【リグミの解説】
日本の新聞の「ビュー」
本日の新聞1面トップは、「場所」を視点に比較します。
読売新聞は「補正予算」の記事。「日本」が対象です。朝日新聞は「東日本大震災の住宅再建支援」の記事。「岩手県・宮城県・福島県」が対象です。毎日新聞は「シリア大統領の演説」に関する記事。当然対象は「シリア」になります。日経新聞は「スマホ動画をTVに配信するサービス」の記事で、対象「日本」。東京新聞は「福島第1原発事故での自主避難」に関連する記事で、対象は「東京と福島」。
東京新聞を除く4紙は、全国紙です。全国紙の1面トップ記事が、日本全体のことを対象にするのは当然です。日本の新聞なのですから、日本の政治、社会、経済、文化などのテーマを報道することは、購読者の求めに応じたことといえます。問題は、日本という「場所」をどう扱うか、どう見つめるか、という「ビュー(視点、考え方)」です。
政府や中央省庁、あるいは経済団体や大手企業の発表を報道すれば、「公」や「お上」の視点が優先されます。1月4日の「リグミの解説」で触れたように、サミットの報道で日本の新聞と欧米メディアの「違い」が際立つと言われます。
権力側である主要先進国の首脳の公式発表写真を、1面トップに当然のように掲載する日本のメディア。しかし欧米メディアは、サミットに抗議するデモ市民の「ビュー」を優先し、当局の発表内容は相対的に小さい扱いとなるそうです。どちらが良いか以前に、これほどの「違い」があることに、私たちが無自覚だということが、問題だと思います。
発行部数から見る特殊性
日本の新聞は、発行部数でいうと、世界でも例がないほどの規模です。世界一の発行部数と言われる読売新聞は、約1000万部。朝日新聞が約800万部です。3位の毎日新聞は大分少なくなりますが、それでも約350万部です。この3紙で約2150万部。仮に世帯単位などで平均2人がひとつの新聞に目を通しているとすると、この3紙のいずれかを4300万人が読んでいることになります。国民の3人に1人、成人だけで見れば、4割以上のカバー率になります。
参考まで、世界ランクは1位が読売、2位に朝日、ようやく3位にインドの「The Times of India」が入りますが、発行部数は約380万部。経営的に苦しいと言われる毎日新聞と同程度の規模です。欧米に目を転じると、英国の「The Sun」とドイツの「Bild」がそれぞれ約300万部で、世界ランク7~8位に付けます(参照:日経NBO記事2012.07.27)。
ただし、この2紙はいわゆる「タブロイド紙」で、センセーショナルな事件報道やゴシップ報道などに力を入れる大衆紙という位置づけです。人口は日本より少ないですが、それでも読売、朝日の市場占有率にはまったく及びません。
新聞記事を客観化する手法
突出した発行部数を誇る日本の新聞が、先の衆院選のように、一斉に大規模世論調査をかけ、選挙戦序盤で「自民党優勢」を大々的に報道すれば、その影響はどれほどのものでしょうか。残念ながら、そのことの是非を問う自省や客観視の記事や論説は、主要紙からは出てきません。欧州の大衆紙以上の発行部数を持ちながら、「大衆」に対して「上から目線」で記事を書く日本の全国紙の特殊性について、私たちはもっと自覚的になる必要がありそうです。
1月4日の「リグミの解説」では、新聞記事に「スタンプ」を押して、「政府広報」「企業広報」「通信社の配信」「他紙の記事の焼き直し」「海外メディアの翻訳」「独自調査記事」「シリーズ企画」といった「色分け」をして、情報を客観視すると良いと述べました。今日はこれに加えて、新聞の論説や解説記事を、4つのセグメントに分けて、相互に比較することを提案したいと思います。
図の①は「保守(右系)」の「政府・行政の目線」、②は「リベラル(左系)」の「「政府・行政の目線」、③は「保守(右系)」の「大衆・市民の目線」、④は「リベラル(左系)」の「大衆・市民の目線」です。
新聞は、どの立場で書いているのか。記事毎に理解することで、私たちは、より客観的で全体観のある「ビュー」(視点、考え方)を持てます。それは、「ファーストビュー」(世の中の大多数の意見、立場)に空気として流されず、「セカンドビュー」(少数の異なった立場の視点、考え方)に耳を傾けられる、成熟した民主主義の在り方をサポートすることにもなると思います。
(文責:梅本龍夫)
【記事要約】 「公共事業5兆円」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
【記事要約】 「住宅再建支援、受給46%」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
【記事要約】 「反体制と対話拒否」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
【記事要約】 「スマホ向け動画、TVに」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
【記事要約】 「福島の中3、転校余儀なく」