2013.01.06 sun

新聞1面トップ 2013年1月6日【解説】「物語人」の使命

新聞1面トップ 2013年1月6日【解説】「物語人」の使命


【リグミの解説】

「知性人」と「工作人」
現人類を意味するホモ・サピエンスとは、「知性人」という意味です(広辞苑)。人間の頭脳に着目した
命名と言えます。これに対して、ホモ・ファベル(「工作人」)という表現もあります(Kotobank.jp。他の動物から区別される人間の本質は、道具を作るところにあるという観点です。本日の新聞1面トップもまた、「知性人」と「工作人」がせめぎ合う様を記事しています。

読売新聞は「再稼働容認、首長54%」。原発事故対策の重点区域が、従来の8~10キロ圏から30キロ圏に拡大されたことを受け、対象市町村の数は3倍、住民の数は7倍に膨らみました(news24)。アンケート調査に応えた首長は、地元経済が原発稼働による依存していたり、突然重点区域に組み入れられて災害対策の策定に追われたりと、複雑な背景を抱えています。

原発事故の重点区域に生きる
原子力発電所は、「知性人」の英知が結集され、「工作人」の創意工夫が如何なく発揮された、現人類の
最高の成果物のひとつと信じられてきました。しかし、「安全」という意味では、きわめて不完全なものだということが、判明しました。

その結果が重点区域の拡大です。30キロ圏といえば、面積で言えば9倍増です。対象となる
135市町村の首長の過半が再稼働容認という記事ですが、実際には49%が「条件付きで認める」という回答です。

「条件」とは、▽「政府による判断」=回答者の76%、「周辺自治体の同意・理解」=同64%、▽「住民の合意形成」=同56%、▽「福島第1原発事故の検証」=同50%、▽「防災指針の改定に伴う対策の実効」=同48%ーです(複数回答)。

これらの回答を解釈すると、こんな感じでしょうか。「政府は『知性人』の力量を発揮して、”原発は安全”と保証してもらいたい」「東電や専門家には、『工作人』としての本分を発揮してもらいたい」「『知性人』と『工作人』が納得できる説明をしてくれれば、私たちは再稼働OKを出すから」―。

「物語人」の登場
人類の頭脳に着目する「知性人」と、特異な身体能力に光を当てる「工作人」と共に、私たちと動物を区別する、
際立った「違い」がもうひとつあります。それは、人間はストーリーテラーだということです。ラテン語名をつければ、ホモ・ファブラ(Homo Fabula)となります(Fabula=「物語」)。人間を「物語人」と見立てると、いろいろなことが納得できます。

「眼前の現実」をありのままに見るのでなく、それを「物語」を通して解釈するのが、人間の一大特徴ともいえます。これほどエンターテインメントが普及する理由は、人間が最も消費したいものは、「物語」だからです。政治もまた、「物語」として消費されています。「原発の安全神話」は、そうした「物語」の問題が浮上した例です。

でも、「物語」の価値を否定することは困難です。人間は、「自分は何者か?」という自己定義なしには生きられません。生活は、私は「〇〇だ」という「物語」があって、はじめて心理的に安定します。重点区域の首長が求めているのも、「原発は安全だ」「電力会社は間違いを犯さない」「住民は納得している」というストーリーです。中味ではなく、一貫した物語として語れれば良いのです。

「新しい物語」を探求する
「知性人」と「工作人」をつなぐ「物語人」が、「原発安全神話」の焼き直しを求めるのではなく、真に
生きるに値する「物語」を獲得するには、どうしたらいいのでしょうか。ヒントは、科学的アプローチにあります。科学は、理論という名の「仮説」を立て、それを観察や実験を通して「検証」を繰り返し、「仮説」を絶えず更新していきます。その結果、ノーベル賞に値する理論が打ち立てられます。

科学は、理論という名の「物語」が、どんどんアップデートさせる方法論を持っているのです。これを科学と縁のない普通の人々も応用する。それが現代の「物語人」を賢くするコツです。古い物語はどんどん使えない神話になっていきます。探求心をもっていれば、「物語」は常に最新バージョンにアップデートされます。現実を反映しなくなった「古い物語」を追認するのでなく、真実を掘り起こす「新しい物語」を創造するのが、現代のメディアの大きな使命だと思います。

(文責:梅本龍夫)

 





【記事要約】 「再稼働容認、首長54%」

  • 原発事故対策の重点区域(原発から半径30キロ圏、屋内退避や避難などを行う区域)となる全国135市町村の首長に読売新聞がアンケート調査。133人から回答を得た。再稼働を「認める」「条件付きで認める」が54%、「認めない」は18%だった。
  • 「規制委の判断を踏まえた再稼働の可否」の回答は、以下の通り。▽「認める」5%、▽「条件付きで認める」49%、▽「認めない」18%、▽、▽回答留保など28%―。
  • 再稼働を「条件付きで認める」とした条件は、以下の通り(複数回答)。▽「政府による判断」50人、▽「周辺自治体の同意・理解」42人、▽「住民の合意形成」37人、▽「福島第1原発事故の検証」33人、▽「防災指針の改定に伴う対策の実行」32人、▽「その他」15人―。

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/
 





【記事要約】 「都外施設入居、4年で2.6倍」

  • 東京23区から生活保護を受けながら、高齢者施設に入居している人が2870人いる。2009年調査(977人)の2.9倍となる。このうち、都外の施設入居者は、1785人と62%を占める。2009年調査(696人)の2.6倍。
  • 都外の入居施設の地域は、以下の通り(21区が回答)。▽茨城県=180施設554人、▽群馬県99施設288人、▽埼玉県95施設239人―。
  • 厚生労働省によると、生活保護受給者数は、戦後最多の約213万人(昨年9月現在)。約43%が高齢者世帯。東京都内の受給者は、約29万人、4分の3が23区。地価が高い23区内は、施設不足が続く。

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/
 





【記事要約】 「装備品契約、業者有利に」

  • 「防衛装備品過大請求問題」についての防衛省の調査報告の中で、業者が適正な利益を得られない契約制度が不正を誘引したと分析。自らに不利な内容となっていることが判明した。
  • 同省は、<リスクに見合う利益を現行以上に上乗せすること>、<超過した経費は補填しないが経費が契約金額を下回っても返還を求めない>、などの改善策を検討している。「現行の制度では利益が少なく、装備品の生産が続けられず、調達に支障が出る恐れもある」とある幹部は説明する。
  • 「防衛装備品過大請求問題」は、三菱電機と子会社など5社が、ミサイルやレーダーの製造などの契約で、作業時間をごまかして人件費を水増し請求するなどした問題。1970年頃から始まった。5社の返納額は、805億円の見通し。

(毎日jp http://mainichi.jp/
 





【記事要約】 「製造業復活へ税優遇」

  • 政府の日本経済再生本部による成長戦略の基本方針案が明らかになった。「日本産業再興プラン」「国際展開戦略」「新ターゲッティングポリシー」の3分野で成長戦略をまとめる。
  • 3戦略の概要は、以下の通り。▽「日本産業再興プラン」=「設備・研究開発投資を促す税制の優遇措置を含めた特区創設を検討」「エネルギー、環境、医療などの成長分野の規制改革」、▽「国際展開戦略」=「中小企業の海外展開を後押しする基金創設の検討」「海外投資の成果を国内成長に結びつける投資協定や租税協定の締結」、▽「新ターゲッティングポリシー」=「高齢化や原発依存の低減など社会構造の変化による市場拡大が期待できる分野の重点育成」―。
  • 日本経済再生本部は、安倍政権が新設したミクロ経済政策の司令塔。マクロ経済政策を統括する経済財政諮問会議と両輪の役割を担い、首相官邸主導の経済政策を推進する。

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/
 





【記事要約】 「過大値採用、建設に道」

  • 八ッ場(やんば)ダムなど利根川の上流ダム群をの建設の根拠となった洪水の最大流量が、議論が尽くされないまま、大きく推計された値が採用されていた。1947年当時の建設省(現国土交通省)の内部資料で分かった。
  • 1947年のカスリーン台風による洪水をめぐり、利根川の治水基準点となる八斗島(やったじま)を通過した最大流量を決める検証が対象。当初、「1万5千立方メートル」で進んでいた議論が、突然同省土木研究所から「1万7千立方メートル」が提示された。委員から疑問が出されたが、この数字が正式採用された。
  • 同資料を入手した岡本芳美・元新潟大教授(河川工学)は、「私の計算では1万5千立方メートルよりもっと少ない。国は当時ダム建設を進めていた。ダムを造るため治水名目をつくりだし、恣意的に最大流量を増やしたのではないか」と語る。

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)




【本日の新聞1面トップ記事】アーカイブ