【リグミの解説】
「アベノミクス」
本日の新聞1面トップ記事は、読売、朝日、日経の3紙が、安倍政権の経済政策についての報道です。読売は、マクロ政策とミクロ政策を2つの会議体で推進し、経済をクルマの両輪のように活性化しようという方針を伝えるもの。朝日は、富裕層への課税強化の方向性について。日経は、消費増税のタイミングに合わせて、住宅取得をする中低所得者層の税負担を軽減し、住宅需要の冷え込みを防ぐ、という記事です。
経済を再生するために、安倍政権が打ち上げる方針を、新聞は連日1面で大きく報道しています。「アベノミクス」という標語が、マスコミで喧伝されますが、その実態はよくわかりません。どうもキャッチコピーのように政治を「ひと言」で済ませ、わかった気になる傾向が続いています。
政府の大小
経済政策の大きな枠組みを理解するには、いくつかの判断軸があると思います。
第1が、「大きな政府志向」と「小さな政府志向」です。「大きな政府」は、政府による公共事業などのマクロ投資で経済を活性化させます。土木・建設関係を中心に、ある程度直接的な効果を期待できますが、国の借金が膨らみ、官僚組織の肥大を招く可能性があります。「小さな政府」は、規制緩和と減税政策をセットに、企業家のマインドを刺激し、自由競争による経済成長を目指します。ミクロのレベルで経済が活性化する可能性がありますが、規制緩和の矛盾や、格差拡大などの問題が発生する可能性があります。
「アベノミクス」は、大型補正予算で国債発行枠を増やし、公共事業を復活させていますので、「大きな政府」を志向しているように見えますが、そのことの是非をしっかり見据えた論説はまだ目にしていません。
選択と集中
第2が、「一点突破アプローチ」と「総花アプローチ」です。一転突破型は、経済戦略の軸を定め、その軸をしっかり打ちたて優先するアプローチです。大きな政府の公共事業でも、小さな政府の規制緩和でも、それをどこまで徹底するのか。それとも、他の政策もたくさん施行し、バランスをとっていくのか。「アベノミクス」の全容はわかりませんが、ここ数日の新聞記事を見ていると、なんでもありの「総花アプローチ」に近いように感じます。
企業戦略においては、どこに経営資源を優先して投じるか、「選択と集中」の決断が基本になります。その上で、多角的な事業を展開する企業は、「ポートフォリオ」(事業領域やブランドの組み合わせ)を上手に設計し、持続的な成長を目指します。国家は、あらゆることを考慮しなければならないので、企業のように思い切ったことはなかなかできません。しかし、変化の激しい時代には、何をしたいのかをはっきりさせ、一貫してストーリー立て実行することが何よりも大切です。
量なのか質なのか
第3が、「量的拡大優先」と「質的転換優先」です。「量的拡大」は、基本的に成長志向ですが、旧来の成功モデルを引きずる可能性があります。経済がすべての国力の基盤となるため、とにかくこの基盤を維持発展させることを優先します。「質的転換」は、「成長志向」と「持続可能性志向」の2つのバリエーションがあります。いずれも、旧来の経済モデルを変え、新しい国家像を打ち出すものです。「アベノミクス」の現状は、「量的拡大優先」といえそうです。
一般に、「大きな政府」を志向する政権は、政府・官僚が主導で個別具体に入り込み、「総花アプローチ」を展開し、全体としては「量的拡大」を優先する傾向があると思います。逆に、「小さな政府」は、あれもこれもをせず、「一転突破」の政策の効果を期待します。そこには、旧来の社会経済構造の「質的転換」を織り込んでいく傾向があると思います。
健全な「歴史認識」
どれが良いということは一概に言えません。その国の置かれた現状をどう認識し、どういう将来を創り出したいかによって、自ずと打ち手は変わってきます。そもそも、どんな打ち手が残っているのか。そしてどういう順番で手を打っていけば、一番望む効果を発揮できるのか。一の矢、二の矢、三の矢と放ち、それがやがて束ねられて、ひとつの経済潮流が作られていきます。
そこで基本となるのが、「歴史認識」ではないでしょうか。戦前のことではありません。バブル崩壊後の「失われた20年間」という現代史を、どう棚卸するかということです。自民党は、下野した3年余りの期間、何を学んだのか。日本の戦後を作りあげた政党は、自分を作り変えることができなければ、高度成長期の再来を期待する「成功体験の罠」に落ちる可能性があります。安倍政権の健全な「歴史認識」は、まずもって経済再生の全容にこそ、発揮されるべきではないでしょうか。
(文責:梅本龍夫)
【記事要約】 「『骨太の方針』6月策定」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
【記事要約】 「富裕層課税拡充へ」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
【記事要約】 「福島に放射能研究拠点」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
【記事要約】 「住宅減税、現金で補填」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
【記事要約】 「現実社会に初の『痕跡』」