【リグミの解説】
日銀の物価目標
本日の新聞1面トップ記事は、読売、毎日、日経が「日銀、物価目標」です。日銀の物価目標(インフレ・ターゲット)は、自民党が政権公約に掲げ、安倍総裁が持論として衆院選の選挙期間中に強く訴えていた政策です。各紙の評価は分かれます。
読売: 「政府・日銀はデフレ脱却急げ」(社説)
○ 日銀の迅速な対応と目標設定を評価する
○ 金融政策だけではデフレ脱却と景気回復は望めない
○ 政府と日銀が実効性のある政策協定を結ぶべきだ
毎日: 「安倍さん、ここは熟慮を」(社説)
○ 目指すものが「目途か目標か」、「1%か2%か」はそさほど意味はない
○ 安倍総裁の「物価目標」には、「何のために」と「どのように」の両方で疑問と危うさを感じる
○ 中央銀行の独立性を脅かす政策協定(アコード)は、先進国として恥ずかしい
日経: 「金融緩和強化の知恵を絞れ」(社説)
○ デフレや円高の克服には、強力な金融緩和が欠かせない
○ 政府と日銀が連携を深めるのは良い
○ ただし日銀の独立性を尊重することが前提。硬直的な目標追求や具体的手法にまで注文すのは慎むべき
3紙の論説を5段階評価(政府・日銀の動きを評価する=5、どちらかというと評価する=4、どちらでもない=3、どちらかというと評価しない=2、評価しない=1)とすると、読売=5、日経=4、毎日=1となります。
戦術と戦略の違い
日銀の強力な金融緩和だけでは、本格的な景気回復は望めないという点では、各紙一致しています。新政権の成長戦略がカギとなりますが、その際に公共事業投資を打ち出している自民党のスタンスについて、読売は一定の評価をしていますが、日経は根本的な問題解決にならないと懸念を表明。「投資の自由化(投資減税)」「法人減税」「規制緩和(新規事業を阻害する規制の見直し)」も必要、という点では一致しています。
企業運営でも、長期的な不振から脱却するために、二枚腰で対応するのが基本です。最初に短期的に効果が上がる施策を実行し、衰えた体力を回復すると共に、「会社は変わった」ことを社内外にアピールします(戦術的効果)。つづいて地力をつける体質改善の施策を打ち、長期的に成長・発展していける礎を作ります(戦略的効果)。
戦術レベルの施策は「やること」と「効果の範囲」が限定され、わかりやすいものです。心理的な期待感も醸成されやすい面もあります。しかし、個別の戦術だけでは、構造問題の根本解決はできません。個々の戦術を体系化した戦略が不可欠です。個々の戦術を正しい順番で実行し、軽重もしっかりつけていく戦略の枠組みがあることで、初めて企業活動は、長期的な成長路線に乗っていきます。国家の経済運営も、基本は同じだと思います。
国家戦略を構築する
経営戦略の基本は、「資源配分」です。「ヒト・モノ・カネ」をどう調達し、どこに配分するかが戦略なのですが、借金には限度があるので、まずは身の丈にあったバランスシートに戻す必要があります。その上で、縮小均衡ではない、次の成長戦略を実行していきます。このためほとんどの再建企業は、まず「リストラ」を敢行するのです。
国家運営では、この常識は通用しないようです。とにかくまず足元の景気を良くする、そのために金融緩和をし、同時に大型補正予算を組み、国債(借金)をさらに増やし、公共事業投資を進める、と自民党は言っています。安倍総裁の早い動きは、今のところ一定の心理的効果を発揮し、日本経済復活の期待感につながっているようです。しかし、それは「失われた20年間」に繰り返されてきた施策と、どこが違うのでしょうか。
個々の戦術に特化せず、全体の戦略を構築することこそ、「決められる政治」の本当の意味だと思います。短期的な効果は、マスコミの注目を浴び、有権者受けも良いものです。しかし、痛みを伴わない改革はありません。痛みの先に希望の未来があれば、人は耐えることができます。政治の責任は、国民が共有するビジョンづくりと戦略の構築にこそ発揮されるべきものです。「政治屋は次の選挙を、政治家は次の世代を考える」(引用:毎日JP)。
(文責:梅本龍夫)
【記事要約】 「日銀、物価目標2%検討」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
【記事要約】 「東通、再稼働困難に」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
【記事要約】 「日銀、物価目標導入へ」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
【記事要約】 「日銀、物価目標を導入」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
【記事要約】 「『敷地内に活断層』一致」