【リグミの解説】
「知性人」と「工作人」
現人類を意味するホモ・サピエンスとは、「知性人」という意味です(広辞苑)。人間の頭脳に着目した命名と言えます。これに対して、ホモ・ファベル(「工作人」)という表現もあります(Kotobank.jp)。他の動物から区別される人間の本質は、道具を作るところにあるという観点です。本日の新聞1面トップもまた、「知性人」と「工作人」がせめぎ合う様を記事しています。
読売新聞は「再稼働容認、首長54%」。原発事故対策の重点区域が、従来の8~10キロ圏から30キロ圏に拡大されたことを受け、対象市町村の数は3倍、住民の数は7倍に膨らみました(news24)。アンケート調査に応えた首長は、地元経済が原発稼働による依存していたり、突然重点区域に組み入れられて災害対策の策定に追われたりと、複雑な背景を抱えています。
原発事故の重点区域に生きる
原子力発電所は、「知性人」の英知が結集され、「工作人」の創意工夫が如何なく発揮された、現人類の最高の成果物のひとつと信じられてきました。しかし、「安全」という意味では、きわめて不完全なものだということが、判明しました。
その結果が重点区域の拡大です。30キロ圏といえば、面積で言えば9倍増です。対象となる135市町村の首長の過半が再稼働容認という記事ですが、実際には49%が「条件付きで認める」という回答です。
「条件」とは、▽「政府による判断」=回答者の76%、「周辺自治体の同意・理解」=同64%、▽「住民の合意形成」=同56%、▽「福島第1原発事故の検証」=同50%、▽「防災指針の改定に伴う対策の実効」=同48%ーです(複数回答)。
これらの回答を解釈すると、こんな感じでしょうか。「政府は『知性人』の力量を発揮して、”原発は安全”と保証してもらいたい」「東電や専門家には、『工作人』としての本分を発揮してもらいたい」「『知性人』と『工作人』が納得できる説明をしてくれれば、私たちは再稼働OKを出すから」―。
「物語人」の登場
人類の頭脳に着目する「知性人」と、特異な身体能力に光を当てる「工作人」と共に、私たちと動物を区別する、際立った「違い」がもうひとつあります。それは、人間はストーリーテラーだということです。ラテン語名をつければ、ホモ・ファブラ(Homo Fabula)となります(Fabula=「物語」)。人間を「物語人」と見立てると、いろいろなことが納得できます。
「眼前の現実」をありのままに見るのでなく、それを「物語」を通して解釈するのが、人間の一大特徴ともいえます。これほどエンターテインメントが普及する理由は、人間が最も消費したいものは、「物語」だからです。政治もまた、「物語」として消費されています。「原発の安全神話」は、そうした「物語」の問題が浮上した例です。
でも、「物語」の価値を否定することは困難です。人間は、「自分は何者か?」という自己定義なしには生きられません。生活は、私は「〇〇だ」という「物語」があって、はじめて心理的に安定します。重点区域の首長が求めているのも、「原発は安全だ」「電力会社は間違いを犯さない」「住民は納得している」というストーリーです。中味ではなく、一貫した物語として語れれば良いのです。
「新しい物語」を探求する
「知性人」と「工作人」をつなぐ「物語人」が、「原発安全神話」の焼き直しを求めるのではなく、真に生きるに値する「物語」を獲得するには、どうしたらいいのでしょうか。ヒントは、科学的アプローチにあります。科学は、理論という名の「仮説」を立て、それを観察や実験を通して「検証」を繰り返し、「仮説」を絶えず更新していきます。その結果、ノーベル賞に値する理論が打ち立てられます。
科学は、理論という名の「物語」が、どんどんアップデートさせる方法論を持っているのです。これを科学と縁のない普通の人々も応用する。それが現代の「物語人」を賢くするコツです。古い物語はどんどん使えない神話になっていきます。探求心をもっていれば、「物語」は常に最新バージョンにアップデートされます。現実を反映しなくなった「古い物語」を追認するのでなく、真実を掘り起こす「新しい物語」を創造するのが、現代のメディアの大きな使命だと思います。
(文責:梅本龍夫)
【記事要約】 「再稼働容認、首長54%」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
【記事要約】 「都外施設入居、4年で2.6倍」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
【記事要約】 「装備品契約、業者有利に」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
【記事要約】 「製造業復活へ税優遇」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
【記事要約】 「過大値採用、建設に道」