【リグミの解説】
「3つの態度」
人間には、「3つの態度」があります。1つは、前に出て自己表現をする「積極的な態度」です。2つ目はその反対で、後ろに下がり内にこもる「消極的な態度」です。そして第3に、積極的な人と消極的な人のちょうど中間に入って両者を取り持つ「融和的な態度」があります。
本日の毎日新聞の1面トップ記事は、「イマジン」という特集記事の第1回です。「もしも、こうなれば」と意志をもって未来を想像することで、日本が変われたら、という願いが込められた調査報道です。その第1回のテーマは、「セカ就」。「世界に向けた就職」の略です。窮屈な日本を飛び出す若者たちが注目するのが、高度成長に沸くジャカルタ。日本の1960年代を彷彿とさせる活気が、若者を引き付けています。
「セガ就」の背景
この記事の中で、気になった表現を挙げてみます。
平成の24年間で、世界は激変しました。しかし日本はグローバルな変化に背を向けるように社会全体が「消極的な態度」を続け、「日本社会は変わらない」という選択を繰り返してきたのでしょうか。「失われた20年」という表現は、変化を拒絶したり、ガラパゴス的に日本列島の中に閉じこもった経済活動をした結果、世界の潮流に乗り遅れてしまった日本の現状を嘆いたものです。
「成果主義」の文化的バイアス
しかし、日本は実際には激変しました。バブル崩壊後に経済が行き詰まり、大企業が倒産する時代となり、企業は生き残りのために人件費と雇用形態に手をつけました。「成果主義」を導入し、個人の地位や報酬に格差をつけるようになりました。次に、正規雇用を減らし、非正規雇用を増やしました。その結果、社会的な格差が広がり、安定した生活基盤を築けない貧困層が拡大しました。なぜこのような状況になってしまったのでしょうか。
「成果主義」では、「積極的な態度」を取り成果を上げる上位10~20%の人を引き上げ、「消極的な態度」に留まり成果を上げられない下位の10~20%の人を引き下げます。そのことで、中間にいる「融和的な態度」を取る60~80%を活性化し、全体のパフォーマンスを上げようとする制度です。その前提にあるのは、個人主義、自己責任、成功者を賞賛する、といった社会規範や文化的価値です。米国に典型的ですが、日本にはなじみのないものでした。
米国は、「積極的な態度」が国民性としてあり、「成果主義」がなじみます。しかし日本の国民性は「融和的な態度」を基本としています。上位の「積極的な態度」の人も下位の「消極的な態度」の人も、ぶあつい中間層である「融和的な態度」の人を介して、1つのチームとして機能し、全体で成果を達成する。日本は、高度成長期を通してそんな組織や社会を長く続け、GDP世界2位の地位を確立してきました。
「新自由主義」の功罪
「成果主義」で、日本は米国型社会にはなれませんでした。成功した人を賞賛できず(むしろ嫉妬したり、足を引っ張ったりし)、一方で今まで一緒にやってきた仲間で脱落していく人に、手を差し伸べるのをやめてしまいました。チームプレイの要となる「融和的な態度」の中間層が、上位の足を引っ張り、下位の足切りをするというネガティブな行動をあからさまにするようになったのが、この20年の変化ともいえます。それが、「抑圧感」や「窮屈さ」さの背景にあるものだと思います。
1980年代以降、世界を席巻した新自由主義の考え方(小さな政府、規制緩和、減税、市場原理の導入、個人の自由の尊重)の流れの中に「成果主義」は位置づけられます。それは、国家や社会の在り方の全体を大きく変えるものでした。しかし日本は、「小さな政府」「規制緩和」「減税」は中途半端なまま、雇用面を中心に「市場原理の導入」と「個人の自由の尊重」を導入しました。
理由はさまざまですが、日本は米英を中心とした新自由主義の価値観を、社会として、国民性として、すんなり受け入れられなかったのだと思います。個人に性格の違いや個性があるように、国家にも文化の違いや社会の独自性があります。日本は、「変われない」のではなく、「変わりたくなかった」のではないでしょうか。
グローバル・ニッポン
自分の性分に合わない変化を押し付けられても、人は変われません。自ら「変わりたい」と心底願い、ポジティブな動機づけがされて、初めて変化できます。毎日新聞の記事は、そんな願望を持った若者たちにスポットライトを当てています。彼らは、日本を見限ったように見えますが、本当は海外に飛び出すことで、大きなブーメランとなって日本に新しい風をもたらそうとしているのだと思います。
日本には日本の変化の方法論があるはずです。日本の中心層である「融和的な態度」の人々が、今は社会の安全と安心を疑い、すっかり「消極的な態度」に傾斜し、保身に走っています。この中間層の内側から、どうやって「積極的な態度」を引き出していくか。世界の潮流である「個人の自由と多様性」を尊重しつつ、日本の伝統芸である「チームプレイ」をどうやって融合していくか。「融和的な態度」のオリジナリティーの発揮のしどころは、「自由闊達なチーム創り」にあるなだと思います。
元々、積極的な人は海外に飛び出しています。かつてのブラジル移民や米国移民のように、出国した人々を棄民扱いするのでなく、世界に飛び出す若者たちをグローバル・ニッポンの仲間として、どうやって1つのチームを創り上げるか。21世紀の日本の「心の国境」を一気に拡大すること。そこに大きなヒントが隠されているように感じます。
(文責:梅本龍夫)
【記事要約】 「ドコモ、新OSスマホ」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
【記事要約】 「比カジノ進出、高官接待」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
【記事要約】 「成長の熱気求め ~イマジン(1)」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
【記事要約】 「台湾大手、邦銀買収へ」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
【記事要約】 「オスプレイ調査費計上」