2013.01.13 sun

新聞1面トップ 2013年1月13日【解説】「普通の生活」を取り戻す

新聞1面トップ 2013年1月13日【解説】「普通の生活」を取り戻す


【リグミの解説】

「限界にっぽん」
本日の新聞1面トップは、朝日が「限界にっぽん」というシリーズ企画の調査報道です。非正規雇用の仕
事を失い、ホームレスとなって深夜のマクドナルドで休息を取る人々。その多くは、就職氷河期に正規雇用につけなかった若者の10年後の姿です。同じテーマについて、日経新聞が「働けない若者の危機」というシリーズ企画を1面の2番記事に掲載しています。

非正規雇用は「合理性」か
バブル経済とその後の「失われた20年」で、一番大きく変貌したものが、雇用形態だと思います。製造業
などの大企業のみならず、最大手の金融機関ですら倒産することは、戦後の高度成長期を経てGDP2位となった日本で、まったく想定されていなかった異常事態となりました。不良資産の処分を進め、コスト構造に手をつけなければ、生き残れなくなった企業は、日本社会を支えてきた安定雇用の基盤に手をつけました。

企業側から見れば、正規雇用を減らし、非正規雇用を増やすことは、合理的な判断に見えます。付加価値の高い知識労働を正規雇用が担い、単純化されたルーチン業務を非正規雇用に移管すれば、ビジネス全体のクオリティーを落とすことなく人件費を抑制できるからです。しかし、事はそう単純ではありません。実際には、絞り込まれた正規雇用者が高い生産性を発揮し、新規の事業領域を開拓していく、といったこともあまり起きませんでした。一方、非正規雇用は、経営の調整代(しろ)として、使い捨ての対象になりました。

日本の何が変わらず、何が変わったのか
「日本は変われない」という声が多いですが、この20年の実態を見れば、実際は日本は既に後戻りが効か
ない変貌を遂げてしまっているように見えます。問題は、日本社会の文化的な特性に見合った制度改革をしないまま、雇用に手を付けてしまったことです。一言でいえば、日本社会の特性は、一部の突出したエリート的な人々が引っ張る欧米型や開発途上国型ではなく、大きな塊の中間層が高い勤労意欲と創意工夫の姿勢で地道に業務を支え、現場から改善していくやり方に向いています。

もし我が国が本当に「変わりたい」のであれば、答は欧米型にはないことを知る必要があります。欧米型で成功するには、米国社会をしっかりベンチマークする必要があります。米国社会の3大特徴は、①アイデアと志をもった人が成功を夢見てイノベーションを仕掛ける。それを支えるインフラがあり、社会は成功者を賞賛する、②仮に成功できなくても路頭に迷うことはなく、再雇用・再チャレンジのチャンスがある、③成功を夢見るハイパフォーマーでない普通の人々は、職務給制度に基づき、一定の技量と経験で、会社を渡り歩くことが可能―。

日本をこのような社会に変革するためには、国家の全体を再設計するぐらいの労力がいると思います。なおかつ、その結果うまくいく保証もありません。どんなにグローバル化しても、ローカルな文化の特性は残ります。むしろその特性を活かして、グローバル環境と共存共栄する手立てを試みるべきではないか。日本の現状を見ると、その思いが強くなります。

「普通」を取り戻す
具体的には、雇用の安定が最優先されます。「普通の人々」が「普通の生活」ができること。これが何よ
り大事です。遠回りなようでも、日本人にとって「普通」とはどのような姿で、どのような価値があるのか、徹底して追求するべきだと思います。なぜなら日本人の一大特性は、自分は「普通」であるという感覚に安心感と親しみを持ち、なおかつそこに安住せず、「普通」のレベルを向上させようとする不断の努力を惜しまないところにあるからです。これが日本の最も得意な文化特性です。

「普通の生活者」という中間層がしっかりと安定し、機能すれば社会全体にチームプレイの機運が生まれます。戦後の長い期間、「普通の人々」は国家の在り方や社会全体の問題を政治家や官僚に任せきりにしてきました。今の日本は、雇用を安定させ、「普通の生活」を復活させられるかにかかっています。その上で、未来志向の日本になるために、ここで取って置きの「変貌」を目指せすことを提案します。

「衆知主義」と日本の未来
それが「衆知主義」です。「普通の生活」をする「普通の人々」が、「普通」に安住せず、日本の未来の
「普通」を意識的に構想し創造していくために、お互いに知恵を出し合い(=「衆知」)、連携し合う社会をめざすのです。その大前提として、政府は雇用の安定を図るあらゆる施策を打ち、企業は安定した雇用が結局はイノベーションと価値創造につながることを自ら証明し実践していく。そうした経済社会の基盤に安住せず、「普通生活者」が社会変革の推進者になっていく。

東日本大震災のあと、東北の人々が世界に示した助け合いと自制の精神を見れば、日本社会の文化的特性がどのようなものか、よくわかります。その美質を磨き、ただ耐えるだけでなく、一丸となって日本の良き未来を創造するために生かすこと。狭量なナショナリズムとはまったく別次元の、本質的な文化論を伴った日本の在り方を、私たちは見つめ直す必要があるのではないでしょうか。

(文責:梅本龍夫)
 





【記事要約】 「所得税、最高45%に上げ」

  • 自民党と公明党は、所得税の最高税率を40%から45%に引き上げる方向で最終調整に入った。相続税の最高税率も、50%から55%に引き上げる案を中心に検討する。
  • 所得税の新たな最高税率45%の適用区分は、「3000万円超」か「5000万円超」かで調整が続いている。現行の相続税は、課税対象遺産(相続財産)「3億円超」が50%だが、新たに「6億円超」に55%を適用する民主党政権時の案を参考に、具体案を検討している。
  • 一方、高齢者が子や孫に財産を譲り渡す場合の贈与税を軽減する。「600万円超~1000万円」で現行の40%を30%に、「1000万円超」で現行の50%を「1000万円から1500万円」で40%にする方向だ。

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/
 





【記事要約】 「夜をさまよう『マクド難民』」

  • 大阪の繁華街ミナミにあるマクドナルドは、午前0時になると風景が一変する。サラリーマンや学生と入れ替わりに、くたびれた手提げ袋を下げた男性たちが入ってくる。「マクド難民」だ。
  • パナソニックの工場で請負をしていた男性(35)は、夜でも呼び出しが頻繁にあり、ストレスと睡眠不足で体を壊した。残業代もなく手取り20万円ほどで、仕事を続けられなかった。昼はパチンコ店で仮眠、夕方にスーパーで格安惣菜を買ってビルの片隅で食べる。コンビニをはしごして暇をつぶし、最後はマクドナルドで休む。
  • シャープの液晶工場で派遣社員として働いていた男性(40)も仕事を切られ、今はマクドナルドで100円のハンバーガーを食べて夜明けを待つ生活だ。就職氷河期で正社員につけなかった若者たちが次々と失職している。明日の見えない不安の中、マクドナルドがつかの間の休息の場となっている。

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/
 





【記事要約】 「学校週6日制検討」

  • 文部科学省は、現行の「学校週5日制」を見直し、土曜日にも授業をする「6日制」導入を検討開始する。「ゆとり教育」を見直した新学習指導要領が導入されており、事業時数を増やし、学力向上を目指す。
  • 私立校は、土曜授業を続けているケースが多く、公私の学力格差の懸念を払拭する狙いもある。ただし、教職員の勤務時数は法律で週40時間と定められているため、教員の数を増やす必要があるなど、課題も多い。
  • 東京都小学校PTA協議会が実施した調査(2010年)は、以下の通り。▽「土曜授業は必要」=保護者86%、教員38%、▽「土曜授業に反対」=保護者7%、教員52%―。

(毎日jp http://mainichi.jp/
 





【記事要約】 「平均給与増で税額控除」

  • 政府・自民党は、税制改正大綱に盛り込む雇用対策の税制の詳細を固めた。企業が従業員に払う給与を増額すると、納税額が減る制度を導入する。
  • 新税制の概要は、以下の通り。①従業員への平均給与を増やす、②企業の支払総額が増加する、③増加分の最大10%を法人税額から差し引く、④減税分を新たな雇用や設備投資へ回す―。
  • 企業は賃上げに消極的な上、非正規雇用も増加しているため、民間企業の2011年の平均給与は409万円と、10年前の10%減となっている。新制度は、平均給与の増額と共に、非正規従業員の正規雇用への転換を後押しする狙いもある。

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/
 





【記事要約】 「健診・講習費、作業員持ち」

  • 東京電力福島第1原発事故に伴う国直轄の除染事業で、国から出る費用を業者が作業員に負担させている実態が、作業員らへの取材で判明した。
  • 被曝の危険がある除染作業では、白血球数などの詳細な健康診断を受けるよう義務付けられている。また草刈り機を使う際の安全講習も受ける必要がある。これらの費用が、採用時の自己負担となったり、給料から天引きされたりしていた。
  • 除染事業では、作業員への不透明な給与支払いが横行している。今回の事例も、労働安全衛生法などの抵触する可能性がある。

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)




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