【リグミの解説】
歴史を振り返る余裕
昨日は新聞休刊日でした。ネットでは休刊ということがなく、情報が24時間365日回遊していますが、そういう情報の渦からしばし離れることにも効用があります。ゆったりとした時間の感覚を取りもどすと、余裕をもって歴史をふりかえる時間をもつ機会にもなります。
国際ジャーナリストの土野繁樹氏の最新エッセーがリグミ・ポータルに掲載されています。今回は、虎と呼ばれフランスで最も人気のある政治家のひとりジョルジュ・クレマンソー(1841-1929)のことを取り上げています。香合のコレクターであり、仏教にも関心を深めていた意外な側面が描かれています。
クレマンソーと西園寺の出会い
私自身は不勉強で、クレマンソーのことは知らなかったのですが、土野氏は「20回以上も決闘をした激情の人、ドレフュス裁判で、ドイツのスパイとして断罪されたユダヤ人大尉の無実を主張して、軍と右翼勢力と戦ったジャーナリスト、第一次世界大戦中、首相としてフランスを勝利に導いた英雄、べルサイユ条約の妥結と国際連盟の創立を決めたパリ講和会議の議長、西園寺公望の若い頃からの友人」と簡潔に紹介しています。これだけで、人物像が立体的に香り立つ感じがします。
クレマンソーが日本美術に興味をいただくようになった背景には、西園寺公望との出会いがあったそうです。いっぽう「西園寺にとってクレマンソーは師匠で、お手本だった」と土野氏は紹介しています。
西園寺は、貴族院副議長、文部大臣、外務大臣、伊藤博文の病気療養中には内閣総理大臣臨時代理を務め、のちに内閣総理大臣もつとめ、第1次西園寺内閣、第2次西園寺内閣を組閣しました(参照:Wikipedia)。土野氏は、クレマンソーと西園寺の交流をつぎのように紹介しています。
「1880年、西園寺はデモクラシーの信奉者となり帰国する。当時、日本は自由民権運動の昂揚期で、運動に共鳴した西園寺は中江兆民と共に『東洋自由新聞』を創刊し社長となる。しかし、皇室の圧力で社長を辞めた頃から、西園寺の急進改革思想も萎んでいく。1919年、クレマンソーはパリ講和会議の日本代表である西園寺と何十年ぶりかで再会する。彼はそのときの印象を『かつての燃えるような情熱の持ち主は皮肉屋の老人になっていた』と書き失望している。」
日仏の交流史
リベラル、革新というと、政治の世界をもっぱら思い浮かべますが、今回のエッセーで、実は文化こそ革新と自由によって変化し、前進することを実感しました。このエッセーを通して、フランスで印象派が生まれた背景、育てた人々の存在などを知ることもできました。
日本とフランスは、互いの美意識と文化の洗練を理解し尊敬し合う関係に見えますが、その源流はクレマンソーの時代にあったのかもしれません。歴史をひもとくと、日仏の深い交流によって、さまざまなものが生み出され、人類の知的財産に大きな貢献をしたことがわかります。
政治の世界においてはどうだったのでしょうか。西園寺公望の逸話を読んで、この政治家が日本の近代史において果たした役割が気になりました。もし西園寺がクレマンソーなみの骨太な政治家であったなら、日本の歴史はどうなっていたのでしょうか。
(文責:梅本龍夫)
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