【リグミの解説】
「限界にっぽん」
本日の新聞1面トップは、朝日が「限界にっぽん」というシリーズ企画の調査報道です。非正規雇用の仕事を失い、ホームレスとなって深夜のマクドナルドで休息を取る人々。その多くは、就職氷河期に正規雇用につけなかった若者の10年後の姿です。同じテーマについて、日経新聞が「働けない若者の危機」というシリーズ企画を1面の2番記事に掲載しています。
非正規雇用は「合理性」か
バブル経済とその後の「失われた20年」で、一番大きく変貌したものが、雇用形態だと思います。製造業などの大企業のみならず、最大手の金融機関ですら倒産することは、戦後の高度成長期を経てGDP2位となった日本で、まったく想定されていなかった異常事態となりました。不良資産の処分を進め、コスト構造に手をつけなければ、生き残れなくなった企業は、日本社会を支えてきた安定雇用の基盤に手をつけました。
企業側から見れば、正規雇用を減らし、非正規雇用を増やすことは、合理的な判断に見えます。付加価値の高い知識労働を正規雇用が担い、単純化されたルーチン業務を非正規雇用に移管すれば、ビジネス全体のクオリティーを落とすことなく人件費を抑制できるからです。しかし、事はそう単純ではありません。実際には、絞り込まれた正規雇用者が高い生産性を発揮し、新規の事業領域を開拓していく、といったこともあまり起きませんでした。一方、非正規雇用は、経営の調整代(しろ)として、使い捨ての対象になりました。
日本の何が変わらず、何が変わったのか
「日本は変われない」という声が多いですが、この20年の実態を見れば、実際は日本は既に後戻りが効かない変貌を遂げてしまっているように見えます。問題は、日本社会の文化的な特性に見合った制度改革をしないまま、雇用に手を付けてしまったことです。一言でいえば、日本社会の特性は、一部の突出したエリート的な人々が引っ張る欧米型や開発途上国型ではなく、大きな塊の中間層が高い勤労意欲と創意工夫の姿勢で地道に業務を支え、現場から改善していくやり方に向いています。
もし我が国が本当に「変わりたい」のであれば、答は欧米型にはないことを知る必要があります。欧米型で成功するには、米国社会をしっかりベンチマークする必要があります。米国社会の3大特徴は、①アイデアと志をもった人が成功を夢見てイノベーションを仕掛ける。それを支えるインフラがあり、社会は成功者を賞賛する、②仮に成功できなくても路頭に迷うことはなく、再雇用・再チャレンジのチャンスがある、③成功を夢見るハイパフォーマーでない普通の人々は、職務給制度に基づき、一定の技量と経験で、会社を渡り歩くことが可能―。
日本をこのような社会に変革するためには、国家の全体を再設計するぐらいの労力がいると思います。なおかつ、その結果うまくいく保証もありません。どんなにグローバル化しても、ローカルな文化の特性は残ります。むしろその特性を活かして、グローバル環境と共存共栄する手立てを試みるべきではないか。日本の現状を見ると、その思いが強くなります。
「普通」を取り戻す
具体的には、雇用の安定が最優先されます。「普通の人々」が「普通の生活」ができること。これが何より大事です。遠回りなようでも、日本人にとって「普通」とはどのような姿で、どのような価値があるのか、徹底して追求するべきだと思います。なぜなら日本人の一大特性は、自分は「普通」であるという感覚に安心感と親しみを持ち、なおかつそこに安住せず、「普通」のレベルを向上させようとする不断の努力を惜しまないところにあるからです。これが日本の最も得意な文化特性です。
「普通の生活者」という中間層がしっかりと安定し、機能すれば社会全体にチームプレイの機運が生まれます。戦後の長い期間、「普通の人々」は国家の在り方や社会全体の問題を政治家や官僚に任せきりにしてきました。今の日本は、雇用を安定させ、「普通の生活」を復活させられるかにかかっています。その上で、未来志向の日本になるために、ここで取って置きの「変貌」を目指せすことを提案します。
「衆知主義」と日本の未来
それが「衆知主義」です。「普通の生活」をする「普通の人々」が、「普通」に安住せず、日本の未来の「普通」を意識的に構想し創造していくために、お互いに知恵を出し合い(=「衆知」)、連携し合う社会をめざすのです。その大前提として、政府は雇用の安定を図るあらゆる施策を打ち、企業は安定した雇用が結局はイノベーションと価値創造につながることを自ら証明し実践していく。そうした経済社会の基盤に安住せず、「普通生活者」が社会変革の推進者になっていく。
東日本大震災のあと、東北の人々が世界に示した助け合いと自制の精神を見れば、日本社会の文化的特性がどのようなものか、よくわかります。その美質を磨き、ただ耐えるだけでなく、一丸となって日本の良き未来を創造するために生かすこと。狭量なナショナリズムとはまったく別次元の、本質的な文化論を伴った日本の在り方を、私たちは見つめ直す必要があるのではないでしょうか。
(文責:梅本龍夫)
【記事要約】 「所得税、最高45%に上げ」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
【記事要約】 「夜をさまよう『マクド難民』」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
【記事要約】 「学校週6日制検討」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
【記事要約】 「平均給与増で税額控除」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
【記事要約】 「健診・講習費、作業員持ち」