2013.11.21 thu

新聞1面トップ 2013年11月21日【解説】誰がケーキを切るのか

新聞1面トップ 2013年11月21日【解説】誰がケーキを切るのか


【リグミの解説】

「1票の格差」の最高裁判決
「1票の格差」が最大2.42倍だった昨年の衆院選は違憲だとして、選挙無効を求めた訴訟の最高裁判決が出ました。結果は「違憲状態」。小選挙区の定数を「0増5減」した措置を一定の前進と評価しました。一方で、47都道府県に1議席ずつを最初に割り当てる「1人別枠方式」は、格差を生む構造的問題になっており、是正が必要としています。
 
読売、朝日、毎日、東京が1面トップで、日経と産経は2番記事で報道しています。各紙の社説の論調を比較します(「サードビュー」)。参考まで、判決に対する新聞社の評価を5段階で示します(5=高く評価する、4=ある程度評価する、3=中立的、2=あまり評価しない、1=まったく評価しない)。
 
<読売新聞> 評価4
・ 「1票の格差」の是正を絶対視せず、地域事情に配慮する必要性を認めたのは、現実的かつ極めて妥当な判断である。
・ 「1人別枠方式」が事実上残っていることについて、「構造的な問題が最終的に解決されているとはいえない」と言及したことは疑問だ。この方式の考え方を完全に排除すると、人口減が進む地方の有権者の声は反映されにくくなるのではないか。
 
<朝日新聞> 評価2
・ 「1票の格差」問題を放置してきた国会の怠慢をただせるのは、もはや司法しかない。だが、最高裁はきのうの判決で、その役割を避けた。最高裁は一歩踏み出して、「違憲」と断じるべきだった。
・ 最高裁が廃止を求めた「1人別枠方式」を実質的に温存したまま、定数の微調整でお茶を濁すのはもはや限界だ。
 
<毎日新聞> 評価2
・ 格差是正のための時間に客観的な物差しはなく、国会の裁量権を広くとらえ、「違憲」に踏み込まなかった。だが、こうした最高裁の消極的な姿勢は疑問だ。政治への配慮が、国会の怠慢を許すことに明らかにつながっているからだ。
・ 最高裁は、国民の基本的人権に関して、より厳格に憲法秩序を守る方向で審査権を行使するべきではないか。いくつもの高裁が政治への警告を積み重ねたのに、最高裁が腰を引いた印象はぬぐえない。
 
<日経新聞> 評価2
・ 1票の格差を厳しくとらえる近年の司法の流れからすると、後退した印象が拭えない。ただでさえ進んでいない選挙制度の抜本改革の動きが、さらに滞ることのないよう国会に強く求めたい。
・  危惧するのは、国会議員のなかに司法の判断に異議を唱える動きが強まっていることだ。「国権の最高機関である国会が最高裁の判決に従わなければならないのはおかしい」との論法も叫ばれる。
 
<産経新聞> 評価5
・ 司法がついに衆院選の「無効」に踏み込んだ。動かぬ国会に、司法の怒りが一線を越えさせたといえる。国会は速やかに「違憲」の状態を解消しなくてはならない。
・ 国会の側に「違憲状態」や「違憲」判決が出ても、選挙無効にはなるまいという、甘えや司法軽視はなかったか。
 
<東京新聞> 評価1
・ こんな理屈に合わない判決はない。一人別枠方式という“病根”が解消されないのに、最高裁は昨年の衆院選を「違憲状態」とした。一票の不平等は続く。「憲法の番人」たりうるだろうか。
・ 今回の最高裁判決は完全に腰が砕けている。「投票価値の平等は、選挙制度を決定する絶対基準でない」と述べた。国会の裁量権を大幅に認め、司法の限界の現実に屈服したわけだ。
 
評価の3つのポイント
評価が分かれるポイントは3つあります。第1が「1票の格差」の問題をどれだけ厳格に考えるかです。今回のリグミの評価ポイントは、この点を基本につけました。第2が「都市化と過疎化」の問題をどうとらえるかです。読売は、ここで現実的な判断を示しています。第3が「国会の司法軽視」の問題です。この点は全紙とも問題視していますが、今回の判決がもつ国会への影響力の評価では両極端に分かれています。
 
元最高裁判事で弁護士の滝井繁男氏は、「司法は国民の支持にナーバス」と語っています。「米国のように国民の多くが司法の役割を十分理解している国とは異なり、日本では立憲法治の役割の重要さへの理解がそれほど深く浸透しているとは思えません」(朝日新聞11月19日朝刊オピニオン面)。
 
東京新聞のコラム「筆洗」は、英国の政治哲学者、ジェームズ・ハリントンが権力分立の大切さを説明したエピソードを紹介しています。「二人の少女がケーキを公平に分けるにはどうするか。一人が自由に切ってもう一人が好きな方を先に選択する。そう合意すれば、公平に分けられる」。問題は、国会議員の党利党略がからみ、誰がケーキを切る側かすら、決められないことです。司法は、立法に「対話」を促す役割があります。「違憲状態」がいつまでも続くと、やがてケーキそのものが傷んでしまいます。
 

(文責:梅本龍夫)



  1. 昨年衆院選「違憲状態」1票格差 最高裁判決 最大2.43倍「0増5減」は評価
    http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/okayama/news/20131120-OYT8T01413.htm
  2. 維新と修正基本合意 秘密保護法案 与党26日に衆院通過
    http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20131120-OYT1T01000.htm
  3. 党利交錯 第三者機関カギ 1票の格差 改革の行方 上

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/
 



  1. 衆院選 最高裁「違憲状態」一票の格差 判断4度目 国会に是正継続要求
    http://www.asahi.com/articles/TKY201311200771.html
  2. 秘密保護法案 維新が妥協 微調整4党で提案へ
    http://www.asahi.com/articles/TKY201311200785.html
  3. 首都直下M7.3被害300兆円 防災会議専門委員 試算、約3倍に
    http://www.asahi.com/articles/TKY201311200774.html

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/
 



  1. 昨年衆院選「違憲状態」選挙無効は棄却 0増5減は「前進」
    http://senkyo.mainichi.jp/news/20131121ddm001010188000c.html
  2. 維新も与党と修正合意 主要論点で軒並み譲歩 秘密保護法案
    http://mainichi.jp/shimen/news/20131121ddm001010177000c.html
  3. 海底噴火で小島 小笠原

(毎日jp http://mainichi.jp/
 



  1. 中国でハイブリッド開発 トヨタ、現地2社と
    http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD200OJ_Q3A121C1MM8000/
  2. 12年衆院選 違憲状態 1票の格差2.43倍 是正一定の評価
    http://www.nikkei.com/article/DGXNZO62908690R21C13A1MM8000/
  3. 秘密保護法案、衆院通過へ 自公維が合意 指定権限見直し盛る
    http://www.nikkei.com/article/DGKDASFS2003L_Q3A121C1MM8000/

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/
 



  1. 秘密保護法 成立へ 自公維合意 最長60年、例外7項目
    http://sankei.jp.msn.com/politics/news/131121/plc13112100590000-n1.htm
  2. 昨年の衆院選「違憲状態」選挙無効請求は棄却
    http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/131120/trl13112015310004-n1.htm
  3. 江沢民氏らに逮捕状 スペイン裁判所 チベット族虐殺容疑
    http://sankei.jp.msn.com/world/news/131120/chn13112013450002-n1.htm

(MSN産経ニュース http://sankei.jp.msn.com/
 



  1. 昨年衆院選「違憲状態」政治に配慮?判決後退
    http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013112102000115.html
  2. 指定期間後退 維新賛成へ 30年-60年 例外7項目明記 秘密保護法案
    http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2013112102000116.html

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/
 


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