【リグミの解説】
日中の「戦略的互恵」
先日、公職に就く中国政治の専門家の話を聞く機会がありました。特に印象に残った発言が3つあります。第1が、2006年10月の安倍首相の訪中で打出された「日中の戦略的互恵」とは何であったかです。一言で言えば「歴史問題」を棚上げし、「平和を創った戦後の日本」に力点を置く、というもの。
2007年4月に、温家宝首相が日本の国会で演説し、その内容に世界が注目(参照:jugem.jp)。胡錦濤総書記は、宮中晩餐会で戦後の日本を称揚。これ以後、歴史問題に言及しなくなりました。そして、東シナ海の共同開発を認めました。2008年の四川大地震で日本の救援隊を最優先で入れ、その丁寧な救助作業を中国全土に大きく報道し日本への感謝の声が上がったのも、「戦略的互恵」後の流れに沿うものでした。
中国の「希望の星」
第2に、中国共産党一党支配は憲法よりも優先されるということ。経済開放路線後、不良な国有企業は一層されましたが、残ったのは基幹産業となるもの。ここに党幹部とその一族は次々と入り込み、蓄財。相続税も不動産取得税もない中国では、大規模な賄賂が日常茶飯事。格差の問題以上に、政治の中枢を蝕む腐敗が中国民衆の反感を買っています。
そんな中、中国の有力新聞『南方週末』は、新年号に掲載する「中国の夢、憲政の夢」を当局によって差し替えられる事件が発生。これに反発した記者たちが立ち上がりました。第2の天安門事件にも発展しかねない行動に出た記者たちの勇気は、「中国の希望の星」です。
日中衝突を回避する知恵
第3が、日中の危機について。今起きていることは中国共産党の権力闘争で、昨年の8月以降に変化が現れました。その結果が尖閣問題における反日デモで、これは官制デモの典型。胡錦濤を追い落とす勢力は、「日本に甘い顔をしたのは誰か」という言い方をしており、日本への厳しい論調が中国を覆っています。
その中には、本気で戦争を論じるものもあります。しかし、日本も中国も理性的でバランスの取れた賢明な人がたくさんいます。問題は偶発的な衝突が発生した時です。一旦、武力衝突が戦争に発展したら抑止が効かなくなります。絶対に戦争をしないという気構えと知恵が、両国に求められています。
アルジェリアのテロ
この話を、今回のアルジェリアのイスラム武装勢力のテロとの関連で考えました。報道によると、日本政府は人命尊重を第1に掲げています。1977年の日本赤軍による日航機ハイジャック事件で、当時の福田赳夫首相は、「人の命は地球より重い」と発言しました。東京新聞は、安倍首相がアルジェリアのセラル首相と電話会談。軍事行動に抗議し、即刻中止を求めたと報じていますので、安倍氏も福田氏の発言の流れを継承しているのかもしれません。拘束された日本人の安否に責任を負う立場としては、当然の姿勢ともいえます。
しかし、ここには難しい問題があります。武力に拠らない解決の筆頭に上がるのが、武装勢力の要求に応じることです。それが身代金であれ、マリへのフランスの軍事介入の停止であれ、テロ集団を利することになります。さらにテロ行為は有効とのメッセージになります。日本国内で国際的なテロが起きたらどう対処するのか。対岸の火事のように見ていられる話ではありません。
日本の「一国平和主義」が、国内外から批判されて、日本は次第に自衛隊の活動を拡大してきました。そして安倍政権は、自衛隊の定義や行動の制約を大きく変えようとしています。警察や軍隊の武力は、実際に行使されたとき、その瞬間は有効な抑止力となりえます。しかしその結果、往々にして新たな火種が生じます。
「一国平和主義」の次
日本は今、「一国平和主義」から「地域平和主義」にどう踏み出すか、されには対テロという意味では、「グローバル平和主義」にどう貢献するか、問われています。理不尽な要求や事態に対して、毅然とした態度を取ることはとても重要です。しかし毅然とすることと、武力の行使を厭わないことは別です。絶対に武力を使わない覚悟を示し、その上で一歩も引かない気概を示そうとすれば、人間の本当の知恵を働かさざるを得なくなります。紛争やテロの根本を治癒し、再発しない環境を創造しようと自然に動き始めます。
冒頭に引用した中国問題の専門家は、「日本の自衛隊は過去の戦争の教訓から学んだ組織だ。国民の知らないところで、日夜本当に尽力し、日本の平和を維持している。その自衛隊が、戦後67年間、一発の銃弾も打たず、誰一人殺さず、殺されないで来たことは、本当に誇るべきことだ。日本が成し遂げた偉大な成果を誇りに思う」と語っていました。
日本の底力
日本が戦後、営々と積み上げてきた平和の意味合いが、今問われています。人命を第1とし、軍事介入を避け、しかもテロリズムに屈しない方法はあるのか。他のどの国も「ない」と断定したとしても、日本国は「ある」と信じて行動してほしいと思います。
それは一国の内側に閉じた夢想ではなく、グローバル理想として戦略的に追求すべきものです。今、中国と一触即発の危機にある日本も、ほんの数年前には、外交のプロによる粘り強い交渉により、「戦略的互恵」が生む未来志向の「Win-Win」の姿を垣間見たのです。あらゆる紛争に対して、どのような信念をもち、どれだけの知恵を発揮し、努力を積み重ねられるか。世界に対して、日本の底力を発揮すれば、日本の未来は明るいと確信します。
(文責:梅本龍夫)
① 【政府広報】 「軍が武装勢力攻撃」
② 【当局取材】 「787バッテリー過充電か」
緊急着陸した全日空のボーイング787型機のメーンバッテリーのリチウムイオン電池は、過充電によってトラブルが起きた可能性がある。
③ 【発表引用】 「『脱出』『負傷』…情報錯綜」
ANI通信は、外国人の人質34人と武装勢力15人が死亡したと伝えた。一方、ロイター通信は、死亡したのは人質6人と武装勢力8人と伝えた。
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
① 【発表引用】 「軍突入、多数死亡か」
② 【当局取材】 「B787長期欠航見通し」
米連邦航空局と国土交通省によるボーイング787型機の運航停止命令で、欠航の長期化が避けられない見通しだ。
③ 【政府広報】 「集団的自衛権の対象拡大検討へ」
安倍首相は、集団的自衛権の行使容認に向けた検討作業について、第1次安倍内閣で検討した4分類以外も検討対象にする考えを示した。
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
① 【発表引用】 「戦闘で『人質35人死亡』」
② 【政府広報】 「難病対策、法制化へ」
厚生労働省は、難病対策の対象疾患を大幅に拡大する新法制定に向けた最終報告案をまとめた。
③ 【政府広報】 「攻撃開始、英から連絡」
菅官房長官は、駐アルジェリア英国大使から日本側に「アルジェリア軍が人質解放のために攻撃を開始した」と伝えてきたことを明らかにした。
(毎日jp http://mainichi.jp/)
① 【政府広報】 「日銀、連続緩和へ」
② 【発表引用】 「軍、武装勢力を攻撃」
アルジェリア軍は、人質救出に向け、武力勢力が立てこもる施設を攻撃した。人質や武装勢力に複数の死者が出たとの情報がある。
③ 【シリーズ】 「教員こそ『内向き』破れ ~大学開国」
大学教育の質を変え、海外の学生並みに勉強させる改革について、学生や企業からは歓迎の声が上がるが、教員からの反応は薄い。教員自らが世界標準の教育を目指さなければ、大学改革は夢に終わる。
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
① 【発表引用】 「『空爆、人質34人死亡』」
② 【独自取材】 「線量知らずに除染」
東京電力福島第1原発事故に伴う国直轄の除染事業で、受注した業者の一部が、放射線量や被曝線量を作業員にきちんと伝えていない実態が明らかになった。
③ 【独自取材】 「早期終結へ強硬策」
アルジェリアの人質事件で、ブーテフリカ政権は、イスラム勢力の活発化に神経をとがらせており、地域一帯のアルカイダ系勢力の増長を抑えるため、「対テロ」の強硬姿勢を示す必要があったとみられる。