【リグミの解説】
ニッポンの今
本日の新聞1面トップは、久しぶりに5紙とも別の記事です。各紙のトップ3つの記事を比較してみます。
読売: ①「34拠点病院『津波浸水』」 ②「殺人・放火容疑、警部補逮捕」 ③「民主代表、海江田氏有力」
朝日: ①「警部補、夫婦殺し放火容疑」 ②「衆院議長に伊吹氏」 ③「民主代表選は25日」
毎日: ①「幹細胞、培養・使用を規制」 ②「公務このままで」 ③「政調会長に小池氏検討」
日経: ①「シェールガス利用、提携」 ②「所得の海外流出最大」 ③「厚労相に田村氏内定」
東京: ①「復興事業、生活止める」 ②「殺人容疑、警部補を逮捕」 ③「郡山に『川崎式サイト』」
社会の矛盾
2012年12月23日は、ニッポンの今を、どう象徴しているでしょうか。社会は矛盾と逆説に満ちています。新聞はいつの時代も事件や社会的な問題を取り上げます。富山では、警部補が殺人・放火の容疑で逮捕されました(読売②、朝日①、東京③)。
自民党の大勝
そんな中、衆院選で大勝を果たし政権を奪還した自民党は、自信に満ち、閣僚人事を進めています。新政権は、選挙戦で掲げた外交や憲法や教育の保守的な公約を、どんどん具体化していくのでしょうか。それとも、来年6月の参院選でも自公で3分の2以上の議席が取れるように、景気対策を中心に実務重視で臨むのでしょうか(朝日②、毎日③、日経③)。
民主党の壊滅
一方で壊滅的な敗北を喫した民主党は、混乱の中にあり、党代表選を延期しました。誰が次の代表になっても、それは来年6月の参院選に向けた「顔」ではありません。自民党との2大政党制を維持できるか、瀬戸際での再生が問われています(読売③、朝日③)。
東日本大震災という国難
民主党政権のときに起きた最大の国難は、東日本大震災でした。民主党以外の政権であったなら、その対応はどう違っていたのでしょうか。自民党は、東日本大震災からの復興について、「東北をバネとした『新たな経済モデル』に挑戦する」と掲げます。東日本大震災の復興は、みなが等しく望むことですが、硬直した仕組みの中、復興されるべき現地には矛盾が堆積していきます(東京①)。
大災害の時代
大震災は過去ではありません。それは現在進行形であり、さらには近未来の危機でもあります。マグニチュード9クラスの南海トラフ巨大地震の可能性が現実のものとして想定され、政府と自治体は防災対策を進めています。しかしその対応は大変です。全国653の災害拠点病院のうち、189施設がこの巨大地震の影響範囲に入りますが、34病院が「津波浸水」のリスクを想定しています(毎日①)。
現在進行形の原発問題
3.11後のもうひとつの現在進行形の問題が、原発です。巨大地震による災害は、津波だけではありません。原発事故が今度起きたら、その影響は計り知れません。しかし、原発・エネルギー政策は、国家経済の根幹と直結します。原発が停止し、火力発電に依存した結果、石油やLNGの輸入が増え、貿易を通じた所得の海外流出が過去最大の18.5兆円となりました(日経②)。
グローバル経済の中の日本
目を世界に転じれば、グローバル経済はダイナミックに動いています。原発停止は、燃料の輸入増によるコスト高と石油の中東依存など安全保障の問題を浮上させますが、同時に、米国のシェールガスの登場で、燃料が低コスト化する可能性もあります。国内の自由競争で、サービスやテクノロジーのイノベーションも期待できます(日経①、12月22日「日経新聞1面トップ記事要約」参照)。
天皇誕生日
忘れてならないのは、今日が天皇誕生日だということ(毎日②)。昭和の前半20年は、戦争の時代でした。後半40年は平和を構築する時代となりました。そして今上天皇になり、本当の意味での象徴天皇として、国家の平和と国民の幸福を祈念する存在となりました。天皇皇后両陛下が率先して大震災の被災地に入り、膝を屈して避難民に語りかけるお姿を見て、多くの日本人が心動かされました。
皮肉なことに、敗戦後からの平和国家建設の道程で、平成の24年間は、ほぼ「失われた20年」と重なります。日本の矛盾が一気に顕在化しました。私たちは、「平和主義」による経済的繁栄という戦後最大の成果物を、どうやって次代に継承していけば良いのでしょうか。
A級戦犯7人の絞首刑
そのことを考える上で、今日は象徴的な日です。今上天皇が皇太子であった昭和23年(1948年)に、A級戦犯の東條英機、板垣征四郎、土肥原賢二、松井石根、木村兵太郎、武藤章、広田弘毅の7人が巣鴨プリズンで絞首刑に処せられました(参照:「今日は何の日?」)。皇太子の誕生日に重ねることで、日本国民が長く戦争の記憶を刻むようにとGHQが画策した結果だとする説があります(参照:Wikipedia)。その意図は、成功したのでしょうか。巣鴨プリズンが、今の池袋サンシャインビルだと知る人は、若い世代ではほとんどいないかもしれません。
昭和の教訓
保坂正康氏の『昭和史の教訓』の冒頭にゲーテの言葉があります。
「歴史は、時々書き換えなければならない。
なぜならば、新しい事実が発見されたからではなく、
新しい見方が出てくるからであり、
ある時代の進歩への参加者は、新しい行き方で過去を見、
判断出来る立場に置かれているからである」
この衆院選で、政治の保守化が一気に鮮明になりました。「昭和史の教訓」を日本人はどう受け止め、未来を創造していくのか。12月23日は、過去の100年を振り返り、未来の100年に思いを馳せるのにふさわしい日です。
(文責:梅本龍夫)
【記事要約】 「34拠点病院『津波浸水』」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
【記事要約】 「警部補、夫婦殺し放火容疑」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
【記事要約】 「幹細胞、培養・使用を規制」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
【記事要約】 「シェールガス利用、提携」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
【記事要約】 「復興事業、生活止める」