【リグミの解説】
「社内失業」
本日の新聞1面トップは、朝日新聞が「社内失業」です。パナソニックグループに「追い出し部屋」と従業員が呼ぶ部署があるという記事。製造業の「国内回帰」を先導してきたパナソニックですが、巨大赤字を連続して出し、余裕がなくなっています。つい最近まで業績が安定していた大企業でも、雇用を支え切れなり、30~40代にも「社内失業」が生じている実態を、朝日の記事は伝えています。
昨日の「リグミの解説」で、企業が生き残りをかけて1990年代に相次いで「成果主義」を導入した経緯を振り返りました。米国流の経営スタイルを前提とする「成果主義」は、日本の風土のなじませるのが簡単ではありません。中途半端な対応をしている内に、企業の体力は蝕まれ、優良企業の雄であったパナソニックにまで、朝日新聞の記事のような事態が生じています。
日本の雇用制度
日本の大企業は、戦後長く ①年功序列、 ②終身雇用(定年までの長期雇用)、 ③企業別労働組合―の「三種の神器」で雇用を守ってきました。バブル崩壊後、年功序列を見直して「成果主義」を導入し、終身雇用の枠を絞って非正規雇用を増やしました。50代以降の早期退職(リストラ)も実行しました。
そのリストラは、次第に若い世代にも及び、就職氷河期をくぐり抜けて正社員の座を確保した30代も例外でなくなってきています。雇用主という「与党」に対抗する「野党」の役割を担うべき企業内の労働組合は、激変する企業雇用の現場で、有効なカウンターバランスとなれず、しぼんでいく正規雇用の枠内での年功序列と長期雇用の維持だけを目指しているように見えます。
「日本型リスク」
「失われた20年」は、「日本型リスク」ともいうべきものが顕在化したプロセスでした。一言でいえば、大胆な戦略的転換ができないのが、日本型リスクです。変わりたくない、今までの安定を維持したいという思いが強いために、現実と合わない制度や慣行を続けます。すると綻びがあちことで生じますが、根本治療をせず、小手先の戦術で対処しようとします。「成果主義」はその典型です。
時代に合う雇用を考えるためには、社会全体の調整が必要だと思います。下記の枠組みが考えられます。
「多様性」「チャレンジ」「チームプレイ」
しかし、人事制度や雇用制度をいくらいじっても、社会全体が「チェンジ」を志向できず、「変わらない守りの姿勢」を維持しようとする限り、成果は出ず、むしろ逆効果になります。上記の枠組み案が機能する大前提は、「再チャレンジ」ができる世の中になる必要があります。「新卒で採用されなかったら、アウト」、「一度正規雇用から外れたら、2度と戻れない」、「出産したら退職を余儀なくされ、元の仕事に就けない」、「起業して失敗したら借金だけ残り、経験を生かした再就職の道は閉ざされる」―。
日本の覆う「閉塞感」は、誰もが既得権を守ることでしか、安心と安定を得られない状況にあります。「変われない日本」は、「変わりたくない日本」です。その深層にある心理は、「変わったら終わり」という不安と恐怖です。日本は、人と違うことにチャレンジし、新しいものを創造することに臆病になっています。空気を読み合い、静かに目立たないようにしようとしています。私たちは、どうしたらいいのでしょうか。
今、日本に必要なものは、「多様性」「チャレンジ」「チームプレイ」の3つです。「多様性」は変化の時代に創造をもたらす土壌です。「チャレンジ」は変化に対して受け身にならず、「積極的な態度」で臨むことです。多様性があれば、自然にいろいろなチャレンジが起きます。そして「チームプレイ」は、多様性を包摂する社会の在り方です。それが一番発揮されるのが、「再チャレンジ」の場を提供し合うことです。失敗しても、セーフティーネットがある、そして再起できる、また新しいことにチャレンジできると確信が持てて、人ははじめて未来に対して「積極的な態度」が取れます。
「煩悩」は可能性の宝庫
今日は、大晦日です。夜半に各地の寺院で、除夜の鐘が鳴ります。梵鐘を108回突くのが習わしです。108は、「凡夫の煩悩の数」と言われます(「今日は何の日?」)。なぜ108なのでしょう。
エニアグラムという性格タイプ論の心理学では、性格は9タイプあると考えます。さらに、9つのそれぞれのタイプに2つのバリエーションがあるので、厳密には18タイプに分かれます。また性格タイプとは別に、人間の内側には、進化のプロセスで発展させてきた本能的なエネルギーがあると言われます。これが全部で6種類あるとエニアグラムでは想定しています。結果として、広義の性格分類は、18 x 6 = 108となります。
「煩悩の数」と「性格タイプの数」の一致は、単なる数合わせに過ぎません。雑学として面白いな、という程度のもの。でも、ものは考えようです。「煩悩」とは、「あれがしたい、これはしたくない」という欲望です。それは人間を突き動かしている心的なエネルギーです。仏教では、煩悩は鎮めるべきものですが、なくすべきとは言っていません。なくすべきは、心的なエネルギーのネガティブな出し方なのです。
もし日本に「108」の多様な人材がいて、「108」のチャレンジを試み、それを「1つのチーム」として連携してやり遂げていったらどうなるでしょうか。日本の希望の光は、私たちの社会が本来持っている「多様性」を引き出すところにあります。リグミでは、日本と世界が発展し、進化していく道筋を探求し続けたいと思います。来年もリグミをよろしくお願い致します。
(文責:梅本龍夫)
【記事要約】 「米無人機、自衛隊に導入」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
【記事要約】 「配属先は『追い出し部屋』 ~限界にっぽん」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
【記事要約】 「拉致『解決済み』撤回示唆」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
【記事要約】 「公的資金で製造業支援」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
【記事要約】 「揺らぐ9条、2つの道」