2013.10.28 mon

成人の通過儀礼 <リグミの目>2013年10月28日

成人の通過儀礼 <リグミの目>2013年10月28日



トンネルを抜けると (ASHINARI)
 
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━━◆【2013年10月21日(月)~10月27日(日)】 ◆━━━━━━━━━━━━━━
 
【先週の核心】
 
「食」は生きること
 
「和食」が「WASHOKU」という英語表記でユネスコの無形文化遺産に登録される見通しとなりました(参照:10月 23日(水)【解説】「いただきます」の心)。現代の私たちにとって、「食」は日常の平凡な行為です。晴れがましい外食の席などは、特別感に溢れますが例外的なことです。しかし考えてみれば、毎日3回、朝昼晩に食事をするという行為ほど、私たちの人生に深く刻まれたリズムはないかもしれません。
 
TVのドキュメンタリー番組で野生の動物を見ると、草食動物は体を維持するために、一日中食べ続けています。また食事を求めて集団で大移動をしたりします。一方の肉食動物は、獲物の草食動物を一度食べれば、何日も食べなくても平気なようですが、狩りが成功する保証はなく、常に飢えと背中合わせの生活をしています。草食動物も、肉食動物も、「生きるために食べている」のですが、同時に、「食べるために生きている」ようにも見えます。野生の世界では、「食」はまさに「生存の証」です。
 
人間は長く、自然のものを採取し、狩りをしてきましたが、やがて農業と牧畜を始めたことで、「食」を制御し、経済にしました。食物連鎖の頂点に立った人間は、「食」の本質である「生存の証」を忘れがちです。狩猟民族であれば、獲物を丁重に扱い、その魂が仲間たちのもとに戻れるように祈りを捧げます。それは、次の獲物も無事に得られるように、「命の循環」に謙虚に向き合う姿勢でした。
 
 
人生の節目を超える儀式
 
肉食動物が成長し親元を離れるとき、最初に覚えなければならないことが狩りであるように、狩猟民族の若者が一人前と認められるために超えなければならない壁として、一人で獲物を仕留められるようになることがあったと思います。こうした人生の節目となるタイミングに用意された挑戦や儀式を「通過儀礼」と呼びます。
 
「通過儀礼」の中で最も一般的なものが「成人式」です。子どもと大人を峻別するものは何か。大人になることは、親の庇護を離れ、一人で食べていけるようになることです。「食」が野生動物と同じレベルでたいへんだった時代には、大人になることは、ひとりで生死に向き合うことを意味しました。「成人の通過儀礼」は、晴れがましいものであると同時に、人生の難事に直面する厳しさを伴っていたといえます。
 
 
「中1ギャップ」
 
先週の新聞記事で、「中1ギャップ」という言葉を初めて知りました。「小学生から中学1年生に進級した際に被る、心理や学問、文化的なギャップと、それによるショック」と定義されています(参照:WIKIPEDIA)。卒業式や入学式は、現代人にとって典型的な「通過儀礼」です。大きなギャップを乗り越えるわけですから、ショックがあるのは当然です。
 
ただ、「中1ギャップ」に特有な問題として、「先輩後輩」の風土に突然放り込まれることがあると知り、話はそれほど単純ではないと気づきました。「小学校6年間で、比較的自由な学校生活を送り、高学年として、若い学年の生徒を任されてきた立場から、中学に入学する時点で、最少年となる。また、小学校時代まで学年違いでも友人であったが、それが崩壊することが多いこともショックの原因」とウィキペディアにあります。
 
「先輩後輩」は、日本の大人社会の根強い伝統です。それがわずか12歳の段階で刷り込まれるのが、今の中学校の現実です。肝心の大人社会の「先輩後輩」の原理原則が崩れ、よくもわるくも多様化してきているのに、子どもたちは年齢・学年という単一の基準で上下関係が峻別される社会構造を日々身につけさせられているとしたら、これはいささか理不尽なことのように思えます。
 
 
大人社会への通過儀礼
 
一歩譲って、「先輩後輩」の階層構造は、日本社会の「安全・安心」や「安定・調和」の維持に役立っている面もあると認めるとしても、これが12歳で直面すべきテーマなのかは再考してもいいのではないかと思います。なぜなら、「中1ショック」の内実は、「成人の通過儀礼」に近いからです。
 
現代日本の成人は20歳以上と法律で定めらており、成人式の対象者も20歳になる人たちです。しかし現代の成人式が、「通過儀礼」の本質を果たしているようには見えません。子どもたちは、その前に陰に陽に「大人」の社会の影響下に置かれています。「中1ショック」は、その最初の大きな通過点であり、実質的な大人社会への「通過儀礼」となっています。
 
「先輩後輩」という日本社会の規範をどう考えるかは、大きなテーマであると思います。いずれにしても、日本人のメンタリティーに深く刻まれており、簡単になくなるものではないと思います。であるならば、そうした文化に触れる最初のタイミングを遅らせてはどうかと思います。15歳ぐらいになれば、「先輩後輩」の意味するところを理解し吸収できる年齢と考えられます。
 
 
「15歳の春」の宴
 
小中一貫教育を徹底し、「9年生」までは子どもらしい環境の中で伸び伸びと育つ。そして義務教育の卒業となる15歳が、実質的な「成人の通過儀礼」のタイミングととらえる。ということになれば、高校の教師は、生徒たちを子ども扱いできません。一人の「大人」として敬意をもって接することが求められます。その上で、「先輩後輩」の社会秩序を学ばせていくのです。こうした教育環境を整えることができれば、「いじめ」の問題も、随分と違ったものになると思います。
 
やるべきことはたくさんありますが、手はじめに、「15歳の春」を盛大な「和食の宴」で祝うというのはどうでしょうか。日本人は今でも、「命をいただく」という意味を含む「いただきます」と唱和し、ごはんを食べ始めます。一日三度、「いただきます」と言える人は、日常の中に神聖な瞬間を迎え入れることができます。この精神を思い起こし、「15歳の春」に「日本の良き伝統を継承する大人のひとりになったのだよ」と、親や親せきや近隣の人々が子どもを盛大に祝福する。そんな新しい「通過儀礼」を見てみたい気がします。
 
 
【リグミの解説】タイトルとリンク
 
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 2013年10月21日(月)【解説】学びを促す
 http://lgmi.jp/detail.php?id=1773
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 2013年10月 22日(火)【解説】短期も長期も大事
 http://www.lgmi.jp/detail.php?id=1776
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 2013年10月 23日(水)【解説】「いただきます」の心
 http://www.lgmi.jp/detail.php?id=1778
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 2013年10月 24日(木)【解説】新しい教育、新しい社会
 http://www.lgmi.jp/detail.php?id=1779
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 2013年10月25 日(金)【解説】「WASHOKU」の基盤
 http://www.lgmi.jp/detail.php?id=1782
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 2013年10月 26日(土)【メモ】全体像を見る
 http://www.lgmi.jp/detail.php?id=1784
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 2013年10月 27日(日)【メモ】素朴な感情が動かす
 http://www.lgmi.jp/detail.php?id=1785
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━━◆【2013年10月28日(月)~11月3日(日)】 ◆━━━━━━━━━━━━━━
 
【今週の主な予定】
 
11月3日(日) 漫画家手塚治虫生誕85年
 
 
【今週の着眼】
 
「火の鳥」
 
11月3日は、手塚治虫生誕85年です。手塚治虫といえば、「鉄腕アトム」がまっさきに浮かびます。手塚治虫公式サイトでも、背景画は「鉄腕アトム」になっていますから、これが代表作といえるのでしょう。ただ数多(あまた)ある手塚作品の中で、最も印象に残る作品となると「火の鳥」になります。
 
昔読んだきりのため、記憶が定かでなく、作品をきちんと評価するためには再読する必要があります。ただ、「鉄腕アトム」はおろか、大人の読者を対象とした数々の名作と比較しても、「火の鳥」は際立った違いがあるように感じました。「火の鳥」は、手塚治虫のライフワークといわれ、時代は古代からはるか未来まで、舞台は日本から遠い宇宙まで、生命の在り方や人間の業が、独特の思想として語られていました。
 
「火の鳥」を異色の作品と感じたのは、物語のスケールが尋常でなく大きかったことと、個々の物語が全体として大きな円環をなすように配置されていたからだと思います。SF映画の傑作、「2001年宇宙の旅」や「スターウォーズ」にも通じる方法論やメッセージ性ですが、「火の鳥」ははるかにスケールが大きく、手が込んでいたと感じます。
 
 
無限の宇宙の中の永遠の命
 
「火の鳥の血を飲めば永遠の命を得られる」という設定は、有限の生を生きる人間の意識に、根源的な問い掛けをするものとなりました。たとえ「永遠の命」を得たところで、無限の宇宙の圧倒的スケール感の中にあっては、「永遠」にどれほどの価値があるのか。命の本質は、狭い自己の枠を超えている。個々の小さな命のすべてが鎖のようにつながり、壮大な円環を成している。そんな読後感を思い出しました。
 
漫画は、「子ども向け」「大衆向け」と蔑まされてきた歴史がありましたが、手塚治虫が命を削るようにして描き続けた長編ストーリーの数々は、世界の古典に匹敵するインパクトがありました。その中でも、「火の鳥」を読み通すことは、自我に目覚めた若者にとって、人間の業や生命の本質を知る「成人の通過儀礼」であったのかもしれません。
 
 
━━◆ 今週のロゴス ◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
「成人したこと自体で、進歩があったわけじゃない。
けれども、道標にはなった」
 
― ニコルソン・ベイカー ― (米国の小説家、ノンフィクション作家)
 
         *ロゴス: 古代ギリシアで「真理を語る言葉」の意味
 
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■文責:梅本龍夫
© League Million Inc.
 

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