【リグミの解説】
全国学力テストの学校別成績を公表
全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)について、文部科学省は、区市町村教育委員会の判断で学校別成績を公表できるよう実施要領を見直す検討に入ったそうです。本日の読売新聞の1面トップ記事です。従来は、各校の判断で公表することのみは認め、「学校間の過度な競争や序列化」を招くことを懸念し、区市町村教育委員会による公表は禁じてきました。
文科省が今年7月に行ったアンケート調査によると、保護者の45%が「区市町村教委も公表できるようにすることに賛成」と答えています。都道府県知事の44%、都道府県教委の40%、市区町村教委の17%も賛成都の結果が出ています。
自治体の強い要望
今回の動きの背景には、自治体の強い要望があると読売は総合面の解説記事で伝えています。最近の自治体は、学力対策に熱心に取り組んでおり、学力向上策の一環として学校別成績の公表を求める動きが強まってきました。しかし解説はここで終わっており、なぜ学力対策に熱心に取り組んでいるのか、学校別成績の公表で何をねらっているのかは定かではありません。
近年は少子高齢化の中、税収の確保のため、各自治体は住民を呼び込む施作に熱心に取り組むようになっています。学業成績の良い公立学校を多く持った自治体は、小さな子供をもつ親たちにとっては、移住したい魅力ある地域になる可能性があります。教育が、自治体間競争の主戦場のひとつになりつつあるのかもしれないと想像します。
過当競争になりがちな日本
学力向上をめざすのは当然のことと思いがちですが、全国学力テストが実施された1950~60年代には、成績をめぐる学校間の競争が過熱し、批判が高まりました。現行テストで、過度な競争や序列化につながらない配慮がなされているのは、こうした背景によります。
「過当競争」は、日本企業に典型的に見られる現象です。競争戦略の基本は、「違い」を創って、他社と無用な競争をせずに利益を上げることにあります。ところが日本では、「違い」を創ることより「同じ」をめざす傾向が強く、結果として値下げ競争などになり、誰も利益を上げられない状況になったりします。
義務教育は、誰しもが公平に基礎素養を身につける場ですから、「同じ」をめざすというのは理にかなっています。ただ、私たちは「同じ」であることに安心するとともに、「同じ」の中でも「下」にはなりたくない、できればちょっと「上」に行きたいという心情を強く持っています。これがかつての学校現場で学力テストの過当競争を生んだ背景にあるように思います。
学び合い、教え合う教育者の姿を見せる
企業経営の取り組みでは、「ベストプラクティス」や「ベンチマーキング」と呼ばれるものがあります。企業が他社の優良事例(ベストプラクティス)を分析し、学び、基準(ベンチマーク)として取り入れる手法を指します。「違い」を創る競争戦略に対して、こちらは他社の良いところを真似る作戦です。こちらの方が、教育現場にすんなりと応用できる気がします。
無用な過当競争を招きかねない全国学力テスト結果の学校別開示をするより、基礎学力を向上させるためのユニークで効果的な取り組みをしている学校を積極的に開示してはどうでしょうか。大事なのは、成績が全国平均よりも上か下かではありません。大切なのは、学校の取り組みによって、どれだけ生徒たちが学習意欲を高め、相対的に学力を高められたかです。
テストの成績という結果だけで評価する考え方は、とてもわかりやすいですが、それだけにごっそりと抜け落ちるものがあります。ゆがみも生まれやすいと思います。本来公平に与えられるべき教育機会。日本の子どもたちが、みんなレベルアップしていけるようにする。そのために先生たちが、お互いに良い方法を教え合い、学び合う。教育とは、学びを促す活動です。教育する側の教師が、自ら良い教育方法を積極的に学ぶ姿勢を生徒たちに見せることは、最高の教育のひとつになるのではないでしょうか。
(文責:梅本龍夫)
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