2012.10.25 thu

新聞1面トップ 2012年10月25日【解説】健全な悲観主義

新聞1面トップ 2012年10月25日【解説】健全な悲観主義


【リグミの解説】

「グラス半分の水」
「Glass Half Empty or Half Full?」。9月15日の「リグミの解説」で触れた英国の劇作家ジョージ・バーナード・ショーの言葉
です。グラスに半分残る水を見て「まだ半分ある」と見る楽観主義者と、「もう半分しかない」と見る悲観主義者。政府が「2030年代原発ゼロ」を決定したことを、各紙が大きく報道したことについて、コメントしました。

その後、米政府の圧力により、「2030年代原発ゼロ」の閣議決定を直前になって取りやめました。この時は、悲観派が優勢になったということでしょうか。米政府の本音は、どこにあるのでしょうか。

核不拡散の大義
朝日新聞の10月24日の15面は、「原発ゼロ、米が危ぶむ理由」というタイトルで、米戦略国際問題研究所(CSIS)所長でクリン
ト政権の国防副長官だったジョン・ハレム氏のインタビュー記事でした。原発ゼロを米国が懸念する第1の理由に、「日本の経済を弱体化させる」ことを挙げていました。そしてより米国の利益に直結すると思われる理由が、「米国が核不拡散体制のために原発大国の日本という最強のパートナーが必要」というもの。

核不拡散は、米欧日の3極体制で進めてきました。これから原発を増やそうとしている中国、インド、ペルシャ湾岸諸国、ロシアは、核不拡散の目的をかならずしも共有しておらず、拡散防止の先頭に立って推進する国ではない、とハレムさんは言います。

しかし、歴史的には、米国は核兵器の開発を進めたインドとパキスタンを、冷戦時代のパワーバランス上の理由から容認したの
ではないでしょうか。両国は、「核兵器の不拡散に関する条約」の非締結国です。日本から見ると、米国は北朝鮮の核ミサイル開発に対しても、十分な抑止力を発揮したようには見えません。イランの核開発阻止には動いていますが、米国が第2次世界大戦戦後、一貫して支持するイスラエルは、核不拡散条約の非締結国です。

パキスタンの「核開発の父」カーン博士は、イラン・リ
ビア・北朝鮮などに核兵器の製造技術を密売し、核拡散を進めたと言われます(参照:Wikipedia)。核拡散のリスクは、原発以前に核兵器というより直接的リスクとして、着実に広まってしまっています。

日本語では、「原子力発電」と「核兵器」は別の漢字ですが、英語では「Nuclear Weapon」「Nuclear Power」で共に「核」です。日本が「核」の平和利用の最強パートナーである、ということはその通りかもしれませんが、それは核問題の「半分」でしかありません。核の軍事利用の拡散こそ、「もう半分しかない」と大いに懸念し、力を結集すべきではないでしょうか。

原発から30キロ圏の意味
今日の朝日、毎日、東京の3紙の1面トップ記事は、原子力規制委が発表した新しい基準案となる「原発から30キロ圏内の緊急防護
措置区域(UPZ)」と、原発事故での放射性物質の拡散シミュレーション結果についてです。今回の放射能拡散予測は、東京電力柏崎刈羽、福島第2、関西電力大飯、中部電力浜岡の4原発で、事故から1週間の総被曝線量が100ミリシーベルト超の地域が、30キロ以遠にも及ぶことを示しています。

ただし、これは米国のソフトを使って計算したもので、地形を考慮できず、1時間ごとの風向きは常に一定と仮定したものです。このため、放射性物質は平地の上空を一方向に飛び続け、風があまり吹かない方角は汚染されない計算になります(東京新聞1面)。

これを聞くと、「より悲観的」に見るべきなのか、「楽観していい」のか迷います。日本が巨費を投じて開発した「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)」の方が、より正確なシミュレーションとなるのではと想像しますが、今回は使用されませんでした。その理由は、SPPEEDIは84時間(3日半)しか計算できないから。原子力規制委は、「事故から7日間の累積被曝量が100ミリシーベルトになる距離」を必要としていたのです。

「7日間で100ミリシーベルト」の深刻度
では、「7日間の累積被曝量が100ミリシーベルト」はどのぐらいの深刻度なのでしょうか。100ミリシーベルトは、一般人が100年間に許され
る被曝線量です。それを1週間で被曝するのですから、集積度は5200倍という計算になります。「30キロ防災」は、そういうエリアです。対象市町村は145、人口は480万人に上ります。

これだけでも大変なことですが、素人目に考えても、30キロを超えて突然被曝線量が激減するとは想定しにくいもの。深刻な原発事故が起きたとき、7日間で100シーベルトは30キロ圏で収まったとしても、その外側ではどうなっているのか。無責任な当て勘の話は本来すべきではないのですが、たとえば50キロ圏で30ミリシーベルト、80キロ圏で10ミリシーベルトぐらいにはなるのではないか。そんな懸念があります。仮にこの数値が当らずとも遠からずだとしたら、一般人の10~30年の許容被曝線量を一週間で浴びることになります。

健全な悲観主義
10月4日の「リグミの解説」で、以下の指摘をしました。

 

「福島第1原発事故が起きたあと、米国は自国民に対して50マイル(80キロ)の避難勧告を出しました。最悪を想定するのが米国流とも言われましたが、実際にはこれでも楽観的な数値だったようです。原発規制委は、ヨウ素を備蓄する範囲として50キロ圏を検討しており、これだけで対象人口は30キロ圏の3倍の1370万人に増えます。さらに大都市も対象に入る80キロ圏では、対象人口はどこまで膨れ上がるのでしょうか」


過剰反応は、厳に慎みたいと思います。その上での提言です。「核」(原発=Nuclear Power、核兵器=Nuclear Weapon)に関しては、「健全な悲観主義」が必要ではないか。「グラスにはまだ半分の水がある。しかし水は着実に減っている」。

(文責:梅本龍夫)



讀賣新聞

【記事要約】 「北京の農産品展示、支援中止」

  • 農林水産省は、中国大使館の元1等書記官が関与した農産物の対中輸出事業を巡り、同事業への支援を含む関与を打ち切る方針を固めた。元書記官は、外国登録法違反容疑で書類送検された(起訴猶予)。
  • 事業の中核となる北京の展示施設の3階分を利用する契約が、実際には2階分のみであり、計画通りに使用できない状態であることが、農水省の現地調査で判明した。事業の運営団体と中国の国有会社側に賃料の使途などについて説明を求めたが、明確な回答は得られなかった。このため同省は、運営は不透明と判断した。
  • 同事業は、筒井信隆・元農水副大臣らが主導して始まった。機密文書漏洩問題が発生し、元書記官が機密文書に接触した疑いもあったが、流出経路は特定されずにいる。農水省は、漏洩問題への関与も責任もあいまいなまま、同省の調査を事実上終了する。

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/


朝日新聞

【記事要約】 「再稼働、高いハードル」

  • 原子力規制委員会が24日に、全国16原発の放射能拡散予測結果を公表したことで、原発事故の影響の深刻さがあらためて浮き彫りになった。影響が及ぶと想定される対象自治体の数と人口が増大し、住民避難などを定めた自治体の防災計画づくりが困難になる。
  • 今回の拡散予測で、東京電力柏崎刈羽、福島第2、関西電力大飯、中部電力浜岡の4原発で、事故から1週間の総被曝線量が100ミリシーベルト超の地域が、30キロ以遠にも及ぶことが判明した。規制委は、新しい原子力防災対策の重点区域の目安を原発から30キロ圏に設定する方針で、対象市町村は145、人口は480万人になる。今回の結果で、区域内の自治体の数はさらに増えると予想される。
  • 規制委の田中委員長は、「防災計画自体が(原発の)再稼働の条件ではないが、計画ができないと稼働は困難になる」と語る。今回の拡散予測が出たことで、停止した原発の再稼働に向けたハードルが高まり、再稼働の可否を判別するふるい分けにもつながりそうだ。

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/


毎日新聞

【記事要約】 「原発避難『手段確保』2県」

  • 原子力規制委員会が24日にまとめた「原子力災害対策指針案」で、原発から30キロ圏内の緊急防護措置区域(UPZ)に含まれる21道府県について、7道県が住民の避難先を確保できている。6県も一部確保できている。しかし、非難手段を確保済みなのは2県のみ。安定ヨウ素剤の配布は、16道県が国の議論待ちの状況だ。毎日新聞のアンケートで判明した。
  • UPZ圏に含まれる21道府県は、北海道、青森、宮城、福島、茨城、新潟、富山、石川、福井、岐阜、静岡、滋賀、京都、鳥取、島根、山口、愛媛、福岡、佐賀、長崎、鹿児島。その準備状況は、以下の通り。▽「避難先確保済み」=北海道、石川、鳥取、山口、福岡、佐賀、長崎、▽「避難先一部確保」=青森、福島、茨城、福井、滋賀、鹿児島、▽「非難手段確保済み」=山口、福岡―。
  • 非難手段については、UPZ圏内人口が93万人と最多の茨城県が「避難範囲やどの段階で避難するか決まらないと手段を考えられない」と回答。同2番目の74万人がいる静岡県は、「経験のない広域避難が必要となるため今後の検討課題」とする。

(毎日jp http://mainichi.jp/

日経新聞

【記事要約】 「デジタル家電、半年で半額」

  • デジタルカメラや薄型テレビ、録音再生機(レコーダー)パソコンなど、デジタル家電の値下がりが加速している。今春発売のモデルの多くが、半年で50%前後下落している。5年前は、同期間で10~30%の下落だった。
  • 具体的な価格下落率は、以下の通り。▽パソコン=今春発売の68機種の平均下落率51%、▽デジカメ=今年3月発売の103機種の平均下落率47%、▽レコーダー=今春発売の4機種の平均下落率44%、▽薄型テレビ=今春発売の29機種の平均下落率34%―。
  • 消費者は「家電デフレ」に慣れており、高機能の新製品を価格が下がってから買うメリットを享受できている。一方、家電メーカーや量販店は、利益を稼ぎにくい状況が強まっている。米アップルのiPadのような独創性のあるヒット商品が登場しない限り、この傾向は続きそうだ。

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/


東京新聞

【記事要約】 「『30キロ防災』混乱の恐れ」

  • 原子力規制委員会は24日、原発事故に際しての放射性物質の拡散予測マップと、自治体がまとめる防災計画の基準となる「原子力災害対策指針」の素案を公表した。規制委は今月中に指針をまとめる。原発から30キロ圏内の緊急防護措置区域(UPZ)にある自治体は、来年3月までに防災計画を立てる。
  • 放射性物質の拡散予測マップは、事故から1週間の累積被曝線量が100ミリシーベルトになる距離を計算したもの。この計算は、一般人が100年間に許される被曝線量を、たった1週間で浴びるという極めて高いもの。拡散予測では、東京電力刈羽、福島第2、中部電力浜岡、関西電力大飯の4原発で、UPZを超えて、深刻な汚染が広がるとされた地点があった。
  • 今回の予測マップは、地形を考慮していない上に、風があまり吹かない方角では、放射能汚染がないという誤解を与えかねない結果になっている。マップの情報は参考程度でしかない。規制委の田中委員長は、「(UPZの範囲は)30キロで提案する」とし、さらなる拡大はない考えを示した。自治体が対策を検討する中で、混乱が広がる恐れもある。

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)



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