2013.02.04 mon

フクシマ・センダイ・カルイザワ それぞれの地で考えること(第4回) 

フクシマ・センダイ・カルイザワ それぞれの地で考えること(第4回) 


髙木 亨
 

 昨年末、宮城県内の県立高等学校で模擬授業をおこなった。我々以上の世代には「模擬授業とはなんぞや」だと思う。大学の教員が高校に出向いて大学の講義(風)のものをおこなう出前講義の事である。大学・高校側とも学生・生徒確保やPRのため、近年は積極的におこなうようになってきている。私も福島へ来てから2校でおこなった。多くの場合、複数の大学・学部の教員に出張してもらい、生徒の皆さんに興味ある講義を受講してもらうようなスタイルをとっているようである。

 私立高校などでは、それなり?の大学でないと高校側は声をかけない、といった話しも聞く。私立高校の場合は進学実績が生徒獲得に直結するため、大学のよりシビアな選別が入っている。大学教員の側に、そのシビアさへの危機感を抱いている方は、案外少ないように思う(これ以上書きすぎると嫌われる?ので書きませんが…)。

 さて、今回は高校1年生を対象に、福島県の復興について川内村を事例に90分(大学の一コマ分に相当)の模擬授業をしてきた。20名ほどであったが、熱心な生徒さんたちで感心した。後日、生徒の皆さんから感想を含めたコメントを頂いた。そこにあった質問等への返答を改変したものを以下に掲載した。福島県に対する素朴な疑問や、未知なる大学生活について感想や質問が寄せられた。私なりの考えを高校へお返しした。今回はその手紙の前半部分について掲載したい。後半部は次回に…
 


 先日は私の模擬授業に参加して頂き、ありがとうございました。大学の授業の雰囲気がわかって頂ければ幸いです。また、多くの感想を寄せて頂き感謝いたします。「日本語」になっていない文章を書く大学生が多い中、丁寧な字で書かれた感想を読み感心しておりました。ありがとうございます。
 
放射線で苦しむ人たちの気持ちを理解できるのか
 
 さて、感想の他、いくつかの質問がありましたので、わかる範囲で回答いたします。どの質問も大事な内容でした。まず、「別な地域の事を理解することができるのか、放射線で苦しむ人たちの気持ちを理解できるか」という御質問にお答えします。

 私が思うに、100%理解することは不可能です。遠くアフリカの地で飢餓や戦争に苦しむ人々の気持ちがわかるか、というといかがでしょうか。同じ事がこの日本でもいえます。皆さんは自信が震災を経験したり、身近に被災した人がいたりと、この震災の事を比較的身近に考えることができます(注:宮城県内の高等学校で、被災地から避難してきている友人も身近にいるため)。

 しかし、遠く離れた場所、とくに西日本などでは既に東日本大震災は「過去のこと」になっているといえます。これは「震災を通じていま一番大きな問題はなんですか」という次の質問の回答につながると思います。


川内村の「仮置き場」 

 震災から2年近くが経過し、被災地以外のところでは「過去のこと」になりつつある、これが大きな問題です。実際、津波被災地や原子力災害被災地では、元住んでいた場所に戻れない人たちが大勢います。助けを必要としている人たちやその人たちを支援する人たちへの応援が必要です。でも、時間の経過とともに「忘れ去られて」いきます。世の中では「終わったこと」になってしまいます。それが一番恐いことです。

 社会では様々な事件や事故が発生し、新たな話題が提供されています。新しい話題にマスコミュニケーションは飛びつきがちです。仕方の無いことですが、震災の「報道量」も目に見えて落ちてきています。でも、震災の被害はなくなったわけではありません。そこをどのように伝えていくか、広めていくか、意識してもらうか(忘れないでいてもらえるか)、これが大きな課題だと私は考えています。

 最初の質問に戻ると、「100%理解することは不可能」だと答えました。しかし、100%である必要は無いと思います。少しでも「理解しよう」とする気持ちがあれば十分です。「理解したい」「寄り添いたい」その気持ちが持てるのか否かで大きく変わってくると思います。その気持ちをもつことが、次につながるスタートラインです。


「閖上の記憶」の案内

 授業でもお話をしましたが、「自分にできることは何かを考える」ことにつながります。大学生がやっていたことは、彼らが専門的に学んだことを実践しているだけです(注:模擬授業の最後に、立正大学・熊谷地理研究会の学生が取り組んでいる地域活性化の事例を紹介した。彼らは自らが学んでいる地理学を活かして、学んだことが集落活性化にどうしたら役立つかを考えて実践している。そのことを指す)。


いわき市高部地区住民と学生との交流

 感想にありました「(私たちがいまできることは)部活や勉強を一所懸命にやること」それで十分です。今皆さんができることはそれなのですから。それは将来、何らかの形で被災地や次の災害が発生したとき、必ず役に立つことです。「その時」が来たときに「自分にできることは何か」をもう一度考えてみて下さい。きっと何かがあるはずです。

(次回へ続く)


【フクシマ・センダイ・カルイザワ それぞれの地で考えること  バックナンバー】


著者プロフィール

髙木 亨(たかぎ・あきら)

福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任准教授
博士(地理学)、専門地域調査士。
東京生まれ、東京近郊で育つ。
立正大学で地理学を学ぶ。
立正大学、財団法人地域開発研究所を経て2012年3月から現職