2012.09.15 sat

新聞1面トップ 2012年9月15日

新聞1面トップ 2012年9月15日


【リグミの解説】

「もう半分、まだ半分」
英国の劇作家ジョージ・バーナード・ショーは、「Glass Half Empty or Half Full?」という格言を残したそうです。グラスに半分残る水を見て「まだ半分ある」と見る楽観主義者と、「もう半分しかない」と見る悲観主義者。性格判断としてよく持ち出されますが、確かに、目の前の現実の課題を判断し行動する際の「価値観」や「思い」の違いを、くっきりと浮かび上がらせる喩え話になっていると思います(参照:Wikipedia)。


本日の新聞1面トップは、読売、朝日、毎日、日経、東京の5紙すべて、「2030年代原発ゼロを政府が決定」の記事が大きく掲げられています。1955年に原子力基本法が成立して以来60年近く一貫して続けられてきた原子力エネルギー政策が、大きく転換されました。それは、我が国の行く末をどう見立て、どう対応していくのかを決める大きな上での大きな試金石になるだけに、各紙とも力を入れた報道となっています。

報道姿勢の違い
各紙の報道姿勢は、1面トップ記事と社説の扱いに明瞭に出ています。トップ記事は、後段の要約を参照いただき、ここでは社説のタイトルを比較します:

  • 読売新聞: 「『原発ゼロ』は戦略に値しない ~経済・雇用への打撃軽視するな~」
  • 朝日新聞: 「新エネルギー政策 ~原発ゼロを確かにものに~」
  • 毎日新聞: 「実現への覚悟を持とう ~原発ゼロ政策~」
  • 日経新聞: 「国益損なう『原発ゼロ』には異議がある」
  • 東京新聞: 「もっと早く原発ゼロへ ~政府のエネルギー方針~」(他に2ページ通しの「論説特集」)

原発報道マトリクス
今年の6月に、野田首相が関西電力大飯原発の再稼働を決定したとき、世論は大きく動き、新聞各紙の報道姿勢の「違い」も鮮明になりました。そのときリグミは、「サードビュー」として原発報道マトリクスをまとめました。今回、あらためてマップを作り直しました(添付参照)。

この数ヵ月で、各紙の報道姿勢は、以下のように変化したようです。

  • 読売新聞: 一層「原発賛成」「経済と生活優先」に変化
  • 日経新聞: 一層「原発賛成」「経済と生活優先」に変化
  • 毎日新聞: 中立的立場から、やや「原発反対」「安全と安心優先」に変化
  • 朝日新聞: 一層「原発反対」「安全と安心優先」に変化
  • 東京新聞: 一貫して「原発反対」「安全と安心優先」を主張

「半分の水」からの出発
民主党政権が決定した「新エネルギー・環境戦略」は、原発ゼロを目指すものであり、象徴的に言えば、日本のエネルギー事情が「半分の水」になることを意味します。原発がなくなったら「コップの水が半分しかない」状態になる、と警告するのが読売と日経。「コップの水はまだ半分ある」と主張するのが朝日と東京。どちらの立場であれ、54基の原発が存在する現実は変わりません。そして「原発稼働ゼロ」となった後も、廃炉と使用済み核燃料の最終処理という難題が残ります。


「もう半分しかない」の立場に対しては、エネルギー産業のイノベーションや、生活と経済活動の現場における創意工夫によって、困難を着実に克服していく力が日本にはある、という「健全な楽観主義」を提唱したいと思います。また「まだ半分ある」の立場に対しては、燃料代の上昇や資源の海外依存のリスク、代替エネルギー開発の難しさなどを直視する「健全な悲観主義」を求めたいと思います。

原発賛成派も反対派も、同じグラスの水を見ています。今回出された「2030年代原発ゼロ」は、まだまだ生煮えで矛盾に満ちたものです。しかし、そのことをあげつらうのでなく、「半分の水」という出発点を共有し、合意することが大切です。そこから、「グラスを満たす水」への長い道程が始まります。

(文責:梅本龍夫)



讀賣新聞

【記事】 「2030年代原発ゼロ」決定

  • 政府は14日、エネルギー・環境会議を開き、「2030年代原発ゼロ」を目標に掲げる「核心的エネルギー・環境戦略」を決定した。
  • 同戦略の骨子は、以下の7点となる。①2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入、②原発の40年運転規制の厳格適用、③原子力規制委員会が安全性を確認した原発は重要電源として活用、④原発の新増設は行わない、⑤使用済み核燃料の再処理事業を継続、⑥「もんじゅ」の実用化を断念、⑦国際機関や諸外国と緊密に協議し政策を不断に見直し―。
  • 原発ゼロを掲げながら、原発を重要電源と位置付け、使用済み核燃料の再処理を継続するなど、矛盾する方針が盛り込まれた。再生可能エネルギーを2030年までに2010年比の3倍にする高い目標を掲げる一方で、電気料金の増加、火力依存体質の強まり、地球温暖化対策への逆行など問題が多く、原発ゼロを実現するための道筋は示せていない。

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/


朝日新聞

【記事】 矛盾抱え「原発ゼロ」

  • 野田政権は、「2030年代に原発稼働ゼロ」を目指す新しいエネルギー政策「核心的エネルギー・環境戦略」を決定した。東京電力福島第1原発事故後に高まった「脱原発」を求める民意に動かされ、原発政策を大きく転換した。
  • 同戦略は、政権が進める中長期的エネルギー政策の大枠を示したもの。「2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」と定め、実現に向け、①「40年廃炉」の厳格適用、②原子力規制委員会が安全を確認した原発のみ再稼働、③原発の新増設は行わない―とする3原則を提示した。
  • ただ、再生可能エネルギーの具体策づくりは年末まで先送りされるなど、戦略実現の具体的道筋は明記されておらず、国際情勢などの変化により「政策を不断に見直す」方針も示された。

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/


毎日新聞

【記事】 「2030年代原発ゼロ」決定

  • 政府は14日、「2030年代に原発稼働ゼロを可能とする」ことを目標に掲げた「核心的エネルギー・環境戦略」を決定した。東京電力福島1原発事故を受け、1955年の原子力基本法の成立以来続いてきた原子力エネルギー政策を転換する。
  • 同戦略は、①40年運転制限の厳格適用、②原子力規制委員会の安全確認を得た原発のみ再稼働、③原発の新増設は行わない―の3原則を設定した。ただ、安全を確認した原発を「重要電源」と位置付けて再稼働させること、原発使用を前提とする「核燃料サイクル」も継続するなど、矛盾した内容を含む。
  • 政府は目標達成に向け、再生可能エネルギー拡大の具体化策や、新たな温暖化対策を年末までに決める。

(毎日jp http://mainichi.jp/

日経新聞

【記事】 原発ゼロ、矛盾随所に

  • 政府は14日、2030年代に原発ゼロを目標とする、新エネルギー・環境戦略を決定した。「原発に依存しない社会の一日も早い実現」をうたう一方で、安全確認された原発を再稼働させ、使用済み核燃料の再処理事業も継続するとしており、矛盾をはらみ実現性の危うさを抱える内容となっている。
  • 新戦略の骨子と問題点は以下の通り。①「2030年代に原発稼働ゼロ」、②「40年運転制限・安全確認された原発のみ再稼働・新増設はなし」、③「使用済み核燃料の再処理事業を継続」、④「2030年の再生可能エネルギーの発電量を2010年の約3倍に」、⑤「電力システム改革、温暖化対策、原子力の技術維持策は年末に先送り」。
  • 新戦略の問題点は以下の通り(上記の骨子と対応した指摘)。①⇒実現性や時期は不透明、②⇒今後は原子力規制委員会の個別判断であること、また建設中の原発の扱いに触れていない、③⇒原発稼働ゼロ目標と矛盾する、④⇒目標達成のめど立たず、電気料金上昇の可能性がある、⑤⇒新市場や社会変化の青写真を描けていない。

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/


東京新聞

【記事】 脱原発、国民意思から後退

  • 政府は14日、2030年代の原発ゼロを明記した「核心的エネルギー・環境戦略」を決定した。戦略には判断の先送りや、内容の矛盾などの問題がある。
  • 新戦略の骨子は以下の通り。①2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう政策資源を投入、②40年運転制限・安全性を確認した原発のみ再稼働・新増設はなし、③核燃料サイクルは聖処理事業を継続・直接処分の在り方などを関連自治体と議論、④高速増殖炉もんじゅは放射性廃棄物の減量研究の成果を確認、⑤再生可能エネルギーの発電量を2030年に2010年の3倍に、⑥原発立地自治体への支援措置を講じる。
  • 使用済み核燃料から新たな核燃料をつくる再処理事業は、原発ゼロを前提にすれば不要となるが、継続が決定された。原発稼働は原則40年とするが、安全性が確認されれば期間内は「重要電源」として再稼働される。結果、2030年時点の原発依存度は、実質的に15%となる。多くの国民が求める2030年までの稼働ゼロから大きく後退する内容となっている。


(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)


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