2013.01.11 fri

新聞1面トップ 2013年1月11日【解説】新聞記事に変化を

新聞1面トップ 2013年1月11日【解説】新聞記事に変化を


【リグミの解説】

1月8日の「リグミの解説」で、新聞記事に「スタンプ」を押し「色分け」をするアイデアを提案しました。本日の各紙の1面記事3つずつについて、スタンプを試してみました。

1面のトップ3記事に「スタンプ」

読売新聞:
① 「『日銀に緩和期待』明記」       【政府広報】(政府の緊急経済対策)
② 「無期限緩和を検討」           【政府広報】(日銀が物価目標2%を検討)
③ 「住宅給付金、年収600万以下」   【政府広報】(消費増税にからむ自公方針)


朝日新聞:
① 「日本原電、発電せず最高益」    【独自取材】(問題提起=電気料金にツケ)
② 「尖閣警備、海保400人専従」     【政府広報】(海上保安庁の尖閣対策)
③ 「教育改革、顔ぶれ安倍色」      【政府広報】(政府の教育再生実行会議の陣容)


毎日新聞:
① 「石綿基準超え17ヵ所」         【独自取材】(問題提起=震災復興問題の氷山の一角)
② 「復興予算、19億円増額」        【政府広報】(政府の復興推進会議)
③ 「所得3000万円超で調整」       【政府広報】(所得増税の自公方針)


日経新聞:
①「日銀、雇用拡大も責任」        【独自取材】(安倍首相インタビュー)
②「物価目標2%明記」            【政府広報】(政府と日銀の共同文書方針)
③「相続税の基礎控除縮小」       【政府広報】(政府・自民の相続税改定方針)


東京新聞:
①「除染下請け、天引き横行」       【独自取材】(問題提起=除染作業支払の不適切さ)
②「物価目標に達成期限」          【独自取材】(安倍首相インタビュー)
③「飯館村民7割」               【世論調査】(問題提起=除染目標達成でも帰村せず)


内訳としては、【政府広報】=9(60%)、【独自取材】=5(33%)、【世論調査】=1(7%)です。東京新聞を除く全国紙で見ると、【政府広報】=9(75%)、【独自取材】=3(25%)です。特に読売新聞は、4番目記事の「がれき処理1~3割」(環境省のまとめ)を含めて、1面記事すべてが【政府広報】です。

無批判に記事を読む傾向
新聞を日常風景として見ていると、その記事の背景がどういうものか、何を意図しているかに対して無自
覚になってきます。政府や行政などが打ち出す方針が、新聞によってアドバルーンのように打ち上げられ、読者はそれを読んで追認する、という構図になります。

昨年末の衆院選の序盤から、各紙一斉に世論調査を行い、いずれも「自民優勢」を伝えたのは記憶に新しいです。世論調査そのものは、手法的な限界があり、データの扱いには注意を要しますが、調査して報道すること自体は、読者に判断材料を与えるものとして一定の価値があると思います。問題は、「政府広報」の類の記事をいつも無批判に見ているうちに、世論調査の動向も「従うべきもの」と無意識に受け止めてしまう可能性があることです。

1面トップに広報記事を載せない
新聞記事を「「決定事項」のように受け止めるのでなく、それをひとつの情報や意見として参考にし、自
分独自の「ビュー」(視点、考え方)を具体化することが大切だと思います。新聞には、そうした基本的なユーザ価値を提供する姿勢を望みます。具体的には、新聞1面トップ記事は、原則として「政府広報」や「企業広報」を持ってこないようにすることが、新聞改革の最初の小さな一歩になると思います。

朝日新聞、毎日新聞、東京新聞は、1面トップに「独自取材」をもって来ていますが、こういう紙面は読みごたえがあります(日経のトップ記事は「独自取材」ですが、安倍首相のインタビューで「政府広報」に近い内容)。なぜなら、記事に中に独自の問題提起があり、批判精神が刺激されるからです。その問題指摘や批判が妥当かどうかは注意して見る必要がありますが、それこそ読者の責任でやるべきことです。無批判に無自覚に「政府広報」を受け止めるよりは、健全であると思います。

政府の会議を実況中継する
新聞記事のセグメンテーションについても、1月7日の「リグミの解説」で提案をしました。「保守(右系
)―リベラル(左系)」「政府・行政の目線―大衆・市民の目線」という2軸で、4つのセグメントに分類するというアイデアです。このやり方で、朝日新聞の3番目の記事(「教育改革、顔ぶれ安倍色」)を見ると「リベラル(左系)」 x 「政府・行政」というセグメントの記事になります。

記事そのものは、「政府広報」のレベルですが、朝日はリベラル色が強いため、保守色が強いメンバー選定に「安倍色」という表記で、読者に注意を喚起しています。


教育は、国の将来を決める長期的取り組みの要となります。その方針が、どういう思想や価値観の人々によって議論されようとしているのか。メンバーとなる委員の「主義」が偏っていないか、多様な視点や価値観を反映した議論が可能か、国民は注目する必要があると思います。

「教育再生実行会議」の議論の結果だけでなく、各委員がどういう発言をしているかも報道し、議論に間接的に参加できるような記事を、シリーズで発信するぐらいの意欲があってもいいテーマです。批判的解説を加えた「実況中継」ができれば、新聞のユーザ価値は大いに上がるのではないでしょうか。

(文責:梅本龍夫)
 





【記事要約】 「『日銀に緩和期待』明記」

  • 政府が11日に閣議決定する緊急経済対策の全容が明らかになった。安倍首相が強い意欲を示している、デフレ脱却のための金融緩和について、「明確な物価目標の下で、日本銀行が積極的な金融緩和を行っていくことを期待する」と明記した。
  • 緊急経済対策の概要は、以下の通り。▽「縮小均衡の分配政策」から「成長と富の創出の好循環」へ転換、▽大胆な金融政策、機動的な財政政策、成長戦略の「三本の矢」で円高・デフレから脱却、▽東日本大震災からの復興を加速。老朽化した社会インフラ対策を重点的に実施、▽明確な物価目標の下、日銀が積極的に金融緩和を行っていくことを強く期待―。
  • 15日の閣議で、緊急経済政策の遂行に必要な約10.3兆円を盛り込んだ2012年度補正予算案を決定する方針だ。

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/
 





【記事要約】 「日本原電、発電せず最高益」

  • 日本原子力発電の今年度上半期の純利益が過去最高の209億円になった。2012年度半期報告書(連結)で判明した。日本原電は、原発専業会社で、東海第2原発と敦賀原発1号機・2号機の3機を持つが、いずれも稼働していない。
  • 上半期の発電量はゼロだったが、売上高は762億円。ほとんどが電力会社が日本原電から電気を買う際の契約基本料だ。内訳は、以下の通り。▽東京電力277億円、▽関西電力162億円、▽中部電力146億円、▽北陸電力102億円、▽東北電力68億円―。
  • 日本原電は、「原発の維持・管理などの経費をまかなうために支払われている」と説明。しかし、敦賀1号機は運転開始から40年以上経過しており、2号機は直下の活動層により廃炉となる可能性がある。東海第2も地元の反対で再稼働が難しい。日本原電への支払は、「原価」に含まれており、利用者が負担している。

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/
 





【記事要約】 「石綿基準超え17ヵ所」

  • 東日本大震災で被害を受けた建物の解体工事で、世界保健機構(WHO)の安全基準を超すアスベスト(石綿)が、昨年末までに17ヵ所確認されていた。環境省と厚生労働省への取材で判明。
  • WHO基準を超すアスベスト飛散が確認された県別の現場数は、以下の通り。▽宮城県=9ヵ所、▽福島県=3ヵ所、▽茨城県=3ヵ所、▽栃木県=2ヵ所―。
  • 被災地で基準超えが相次ぐ理由として、解体現場が膨大な数に上ること、アスベスト除去技術を持つ業者が少ないこと、行政の対応が追い付いていないことがある。専門家は、「対策が急務だ」と指摘する。

(毎日jp http://mainichi.jp/
 





【記事要約】 「日銀、雇用拡大も責任」

  • 安倍首相は、日経新聞の取材に対し、「日銀は実体経済に責任を持ち、雇用最大化を頭に入れてほしい」と語った。
  • 円高については、「為替で競争力を失っている状況の是正は政府と中央銀行の責任。努力を続けなければならない」と強調。
  • 首相のその他の主な発言は、以下の通り。▽「経済財政諮問会議で金融政策を集中的に議論する」、▽「日銀との協定を文書化し物価上昇率目標2%を明記する」、▽「日銀総裁人事は政権の考え方との一致などで判断。出身は問わない」、▽「集団的自衛権は月内にも有識者懇談会の結論を受け取りたい」―。

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/
 





【記事要約】 「除染下請け、天引き横行」

  • 東京電力福島第1原発事故に伴う国直轄の除染作業で、半ば強制的な天引きが行われていた。作業員らへの取材で判明した。
  • 除染作業員の不透明な給料の代表的事例は、以下の通り。▽本来の日給=1万6000円、▽宿泊代4500円と弁当代500円天引き、▽作業員の手当は1万1000円、▽宿泊施設は無償で国から借り受けているため、宿泊費は業者のもうけ、▽作業員の手当のうち10000円は国からの危険手当のため、業者負担は1000円のみ―。
  • 元請けゼネコンの広報室は、「過去には危険手当がきちんと作業員にわたっていない例もあったが、きちんとわたるよう下請けに指導を繰り返している。雇用条件などは法にのっとった契約になるよう個別に指導している」とコメント。下請け企業からの回答は10日段階でない。

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)




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