【リグミの解説】
「危機突破内閣」
日本漢字能力検定協会が選定した今年の漢字は、「金」です。ロンドンオリンピックでのメダルラッシュ、山中伸弥教授のノーベル賞受賞という「金字塔」、932年ぶりに全国で観測された金環日食、さらに、消費税や生活保護など金が関わる問題の多発などが理由です(参照:Wikipedia)。では、政治に関する今年の漢字は、何がふさわしいでしょうか。
本日の新聞1面トップ記事は、読売、朝日、毎日、日経の4紙が「安倍総裁の記者会見」です。安倍総裁は、次期政権を「危機突破内閣」と命名。危機的状況として「経済、教育、外交・安全保障、震災復興」を挙げ、突破していくと明言しました(読売新聞)。
「不信」
今年の漢字を、政治環境を中心に勝手に選定すれば、「信」であったと考えます。漢字2字であれば、「不信」の方がわかりやすいと思います。政治不信は今年に始まったことではありません。自民党長期政権の末期のバブル崩壊後からずっと続いていることです。「失われた20年」がもたらした閉塞感や、諦めや、醒めた気持ちが、根深い政治不信を生み出しています。
それが、2011年3月11日の東日本大震災と福島第1原発事故で、何かが変わりました。政治や行政だけでなく、東京電力を初めとする企業も、科学者などの専門家も、さらにはマスコミまでもが、大いなる不信の対象となりました。端的に言って、信じるに値するものがなくなったのが、3.11後の日本でした。2011年の漢字は、「絆」。この漢字に、日本人の祈りが込められました。
「絆」
年が明けると、「絆」の意味が少しずつ具体化してきました。絆の元々の意味は「動物をつなぎとめる綱」です。転じて「断つにしのびない恩愛」といった意味になりました(広辞苑)。3.11後の日本人が気付いたこと。それは、「すべてはつながっている」ということ。「絆」は愛するもの、大切なものとの断ち難い関係だけでない。「関心のないこと」「誰かに任せ切りにしてきたきたこと」「嫌いだったり苦手だったりして敬遠してきたこと」もすべて、自分とつながっていた。
原発事故の深刻な影響が大きかったことは言うまでもありません。政治に関心のなかった人々、特に子供たちの安全を一番に考える母親たちが動き出しました。春から夏にかけて大きなうねりとなった首相官邸前の脱原発デモは、今まで政治との「絆」を実感することのなかった人々でした。戦後70年近く経って、日本の民主主義が新しいステージに移行する萌芽が、そこにありました。
「不信」から「信」へ
政治への「不信」は、水面下で「信」に変わりました。正確には「信を問う」姿勢に変わりました。「私は△△△が大事だと思う。あなたはそれを実現してくれるのか」と政権に直接問う動きに、普通の生活者が参加していったこと。それは実に長い時間、日本に見られなかった景色でした。「原発・エネルギー政策」は、正に国論を二分る一大テーマとなりました。「脱原発派」も「原発推進派」も、ここを軸に、「失われた20年」からどうやって日本を脱出させるか問われたのです。
脱原発デモから民主党政権による「国民的議論」を経て、野田政権がまがりなりに「2030年代に原発ゼロ」を打ち出したことで、「脱原発派」の多くは模様見に入りました。一方の「原発推進派」も、野田首相が閣議決定を回避したため、宙に浮いた原発政策の行方を見守る体制に入りました。そして、税と社会保障の一体改革法の可決を条件に「近いうち」の解散を自民党に約束した野田首相は、ついに伝家の宝刀を抜き、解散・総選挙に突入しました。国民に「信を問う」ために。
脱原発なのか、原発推進なのか
結果は、自民党の圧勝でした。単独で294議席を獲得、衆院の総数480議席の6割を超える高い勝率でした。自民党は、原発・エネルギー政策について、明言を避けています。ただ、再稼働を順次進め、原発政策を維持していくニュアンスを示しています。国民の「信」は、「原発推進」に軍配を上げたのでしょうか。答えは「Yes & No」です。
12月14日の「リグミの解説」にある通り、自民党支持の主たる理由は「景気対策」です。つまり、原発よりも経済を優先してくれ、という判断でした。原発推進派はかねてから、脱原発がもたらす経済へのさまざまな悪影響を心配しています。その意味で、「自民党=経済優先」という有権者の一票は、間接的ながら「原発推進にYes」と解釈できます。
この「Yes」は間接的なだけでなく、消極的でもあります。積極的に今後も「原発を維持し発展」させるべきとする明確な「原発推進派」がどこまでいるのかは不明です。そういう意味で、同様に間接的ながら「原発推進にNo」とも解釈できます。
不作為を超える
さて、私たちはどうしたらいいのでしょうか。「失われた20年」は、政治家が作ったのではない。それは、私たち国民が自ら選んだ道だった。正確に言えば、違う道を模索し、行動しなかった。そういう「不作為」(事態を放置すること)が、今日の状況を生み出したという強烈な自覚を、私たちは持つ必要があります。「民主党がダメだから自民党に戻す」だけでは、「不作為」の上塗りを繰り返すことになります。
安倍首相は、「危機突破内閣」の優先リストに「原発・エネルギー政策」を入れていません。しかし、原発は、「今ここにある危機」です。「脱」と「推進」のどちらの立場にとっても、活断層の問題、廃炉の問題、そして核廃棄物の最終処理の問題は、避けて通れません。残された時間も少なくなっています。
新政権のもとでも引き続き、「原発・エネルギー政策」を追求する。ただし今度は、「原発エネルギー政策」を単独で切り離さず、それを基軸に経済再生の在り方を練り、あらゆる政策課題をひとつながりのものとし、粘り強く追求する。そしてゆくゆくは、「国家100年の計」を創る。それは、日本の有権者と政治家が手を携えて、行うものとなります。不作為を超えることが、「絆」であり「信」です。
(文責:梅本龍夫)
【記事要約】 「大型補正予算を表明」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
【記事要約】 「改憲要件緩和へ意欲」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
【記事要約】 「参院選シフトで始動」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
【記事要約】 「日銀と政策協定、迅速に」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
【記事要約】 「自民、民意薄い圧勝」