【リグミの解説―①】
北朝鮮のミサイル発射
北朝鮮が突然ミサイルを発射しました。各国政府もメディアも、どこまで事実を把握していたのか、情報が錯綜していてよくわかりません。昨日の読売新聞の1面トップ記事は「「北ミサイル取り外す」でした。本日は一転して、読売、朝日、毎日、日経の4紙が「北朝鮮のミサイル発射」に関して、大きく報道しています。
北朝鮮は、偽装工作をしてまで「人工衛星」の発射しようとしたのでしょうか。北朝鮮の姿勢も理解に苦しみますが、情報を正確に把握することが政治判断の生命線であることを考えると、日米韓の情報解析力も精査が必要だと感じました。
各紙の報道視点は少しずつ特徴がありました。
読売: 国連安保理の制裁決議の想定内容と、日本が独自に実施できる制裁項目を紹介
朝日: 中国政府の姿勢と北朝鮮の態度を併記し、安保理決議などがが一筋縄でいかないことを暗に示唆
毎日: フランスの国連大使の言葉を紹介し、安保理の姿勢が厳しいことを示唆
日経: 北朝鮮の3度目の核実験の可能性に触れ、長距離弾道ミサイル(ICBM)開発が米国に与える脅威を示唆
新聞でわかること、わからないこと
4紙併読することで、ようやくほのかな輪郭が見えてくる感じです。しかし、基本的にわからない点があります。「人工衛星」と北朝鮮が呼称するものを、新聞は「事実上の長距離弾道ミサイル」と表記してきました。一読者としては、何等かの人工物が軌道に乗ることは想定していませんでした。
「形式要件」しか満たしていないとしても、つまり人工衛星の名に値する機能を持たない物体だったとしても、今回北朝鮮が発射したものが、「実質的に長距離弾道ミサイル」と断定する根拠はどこにあるのでしょうか。政府広報とマスコミ報道の背景にある「情報」や「判断」をもっと正確に知る必要があります。
【リグミの解説―②】
衆院選の争点
12月11日の「リグミの解説」では、原子力規制委による敦賀原発直下の活断層判断が、衆院選の「原発・エネルギー政策」の争点に与える影響を問い掛けました。今回の北朝鮮のミサイル発射は、安全保障と憲法論議に大きな波紋を投げかけるものとなるでしょう。
読売新聞は、1面トップ記事の補足として、「安保の『欠陥』を正す時だ」という編集委員署名記事で、「集団的自衛権に関する憲法解釈の変更が、一刻の猶予もならない政治課題となった」と明記し、最も踏み込んだ姿勢を示しています。朝日は「外交努力の重要性」を指摘、毎日と日経は「安保理による断固たる対応」を主張。
そうした論調が世論に与える影響を予想してか、東京新聞の本日の1面トップは、「改憲論、実に愚か」。太平洋戦争で学徒出陣し、海軍の特攻隊に配属された92歳の男性のインタビュー記事です。「若い人には、憲法は人を縛るものと思っている人が多いが、憲法は国民が国を縛るものなんです。政府をも規制する権利を持っていることに気付いてもらいたい」という言葉は、深く受け止める価値のある言葉です。
日本を束ねる「タガ」
「集団的自衛権」は、日米安保を有効に維持するために不可欠の変更であり、現実不適応を是正するもの。「自衛隊」と呼ぶか「国防軍」と呼ぶかは形式的な呼称の問題に過ぎない。衆院選を前に、そういう主張を展開する政党が複数あります。ここでは、その内容の是非には踏み込まず、日本国憲法が果たしてきた役割に注目してみます。
日本人のメンタリティーの中に、「お上」と呼ばれる権力や権威に従順に従う、という特性があります。その代わり、「お上」の規範や規則の範囲内では、ディテールまで徹底してこだわった一流のものを創造したり、互いに激しく競争をし市場を活性化したりします。国家が大きな「タガ」をはめてくれることで、日本人は一方向に力を束ね、成果を出してきました。戦後の平和憲法下における経済への一点集中は、そうした特性の典型でした。
「タガ」がはずれる
しかし、このやり方には大きな欠陥があります。国家の「タガ」の内側で次第に矛盾のエネルギーが充満し、それが解決不能なほどの圧力に高まっていくことです。その結果、「タガ」がはずれると、国民は一気に正反対の方向に走り出します。筆者は、1905年の日露戦争の勝利から1945年の敗戦までの40年間に起きたことは、正に国家レベルで日本が「反転」し、坂道を転がり落ちていったのではないか、と見ています。
55年体制による自民党の長期政権の間に溜まった負のエネルギーは、2009年に民主党圧勝という初の政権交代劇を実現しました。国民は「反転」のエネルギーを発揮し、高揚しました。その後の失望の3年間の結果、世論調査によると今度の衆院選では、自民党が単独で300議席を超える大勝を果たす可能性も示唆されます。日本は、短い周期の「反転」に翻弄される時代に入ったのでしょうか。
国家100年の計という「タガ」
ここで本質的に重要なことは、「タガ」の意味を正しく理解することです。2大政党制における「反転」の繰り返しと違い、憲法改正や自主憲法制定は、根本的な「タガ」はずしとなります。それは、「現実」に擦り寄る小さな一歩であったとしても、一旦動き出した巨大なエネルギーは、簡単には軌道修正ができなくなります。それが歴史から見えてくる日本のテーマです。
バブル崩壊後の「失われた20年」は、「変われない日本」を象徴する言葉です。しかしその裏側で「極端に変わってしまう日本」というテーマがあることも自覚し、今の日本の姿を俯瞰する必要があります。その上で、「国家100年の計」を練り上げることを提案します。
「変わりたい」が蔓延する日本で、政治家は眼前の問題を突破する瞬間芸に走っているように見えます。国政政党は、「日本の100年後の姿」をビジョンとして提示することが、国民に対する最低限のマナーであると思います。そして歴史から学び、反転暴走しない成熟した民主国家になることが、日本人が世界に示す新しい「タガ」となります。
(文責:梅本龍夫)
【記事要約】 「政府、安保理決議目指す」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
【記事要約】 「安保理が緊急会合」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
【記事要約】 「北朝鮮『衛星』軌道に到達」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
【記事要約】 「米本土射程の可能性」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
【記事要約】 「改憲論、実に愚か」