【リグミの解説】
解決困難な「二項対立」
原発のサードビュー(さまざまな見方・考え方を客観的に俯瞰する視点)を「見える化」するひとつの手法として、2軸のマトリクスの活用が考えられます。9月15日の「リグミの解説」で、横軸に「原発賛成―原発反対」、縦軸に「経済と生活を優先―安全と安心を優先」を使用しました(参照:9月15日解説)。
この縦軸は、原発論議の対立軸の基本になっていると思います。脱原発派は「安全をないがしろにしては安心して暮らせない」と言い、原発推進派は「原発がなければエネルギーコストが上昇し経済が成り立たない」と言います。一方で、「安心して暮らしたいが、生活が困窮するのも困る」と考える人は、立場を決めかね、この対立軸の中間に立ち止まっています。
「中間うろうろ派」の出番
でも、中間のあたりにうろうろしていては、この難しい課題を解決することはできません。「立場」をはっきりさせ、進む方向をはっきりさせる必要があります。そこで、「中間うろうろ派」は奇策を思いつきます。脱原発派と原発推進派の両方に「安全・安心と経済・生活が、同時に成り立つ方法を考えてくれ」と提案。そして、より魅力的で説得力のある方に1票を投じる、と約束します。
ここで「中間うろうろ派」は、優柔不断で日和見、傍観者的で無責任な立場を捨て、積極的に2つの派閥に働きかけます。「原発賛成―原発反対」は、さまざまな理由があって選択された立場なので、簡単には折り合えないもの。それでも、「経済と生活を優先―安全と安心を優先」という一番基本的な相違点で、何らかの妥協点を探れれば、現実的な解決の方向性を定めることができます。
「二項同体」の伝統
これは実は、日本人の伝統的な知恵です。「白黒」「善悪」をはっきりさせる西洋的な「二項対立」に対して、日本人は昔から「二項同体」ともいうべきアプローチを取ってきた、と編集工学研究所の松岡正剛さんは言います。古くは中国から漢字を輸入し、それを和語の「かな」と融合して、独特の文字文化を作った例。明治維新以後の和洋折衷の建造物や料理、生活習慣など。
今日の日経新聞の1面トップは、トヨタがハイブリッド車(HV)を倍増させるという記事です。HVは、ガソリンと電気という「対立軸」を同時に成り立たせた「いいとこどり」の産物で、「二項同体」の典型ともいえます。HVが登場したとき、欧州自動車メーカーは、どこも相手にしませんでした。それが今や年産120万台となり、年産150万台の独BMWに迫る勢いです。
トヨタをはじめとする日本車は、「クオリティー」と「コスト」は「二項対立」するものというのが常識であった1970~80年代に、燃費が良く、故障せず、質感も高く、しかも安いクルマを大量に作り、世界市場を席巻していきました。「二項同体」は、日本のお家芸であり、伝統ともいえます。
新しい「ソフトパワー」
賛成派と反対派が歩み寄れない原発問題。領土問題で揺れる日中関係と日韓関係。日本は今、内も外も「二項対立」の嵐が吹き荒れています。ここは「二項同体」の伝統を復活させる時です。しかし、知恵の発揮の仕方は、昔と少し違います。
「中間うろうろ派」が立ち上がり、「当事者」となって対立する2つの立場それぞれに徹底して耳を傾け、理解と共感を示す。そして、そこから見えてくる第3の道を一緒に考えていく。「説明責任」や「見える化」を徹底し、プロセスをオープンにします。土俵のルールを明示し、誰もが理解納得できる客観的な審判を心がけます。
争い事の現場で、徹底したチームプレイで、こうした創意工夫を積み上げていけば、21世紀の今にふさわしい「二項同体」が見えてくると思います。それはきっと、グローバルな価値をもつ日本の新たな「ソフトパワー」になっていくでしょう。
(文責:梅本龍夫)
讀賣新聞
【記事】 「漢字書く力衰えた」66%
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事】 日本製品の税関検査強化
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事】 シャープ、インテル提携交渉
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事】 ハイブリッド車倍増
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事】 3党合意、破棄は1人