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/
 



  1. 政府、中東支援拡充「イスラム国」非難 国会決議へ
    http://mainichi.jp/shimen/news/m20150203ddm001030154000c.html
  2. 内なる野蛮 見つめよ 試される世界 イスラム過激派の衝撃
    http://sp.mainichi.jp/shimen/news/m20150203ddm001010122000c.html
  3. 秋葉原殺傷 死刑確定へ 最高裁判決「衝撃大きい」
    http://mainichi.jp/shimen/news/m20150203ddm001040103000c.html

(毎日jp http://mainichi.jp/
 



  1. 車保険 データ診断で安く 走行距離・安全運転 車載器を活用
    http://www.nikkei.com/article/DGKKASDF02H0K_S5A200C1MM8000/
  2. 「断捨離」で企業伸ばす 目覚める資本質を磨く95兆円 上場会社の手元資金
    http://www.nikkei.com/article/DGKKASGD19HBM_Q5A120C1MM8000/
  3. 米国防予算案63兆円 対テロ重視 緊縮から転換 最大要求
    http://www.nikkei.com/article/DGKKASGM02H5J_S5A200C1MM8000/

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/
 



  1. 後藤さん解放「窓口一定せず」「イスラム国」真剣さなく交渉頓挫
    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150203-00000077-san-m_est
  2. 秋葉原殺傷 死刑確定へ 最高裁 加藤被告の上告棄却
    http://www.sankei.com/affairs/news/150202/afr1502020015-n1.html
  3. 敵作り 戦い続け組織維持 日本人人質「殺害」
    http://www.sankei.com/world/news/150203/wor1502030019-n1.html

(MSN産経ニュース http://sankei.jp.msn.com/
 



  1. やまぬテロの悲劇 自衛隊派遣 米支えた10年余
    http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015020302000114.html
  2. 節電家庭に商品券 世田谷区 今夏から
    http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015020302000113.html
  3. 機械冷却液 浄化し再生 探訪 都の企業ビジネス交流展編

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/
 


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