2012.12.25 tue

新聞1面トップ 2012年12月25日【解説】社会を開く

新聞1面トップ 2012年12月25日【解説】社会を開く


【リグミの解説】

本日の新聞1面トップ記事は、読売が「安倍政権の人事」、朝日が「通信傍受法の改正案」、毎日が「教員の心の病」です。それぞれに、「女性比率」「自由と公序」「ストレス・マネジメント」の視点でコメントします。

読売: 女性比率のターゲット
儒教の伝統が強い韓国で、初の女性大統領が誕生しました。朴槿恵(パククンヘ)氏は、1948年から始まった
大統領制のもとで18代で11人目の大統領です(引用1)。一方の日本は、過去127年、95代で62人が首相になりましたが、全員が男性です(引用2)。衆議員に占める女性比率は、今回の選挙で16人減って38人です。歴代内閣で閣僚経験のある女性は32人。主要国の閣僚の女性比率では、日本は11.8%で192ヵ国中65位、G8では最下位だそうです(引用4)。

自民党は、政権公約で、「社会のあらゆる分野で2020年までに指導的地位に女性が占める割合を30%以上とする目標を確実に達成する」と明記しています。安倍総裁は、閣僚に女性を5人起用すると発言していました(引用5)。日本の国務大臣の数は、原則14人(必要あればさらに3人任命可能)です。5人の女性が入閣すれば、比率は3割となります。安倍氏のイニシアチブに注目です。

朝日: 「個人の自由」と「公の秩序」
筆者は民営化前のNTT(電電公社)に勤務していました。電話局で研修を受けたとき、当時の機械式の電話交
換機にコネクターをつなぐと、通信を簡単に傍受できることに驚きました。業務の一環として、通話状態の品質確認のために、ランダムに聴取するものでしたが、プライベートな会話を盗み聴くようで、居心地のわるい仕事でした。

通信傍受法の改正案が検討されています。「盗聴法」と批判され、使用制限が強く、捜査の現場からは使い勝手が悪い」との不満がある、と記事は伝えています。捜査に必要との建前のもと、どこまでプライベートな会話が傍受されて良いのか。難しい問題です。

筆者が「居心地のわるさ」を感じたのは、それが研修の一環の単
発の体験だったからです。業務として定常的にしているうちに、感覚が麻痺することは十分あり得ます。「個人の自由」と「公の秩序」の関係は、安易に流れることがないように、目をこすってよく注意して見る必要があります。

毎日: 学校のストレス・マネジメント
文部科学省は、全国の公立小中高校と特別支援学校、中高一貫校の教員約92万人の調査結果を発表しました。
2011年度中にうつなどの「心の病」による休職は、5274人。比率で、約0.6%です。これは多いのでしょうか、少ないのでしょうか。

日本のうつ病患者数は、2008年で104万人。厚労省によると、12カ月有病率が1~2%、生涯有病率が3~7%です(引用6。文科省の調査データでは、うつ病などの「心の病」としています。うつ病だけでも、厚労省データでは年間1%以上発生しているとすると、文科省が調べた教員の有病率は、実際よりも低いと見るべきかもしれません。

教職員のストレスの実態は、どのようなものなのでしょうか。児童・生徒の「いじめ」が大きな社会問題になっています。「いじめ」は社会の反映であり、学校という閉鎖的な空間で突出して起きると言われます。「いじめ」をなくす基本は、心を健全に保つことです。そして健全な心は、他者に対して開かれています。共感し、受け入れます。そういう教師を見て、生徒たちの心も開かれ、成長していきます。学校におけるストレス・マネジメントを真剣に考えるべき時期に来ています。

開かれた社会を目指して
今日の3つの記事コメントに共通するものは、「開かれた社会」となるかもしれません(補足:朝日の記事は、法制審議会で捜査の「可視化」と並行して、通信傍受法の適用拡大が検討されている、という内容です)。

権力は常に、内側に閉じようとする力学が働きます。その方が権力を維持し、権威を発揚しやすいからです。男性社会では、女性の可能性を閉じ、捜査の現場では、外部の監視(捜査の可視化)を嫌います。学校の教師もまた、社会に対して内に閉じた環境で、教育者としての地位を保とうとします。

しかし、既成の権力が社会に対して閉じた空間を保とうとすると、矛盾や問題もたくさん抱え込むことになります。多様性を活かし、自由の本当の価値を実現する社会は、外部に対して開かれています。そういう社会は、未来の可能性にも開かれています。


(文責:梅本龍夫)
 





【記事要約】 「安倍内閣、経済を重視」

  • 自民党の安倍総裁は、26日召集の特別国会で第96代首相に選出され、第2次安倍内閣を発足させる。経済再生を重視した布陣を敷く。
  • 入閣確定候補は、以下の通り。▽副総理・財務・金融=麻生太郎、▽法務=谷垣禎一、▽文部科学=下村博文、▽厚生労働=田村憲久、▽経済産業=茂木敏充、国土交通=太田昭宏、▽官房=菅義偉、▽復興=根本匠、▽国家公安・拉致=古谷圭司、▽経済財政・経済再生=甘利明―。
  • ポスト調整中は、以下の通り。▽石原伸晃、▽林芳正、▽山本一太、▽小渕優子―。

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/





【記事要約】 「通信傍受法、対象拡大」

  • 法相の諮問機関である法制審議会の特別部会は、年明けから通信傍受法の対象犯罪の拡大を具体的に検討していく。現在、「薬物」「銃器」「組織的殺人」「集団密航」に限定されているものを、「振り込め詐欺」や「組織的な窃盗」にも適用できるようにするもの。
  • 通信傍受法は、1999年8月に成立した。「盗聴法」という批判が強く、国会審議で対象が限定された。2011年12月までの12年間で傍受された事件は、67件のみ。捜査側は「使い勝手が悪い」との不満がある。
  • 特別部会は、取り調べの録音・録画(可視化)の法制化とともに、新たな捜査手法の検討を進めている。通信傍受法の適用対象の拡大そのものに目立った反対意見はないが、憲法が保障する「通信の秘密」に関わるため、今後議論が紛糾する可能性がある。

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/





【記事要約】 「『心の病』休職教員5274人」

  • 文部科学省は24日、全国の公立小中高校と特別支援学校、中高一貫校の教員約92万人の調査結果を発表した。2011年度中にうつなどの「心の病」による休職は、5274人だった。同省は、今年度中に対策を検討する。
  • 「心の病」は、2年連続で漸減したが、2008年から5000人超と、10年前(2002年度2687人)の約2倍の水準が続いている。文科省は、「学級をひとりで受け持ち、保護者との関係の悩みなどを同僚や上司に相談しにくい状況が依然あるのではないか」と見る。
  • 一方で、指導が不適切と認定された教員が168人いた(2010年度は208人)。「学習指導要領が理解できず、指導計画が立てられない」「常に指示待ちで書類を作成できない」「生徒に対しマイナスの発言が多い」などの事例があった。

(毎日jp http://mainichi.jp/





【記事要約】 「高速道補修、3兆円捻出」

  • 国土交通省は、高速道路会社の債務完済時期の大幅延長を検討している。2050年を10年延長すれば、3兆円程度の財源が捻出できる。中央自動車道の笹子トンネル事故などを念頭においたもの。、国の税収が減少しており、道路の老朽化も深刻であるため、方針転換する。
  • 道路会社は、料金収入を原資に2050年までに、約40兆円の債務を完済することになっている。2050年以降は無料化し、補修は一般財源で賄う。しかし、高速道路は、現状でも築30年以上が4割近くを占め、維持費は今後増大する見通しだ。
  • 国交省は、現行の民営化の枠組みの中で中長期的な補修費を捻出するためには、返済期間延長以外の手法は困難とみている。方針転換により、2050年の利用無料化目標は大きく後退する。

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/





【記事要約】 「賠償書類7000人届かず」

  • 東京電力が福島第1原発事故で避難している住民に郵送した、家屋修理費の賠償請求書類7000人分が、宛先不明で届いていないことが判明した。対象者の3割に上る。
  • 東電は、避難先がわからない人には、不動産登記に記載された所有者の住所に送った。しかし、避難区域では住民は留守にしており、郵便物の配達が休止されている地域も多い。
  • 東電は、「被災者から連絡があれば、指定の宛先に書類を送る。」「避難先の情報を持つ自治体や国と調整し、請求書が確実に届くよう、改善策を検討中」とする。

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)




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