2013.01.10 thu

新聞1面トップ 2013年1月10日【解説】経済再生の「歴史認識」

新聞1面トップ 2013年1月10日【解説】経済再生の「歴史認識」


【リグミの解説】

「アベノミクス」
本日の新聞1面トップ記事は、読売、朝日、日経の3紙が、安倍政権の経済政策についての報道です。読売
は、マクロ政策とミクロ政策を2つの会議体で推進し、経済をクルマの両輪のように活性化しようという方針を伝えるもの。朝日は、富裕層への課税強化の方向性について。日経は、消費増税のタイミングに合わせて、住宅取得をする中低所得者層の税負担を軽減し、住宅需要の冷え込みを防ぐ、という記事です。

経済を再生するために、安倍政権が打ち上げる方針を、新聞は連日1面で大きく報道しています。「アベノミクス」という標語が、マスコミで喧伝されますが、その実態はよくわかりません。どうもキャッチコピーのように政治を「ひと言」で済ませ、わかった気になる傾向が続いています。

政府の大小
経済政策の大きな枠組みを理解するには、いくつかの判断軸があると思います。


第1が、「大きな政府志向」と「小さな政府志向」です。「大きな政府」は、政府による公共事業などのマクロ投資で経済を活性化させます。土木・建設関係を中心に、ある程度直接的な効果を期待できますが、国の借金が膨らみ、官僚組織の肥大を招く可能性があります。「小さな政府」は、規制緩和と減税政策をセットに、企業家のマインドを刺激し、自由競争による経済成長を目指します。ミクロのレベルで経済が活性化する可能性がありますが、規制緩和の矛盾や、格差拡大などの問題が発生する可能性があります

「アベノミクス」は、大型補正予算で国債発行枠を増やし、公共事業を復活させていますので、「大きな政府」を志向しているように見えますが、そのことの是非をしっかり見据えた論説はまだ目にしていません。

選択と集中
第2が、「一点突破アプローチ」と「総花アプローチ」です。一転突破型は、経済戦略の軸を定め、その
軸をしっかり打ちたて優先するアプローチです。大きな政府の公共事業でも、小さな政府の規制緩和でも、それをどこまで徹底するのか。それとも、他の政策もたくさん施行し、バランスをとっていくのか。「アベノミクス」の全容はわかりませんが、ここ数日の新聞記事を見ていると、なんでもありの「総花アプローチ」に近いように感じます。

企業戦略においては、どこに経営資源を優先して投じるか、「選択と集中」の決断が基本になります。その上で、多角的な事業を展開する企業は、「ポートフォリオ」(事業領域やブランドの組み合わせ)を上手に設計し、持続的な成長を目指します。国家は、あらゆることを考慮しなければならないので、企業のように思い切ったことはなかなかできません。しかし、変化の激しい時代には、何をしたいのかをはっきりさせ、一貫してストーリー立て実行することが何よりも大切です。

量なのか質なのか
第3が、「量的拡大優先」と「質的転換優先」です。「量的拡大」は、基本的に成長志向ですが、旧来の
成功モデルを引きずる可能性があります。経済がすべての国力の基盤となるため、とにかくこの基盤を維持発展させることを優先します。「質的転換」は、「成長志向」と「持続可能性志向」の2つのバリエーションがあります。いずれも、旧来の経済モデルを変え、新しい国家像を打ち出すものです。「アベノミクス」の現状は、「量的拡大優先」といえそうです。

一般に、「大きな政府」を志向する政権は、政府・官僚が主導で個別具体に入り込み、「総花アプローチ」を展開し、全体としては「量的拡大」を優先する傾向があると思います。逆に、「小さな政府」は、あれもこれもをせず、「一転突破」の政策の効果を期待します。そこには、旧来の社会経済構造の「質的転換」を織り込んでいく傾向があると思います。

健全な「歴史認識」
どれが良いということは一概に言えません。その国の置かれた現状をどう認識し、どういう将来を創り出
したいかによって、自ずと打ち手は変わってきます。そもそも、どんな打ち手が残っているのか。そしてどういう順番で手を打っていけば、一番望む効果を発揮できるのか。一の矢、二の矢、三の矢と放ち、それがやがて束ねられて、ひとつの経済潮流が作られていきます。

そこで基本となるのが、「歴史認識」ではないでしょうか。戦前のことではありません。バブル崩壊後の「失われた20年間」という現代史を、どう棚卸するかということです。自民党は、下野した3年余りの期間、何を学んだのか。日本の戦後を作りあげた政党は、自分を作り変えることができなければ、高度成長期の再来を期待する「成功体験の罠」に落ちる可能性があります。安倍政権の健全な「歴史認識」は、まずもって経済再生の全容にこそ、発揮されるべきではないでしょうか。

(文責:梅本龍夫)
 





【記事要約】 「『骨太の方針』6月策定」

  • 安倍政権は、「経済財政諮問会議」を復活させた。同会議は、マクロ政策や予算の基本方針の策定などを行う。首相、麻生副総理、菅官房長官、甘利経済財政相、茂木経済産業相、新藤総務相、日銀の白川総裁、民間議員4人が出席。
  • 首相は、デフレ脱却、財政再建、予算編成方針などをまとめた「経済財政改革の基本方針(骨太の方針)」を今年6月をめどにまとめることを指示した。
  • 安倍政権は、同会議以外に、「日本経済再生本部」を8日に始動。全閣僚が参加し、ミクロ政策を推進する。経済再生に向けた「司令塔」の両輪が動き出す。

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/
 





【記事要約】 「富裕層課税拡充へ」

  • 政府・自民党は、富裕層の相続税と所得税を引き上げる方針だ。来年度の税制改革に盛り込む。
  • 相続税の変更案は、以下の通り。▽「基礎控除5000万円+法定相続人 x 1000万円」⇒「基礎控除3000万円+法定相続人 x 600万円」―。所得税の変更案は、以下の通り。▽現行=「1800万円超40%」⇒さらに上に「数千万円超?45%」を追加―。
  • 2014年4月の消費増税に合わせ、2015年から裕福な人に負担してもらう。

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/
 





【記事要約】 「福島に放射能研究拠点」

  • 政府は9日、福島県内に「放射性物質研究拠点」と「災害用ロボット開発・研究施設」を整備する方針を固めた。2012年度補正予算案に、設計・建設費用800億円を計上する。
  • 政府と国際原子力機関(IAEA)は、福島県内に「IAEA緊急時対応能力研修センター」を設置することで合意している。IAEAや各国の大学などから数百人規模の研究者を受け入れる、放射線の国際研究拠点に発展させたい考えだ。
  • 同拠点が完成すると、福島県内に数百人単位の雇用を生むと期待され、復興の後押しをすることになりそうだ。

(毎日jp http://mainichi.jp/
 





【記事要約】 「住宅減税、現金で補填」

  • 政府・自民党は9日、住宅購入者に現金給付による支援制度を設ける方針を固めた。2014年4月の消費増税後に、住宅ローン減税や現金給付で、中低所得者層の税負担を軽減し、住宅需要を下支えする。
  • 現行の住宅ローン減税は、2013年12月末で期限切れとなるが、2014年以降まで延長する。2013年入居分から20万円に縮小されるのを、2014年から30万円に引き上げる。現金給付制度と合わせて、自民党税制改正大綱に盛り込む。
  • 消費増税時に住宅購入負担の軽減措置を取るのは、消費増税法の成立に向け、民主・自民・公明の3党が十分な対策を講じることを合意したことに基づく。

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/
 





【記事要約】 「現実社会に初の『痕跡』」

  • PC遠隔操作による犯罪予告事件の真犯人を名乗る人物が1日と5日に、報道機関などに新たなメールを送信。その内容通りに、猫の首輪から記憶媒体が見つかった。
  • 江の島の防犯カメラには、猫に近づく複数の男性が写っている。警視庁などの捜査本部は、真犯人が現実世界に初の「痕跡」を残したと見ており、人物の特定を急いでいる。
  • 記憶媒体に残されたメッセージやパズルから、真犯人は20~30代の可能性があるとみられている。また、メッセージの内容から、警察に恨みを持つ者の犯行の可能性もある。

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)




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