秘密の入り口 (ASHINARI)
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━━◆【2013年11月18日(月)~11月24(日)】 ◆━━━━━━━━━━━━━━
【先週の核心】
永遠に秘密
小泉元首相が「原発ゼロ」が正しいと確信した背景には、フィンランドの高レベル放射性廃棄物の最終処分場「オンカロ」を訪問した実体験があります。その「オンカロ」の意味は、「空洞」「隠された場所」です。
ドキュメンタリー映画『100,000年後の安全』で、「オンカロ」を推進しているフィンランドの政府関係者や専門家が、10万年間核のゴミを封印することの意味を真剣に模索するシーンが出てきます。見えず、聞こえず、匂いも味もなく、触ることもできない放射能。しかし高レベルの放射性廃棄物は、近づけば確実な死が待っている。そのことをどうやって警告するか。
10万年という途方もない時間の彼方まで見通す力は、人間にはありません。そのときまで通用する言語がはたしてあるのか。そもそもそのとき人類はまだ生存しているのか。異なった生物が地球で繁栄していたとして、では未来の人類や他の生物にどう真実を伝えるのか。この未曾有(みぞう)の難問にぶつかったオンカロの関係者は、「永遠に秘密」にすることを選びました。
純粋な好奇心
人間の最大の特徴は、「好奇心」です。人類の租がアフリカを離れて地球のあらゆる場所に移動していった理由も、科学文明を発展させた理由も、「純粋な好奇心」を抜きには説明しきれません。未来の人類や新生物の「好奇心」を少しでも刺激すれば、彼らはそこに何があるか知りたくなり、オンカロを掘り返すだろう。だから、「永遠に秘密」にしなければならない。
オンカロの核ゴミ埋蔵スペースが満杯となり、原発の使用が終わる22世紀に、フィンランド政府はオンカロの入り口を厳重に封印し、地下に何かが埋蔵されているという痕跡を完全に消し去る予定です。しかし、オンカロは現在は「秘密」ではありません。それどころか、世界中の人々がその存在を知っています。オンカロの入り口を封印する来世紀以降、どうやってオンカロの記録と記憶を消し去っていくのでしょうか。
究極の秘密も明かすのが人間
「秘密」とは何でしょうか。オンカロの話を知ると、「永遠に秘密」とは「完全な忘却」を求めることだと気づかされます。では何を忘却してもらいたいのか。地下に核のゴミがあるという単純な事実だけでしょうか。人類の「好奇心」が核エネルギーという便利だが同時にひどく厄介なものを発見し、さんざん利用したあげく、その後始末に苦労した歴史そのものを忘れたい。誰もそうは言いませんが、そんな背景が透けて見える気がします。
空海が中国から持ち帰った密教は、「秘密の教え」という意味です。それまでの仏教よりも深い教えを指して「秘密」と呼びました。空海が伝えた密教は、大日如来を中心とした宇宙の真理でした。宗教が「究極の秘密」を説くのは、人間が忘れ去ってしまった「世界の真実」を思い出させるためです。宗教や哲学が語る「秘密」は、心を苦しみから救う宝物です。
人間は、「純粋な好奇心」を完全には封印できません。たとえそれが苦しみをもたらすとしても、人類は前進することを選んできました。空海は、人々を救済するために「究極の秘密」を明らかにしました。何かを「永遠に秘密」にしようとすることは、人間の本質に反する行為です。それにもかかわらず、なぜある種のことは「永遠に秘密」にしなければならないのか。オンカロが問う重たいテーマです。
【リグミの解説】タイトルとリンク
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2013年11月 18日(月)【解説】それぞれの思い
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2013年11月19日(火)【解説】「普遍の原理」の未来
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2013年11月 20日(水)【解説】芸術の産婆役
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2013年11月 21日(木)【解説】誰がケーキを切るのか
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2013年11月22日(金)【解説】年賀状のような新聞
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2013年11月 23日(土)【メモ】政治と金はつづく
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2013年11月 24日(日)【メモ】選ぶ権利と知る義務
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━━◆【2013年11月25日(月)~12月1日(日)】 ◆━━━━━━━━━━━━━━
【今週の主な予定】
11月25日(月) 「特定秘密保護法案」を衆院国家安全保障特別委員会で採決の可能性
11月26日(火) 「特定秘密保護法案」を衆院本会議で採決の可能性
【今週の着眼】
「特定秘密保護法案」可決の可能性
国会では、「特定秘密保護法案」の審議が進んでいます。先週は与野党の協議が続きましたが、有効な修正案に到達したようには見えません。同法案は、早ければ25日から26日にかけて裁決される可能性もあります。
この法案の問題を解決する視点は、「リグミの解説」で取り上げてきました。性急に裁決を求めず、より意味ある協議がされることを願います。
国家を企業のように効率化する
内田樹・神戸女学院大名誉教授は、「特定秘密保護法案」は経済成長を最優先の政策課題に掲げ、経済発展に都合のよい形に社会制度全体を設計し直そうとする流れの中に位置づけられると指摘しています。(11月23日朝日新聞1面)。
株式会社のような「集権的、非民主的なシステムの方が金もうけのためには効率的」であり、「国民が知ることのできる情報を制限すれば、それだけ議論の余地は少なくなり、政策決定はスピードアップする」からです。
「永年に秘密」は正当化できるか
確かに企業経営は、「秘密」をたくさんかかえこんでいます。一般の従業員や外部に知らせない方が競争優位を保て、より多くの利益を得られると考えるからです。一方で、企業経営において、「永遠に秘密」にすべき事項は本来存在しません。そのような契約事項などが存在するとすれば、それは相当にグレーな内容とみなすべきでしょう。
では国家はどうでしょうか。今の法案の議論では、結果として「永遠に秘密」にされる情報が出てきます。それはどのような理由で正当化されるのか、私は不勉強でよくわかりません。国民主権の国家運営の原則は、どのような秘密も、いつかは歴史の法廷の前に立つ覚悟をもって秘密に留めるものだと思います。
政治における秘密保護と情報公開は、一対です。国民が自分たちの代表者を「選ぶ権利」と、代表者たちがしていることを「知る義務」もまた、一対です。
━━◆ 今週のロゴス ◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「適切な真理を言うのに、二つの道がある。
民衆には常に公然と、王侯には常に秘密に言うものである。」
― ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ ―(ドイツの詩人、劇作家、小説家)
*ロゴス: 古代ギリシアで「真理を語る言葉」の意味
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