2013.07.12 fri

新聞1面トップ 2013年7月12日【解説】中間層こそ「主人公」

新聞1面トップ 2013年7月12日【解説】中間層こそ「主人公」


【リグミの解説】

日本郵政が成果主義へ
競争とは何でしょうか。今日の社会は、自由競争の価値を強調しすぎるきらいがあります。本日の日経新聞の1面3番記事「日本郵政が成果給」を読んで、そんな感想が浮かんできました。
 
日本郵政グループは、2015年度から社員の働きに応じて給与が変動する成果給制度を導入すると発表しました。バブル崩壊後の日本企業は、米国型の競争原理を参考にし、つぎつぎと成果給制度を導入しました。日本郵政は、20年周回遅れの参入となります。
 
対象は正社員22万人となります。現行制度は3段階の昇給査定を行い、一番低い査定が据え置きとなり降給はありません。これが新制度では、5段階評価となり、下から2番目までだと降給となります。逆に評価の高い社員は、現行制度より最大2割増の昇給となります。
 
成果給制度の問題点
記事に書いてあることを見る限り、この新制度には少なくとも2つの重大な問題があると思います。
 
第1に、5段階のうち2つが降給ということは、真ん中の評価は事実上据え置きと想定されますので、「昇給チャンス」と「降給リスク」が2つずつで「同等」ということになります。これではポジティブな結果への期待より、ネガティブな結果への恐れが強くなる可能性があります。
 
第2の問題は、「給与総額は当面変えない」と記事にありことです。新制度は、社員に限られた給与パイの奪い合いを促す内容になっていることになります。これでは、社員にプラスのメッセージよりもマイナスのメッセ―ジが強く発信されてしまいます。
 
「2割・6割・2割」
そもそも日本企業が成果制度を競って導入した経緯は、業績が悪化し、給与総額を圧縮せざるを得なくなったことがあります。その中で負のスパイラルにならないように、能力のある社員のやる気を引き出す制度が成果主義の給与でした。ただ、より本音のレベルでは、能力とやる気に乏しい社員を淘汰したいという思惑もありました。
 
組織集団は、ある程度大きくなると、だいたい能力ややる気のレベルの正規分布を示します。大雑把に言って、上位が2割、中間が6割、下位が2割といったところです。成果給は、上位2割にメリットを、下位2割にデメリットを与え、組織構成員を定常的に入れて変えていく発想の制度です。
 
問題は中間層の6割です。競争原理がポジティブに働けば、中間層は上位を目指してがんばります。逆にネガティブに働けば保身に走り、上位グループの足を引っ張り、下位グループ叩きを始めます。
 
「チーム学習」を促せるか
個人レベルの競争原理が有効に機能するのは、ある種の営業職やトレーダー、クリエイティブな専門職など、限られた職種です。多くの企業では、現場でルーチンをしっかりとこなす仕事が大半です。日本郵政などはその典型です。
 
こうした職場に必要なのは、個人間の競争ではなく、チームワークです。「ゆでガエル」にならず、「タコツボ」にこもらず、チームで作業改善などの仮説を立て、行動し検証していく「学習する組織」こそが、必要な考え方です(参照:「リグミの解説」2013年7月08日)
 
個人間の競争に勝つ方法は2つあります。自分が抜きんでるか、競争相手が落ちるか。日本郵政の成果給制度に見られるように、「競争主義」の問題は、多分にゼロサムゲーム(パイが増えないやり方)だということです。言葉を代えれば、個人間に「ウィン・ルーズ」の状況を持ち込んでしまいます。
 
日本社会にふさわしい制度設計
特に日本企業や日本社会の現実を見ると、下位2割を淘汰した結果、上位2割が過剰に忙しくなり疲弊する一方、中間層の6割が戦々恐々とし、ますます「ゆでガエル」化し、「タコツボ」化しています。さらに、自分よりも弱い立場の者を攻撃することで、自分を守ろうとしているように見えます。
 
日本に必要なのは、分厚い中間層を再生し、この6割が「主人公」の気分になれる企業風土や社会の雰囲気を創造することです。チームプレイを促し、「チーム学習」を積む組織や社会は、自分よりも弱い者を自然に引き上げ、一緒に学習効果を上げます。本当の切磋琢磨と創意工夫は、あらゆる組織構成員や、社会のあらゆる立場の人々が、「ウィン・ウィン」を達成できる環境から生まれます。日本人の得意分野を思い出すべきです。
 

(文責:梅本龍夫)



  1. 【行政広報】 「薬効論文データ改ざん 京都府立医大 高血圧薬 製薬社員関与か」
       http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130711-OYT1T01063.htm
  2. 【政府広報】 「日銀、デフレ脱却に自信 黒田総裁 『想定通りの動き』」
       http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20130712-OYT1T00137.htm
  3. 【連続企画】 「自民VS『原発ゼロ』 ~現場から 13参院選5.」
       

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/
 



  1. 【独自取材】 「除染予算、6割使われず 国が市町村に制約 東電に意向に配慮」
       http://www.asahi.com/special/news/articles/TKY201307110507.html
  2. 【企業広報】 「原電、再稼働申請へ 敦賀・東海第二 廃炉回避を狙い」
       http://www.asahi.com/national/update/0711/TKY201307110278.html
  3. 【行政広報】 「脳卒中の予防効果偽装か 高血圧薬ディオバン 京都府医大の論文」
       http://www.asahi.com/national/update/0711/OSK201307110086.html

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/
 



  1. 【行政広報】 「降圧剤データ操作 京都府立医大が謝罪 ノ社元社員解析 論文の結論『誤り』」
       http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130711-00000091-mai-soci
  2. 【連続企画】 「政治家は生の声聞け 岩手県陸前高田市まちづくり会社専務・河野通洋さん ~問う 2013参院選 3.復興」
       http://mainichi.jp/select/news/20130712ddm001010064000c.html
  3. 【独自取材】 「猛暑日140地点 館林39.5度」
       

(毎日jp http://mainichi.jp/
 



  1. 【政府広報】 「景気『前向きに循環』 企業心理、投資に波及 日銀総裁 景気回復宣言 新興国なお懸念」
       http://www.nikkei.com/article/DGKDASGC1101I_R10C13A7MM8000/
  2. 【連続企画】 「常識と一線、分かりやすく 日生に挑んだ男 ~金融ニッポン 第7部 変革の波3.」
       http://www.nikkei.com/article/DGKDASGC0700B_X00C13A7MM8000/
  3. 【企業広報】 「日本郵政が成果給 15年度、上場にらむ 基本給2割下げ」
       http://www.nikkei.com/article/DGKDASFS1102Z_R10C13A7MM8000/

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/
 



  1. 【独自取材】 「ネット選挙、漏れる避難者 震災直後より回線環境悪化 石巻の仮設住宅 衛星アンテナ打ち切り」
       http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013071290070315.html
  2. 【連続企画】 「厳格堅持か緩和か ⑤改憲手続き ~7.21参院選 岐路」
       
  3. 【独自取材】 「関東 熱中症相次ぎ3人死亡 今夏全国最高気温 館林39.5度」
       

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/
 


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