2012.12.29 sat

新聞1面トップ 2012年12月29日【解説】理想と現実

新聞1面トップ 2012年12月29日【解説】理想と現実


【リグミの解説】

安倍首相のアプローチ
本日の新聞1面トップ記事は、安倍首相の新政権の動きに関連するものが中心です。読売は、首相の外交
政策に関するインタビュー。朝日は首相の金融政策に関する発言の影響について。日経は、物価目標を政府と日銀が協調することに関する日銀の白川総裁のインタビュー。そして東京新聞は、新政権でも継続する首相官邸前の反原発デモの記事です。

安倍首相の外交姿勢は、日米同盟を基軸に、アジアで複数の多国間の安全保障上の同盟関係を強化し、対中国の包囲網を作っていくというもののようです。拳を固め、価値観を共有できる仲間を集った上で、価値観の異なる相手との話し合いに臨むスタンスといえます。

「タカ派」か「現実派」か
安倍首相を「タカ派」とする論評は多く、日本の政治が急速に「右傾化」しているとの指摘が、米ワ
シントン・ポスト紙、米タイム誌でなされています(毎日新聞12月28日3面)。昨日、「リグミの解説」で紹介した英エコノミスト誌の論説も同じ流れです。

一方で、実際の安倍氏の判断や行動は、「現実主義」を取っているとの見方もあります。上に引用した毎日新聞で西川専門編集委員も、「日本が『一国平和主義』から、国際社会での責任を応分に果たしていく体制づくりを進めてきたのが、冷戦後のこの20年余であり、それは現実により適応していくプロセスであった」、と示唆します。自民党政権の中枢も、安倍首相は「タカ派」ではなく「現実派」である、との認識が基本のようです。

「現実主義」の問題
問題は2つあります。第1に「現実主義」は、目の前の現実から出発するということです。西川氏は、「集
団的自衛権の議論も、基本はPKOで紛争地に自衛隊を派遣した際、他国部隊が攻撃されても自衛隊は守ってやれない現実を踏まえてのものだ」と記しています。しかし、そもそもなぜ日本の自衛を目的とした組織が海外にいるのか。目の前の現実を「与えられた、変えられないもの」とするのが「現実主義」の思考法の特色です。

第2の問題は、変化の方向性です。「現実主義」の指導者が「現実的判断」に基づき、「現実的に対処」した結果、目の前の現実は変化します。それも「理想」とは異なる「現実」のワンステップですから、早晩次の「現実的判断」が求められます。その1つひとつの判断は、「現実的」で妥当だとしても、向かっていく方向は「理想」からどんどんはずれていく可能性があります。

価値観とアプローチの2軸で考える
こう考えると、実は「タカ派」と「現実派」という関係ではなく、2つの対立軸で見ていく必要があるこ
とがわかります。まず、「タカ派」(保守)か「ハト派」(リベラル)かという価値観や主義の対立軸があり、その上で、「急進的」か「現実的」かというアプローチや進め方の違いが出てきます。

この整理でいくと、安倍首相は、「タカ派」で「現実主義」ということになります。比較として、日本維新の会代表の石原慎太郎氏は、同じ「タカ派」でも、都知事時代に尖閣諸島の東京都の買上げを打ち出したり、衆院選では核武装論まで踏み込むなど、アプローチがより「急進主義」なのだと思います。

ハードパワー志向
国家には、「ハードパワー」(経済力、軍事力、外交力など)と「ソフトパワー」(国土の魅力、歴史・
文化・生活様式の特徴など)の両方があります。「タカ派・保守」は「ハードパワー」を重視し、「ハト派・リベラル」は「ソフトパワー」を尊重します。しかし、どちらの派でも、「現実主義」のリーダーであれば、ハードとソフトのバランスを取り、上手に組み合わせて使っていきます。

「失われた20年」によって、日本人の中に閉塞状況を一気にリセットして「すっきりしたい」という思いが強くなっているように見えます。「タカ派」の強さ、「急進主義」の革命的効果に期待が寄せられる理由です。しかし、今日の政治はあらゆる課題がグローバルに複雑に絡み合っており、骨太の「現実主義」以外のアプローチを取れば、制御不能な状況を作り出す可能性があります。

「現実主義」はどこに向かうのか
問題は、「現実主義」が私たちをどこに連れて行くかです。図式的に言えば、「タカ派」はタカのように
強い者にに自由と裁量を与え、タカに従うハトには公に貢献する規律を求めます。逆に「ハト派」はハトのような弱い立場の者に自由と公正を与え、ハトを脅かすタカには規制をかけます。

2012年から2013年にかけての日本が「右傾化」しているのかどうか。その判断や評価は、「現実主義」の政治が、私たちをどこに導いていくかにかかっています。憲法を改正し、集団的自衛権を確立したり、自衛隊を国防軍にあらためる動きは、確かに「右寄り」ではあり、それが政治の「ファーストビュー」になりつつあります。

「対話」を続ける
今日、「ハト派、リベラル」あるいは「左寄り」の発言のマスコミ登場が減る中で、リベラル
の政治家として長年に渡り政治の中枢に存在した河野洋平・元衆院議長による毎日新聞への寄稿は、「セカンドビュー」として注目されます。
 

「国際社会における『発言力』は、核兵器によってのみ生まれてくるものではない。歴史に対する洞察を持ち、弱い立場の国々の側に立ち、ビジョンを示すソフトパワーを軽視してはならない。憲法で『戦争放棄』を明確にしていることは、わが国のソフトパワーの重要な源の1つだ」― 河野洋平・元衆院議長(毎日新聞12月24日6面)
 

「現実主義」の良い面は、異なる「ビュー」(立場、価値観)の人々とも「対話」を続け、現実的で建設的な前進を試み続けられることです。日本の政治に、常に必要な座標軸です。

(文責:梅本龍夫)
 





【記事要約】 「首相、対中改善へ布石」

  • 安倍首相は28日、読売新聞のインタビューに答えた。安倍政権の外交方針について、「日米同盟が基軸だ」と語った。
  • 日中関係については、「日本と価値観を共有する国、ベトナムなど戦略的に重要な国と信頼関係を構築することで、(日中関係も)新たな展開を開くことができると考えている」と述べた。日米豪、日米印の安全保障の協力、インドネシアとの協力にも言及した。
  • その他の主な発言は、以下の通り。▽北方領土問題は我々の世代で解決に挑戦する、▽集団的自衛権行使の選択肢を持つことで地域が安定する、▽TPPはオバマ大統領との間で同盟国らしい話し合いをする―。

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/





【記事要約】 「株価過熱、暮らし厳寒」

  • 東京株式市場は28日、今年最後の取引で日経平均株価の終値が1万0395円18銭と、今年の最高値をつけた。年末を最高値で終わるのは、1999年以来、13年ぶり
  • 自民党の安倍総裁が11月中旬以降から「大胆な金融緩和」発言をして、株式市場の流れが一転した。「海外投資家が日本株にこんなに注目しているのは(バブル崩壊後の)この20年間で初めて」とJPモルガン証券のイェスパー・コール氏は語る。
  • 円も売られ、28日午後5現在の円相場は1ドル=86円31~33銭で、2年4ヵ月ぶりの円安水準となった。過熱する金融市場とは裏腹に、実体経済の指標は冷え込んでいる。現金給与総額は3ヵ月連続で減少。一方で、住宅ローンの金利は早くも上がり始めている。

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/





【記事要約】 「原子力委、官邸欺く報告」

  • 内閣府原子力委員会は5月24日、官邸に虚偽報告をしていた。原発事業者ら推進側だけで「勉強会」と称する秘密会合を開いていた問題を毎日新聞が報道したのを受けたもの。
  • 核燃料サイクル政策の見直しを進める小委員会で、使用予定文書の原案について議論し内容を変更した。しかし、「議論も書き換えもない」とうそを記載した記者会見向けの想定問答を作成し、電子メールで官邸に送信していた。
  • 内閣府は、8月に最終報告をまとめたが、メールの存在を把握しながら実態解明をしていなかった。検証チームのずさんさが判明した。

(毎日jp http://mainichi.jp/





【記事要約】 物価目標、政府と連携」

  • 日銀の白川総裁は、日経新聞とのインタビューに答えた。
  • 「物価目標」についての発言要旨は、以下の通り。▽「物価安定やデフレ脱却という意味の正確な共有をすべき」、▽「達成時期を『中長期』とするなど、金融政策の柔軟性を確保すべき」、▽「景気が良くなった結果として物価も上がることを国民は求めている」―。
  • 「政府との連携」についての発言要旨は、以下の通り。▽「脱デフレには金融緩和とともに規制緩和など政府による成長力の強化が不可欠」、▽「中央銀行の独立性は長い歴史の教訓。財政ファイナンスは決してしない」―。

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/





【記事要約】 「新政権へ『命を守れ』」

  • 28日、年内最後の首相官邸前の反原発デモが行われた。原発維持を鮮明にする第2次安倍政権が発足してから初めて。政権交代で原発推進の流れができることへの不安が多く聞かれた。
  • 横浜市の井畑淑雄さん(無職、70)は、「原発の安全神話や原子力ムラを作り上げてきたのが自民党。『2030年代原発ゼロ』方針の見直しもとんでもない」と憤る。
  • 千葉県の渡辺順子さん(保育士、62)は、「自分のふるさとに帰れない人たちがもう2回目の年を越してしまう。何もできないけれど、来年もここに来続けたい」と話す。

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)




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