2012.12.09 sun

新聞1面トップ 2012年12月9日【解説】「建前」と「本音」の和解

新聞1面トップ 2012年12月9日【解説】「建前」と「本音」の和解


【リグミの解説】

北朝鮮の「建前」
どの世界にも「建前」と「本音」があります。建前とは「表向きの方針」で、本音とは「建前を取り除いた本当
の気持ち」と広辞苑にあります。本日の新聞1面トップ記事は、「建前―本音」の関係で読み解けそうです。

読売新聞と毎日新聞は、「北朝鮮、ミサイル発射先送りか」。発射するのは「人工衛星」と主張するのが北朝鮮の「建前」。これに対して日本政府もマスコミも、人工衛星と称するものは「事実上の弾道ミサイルの発射実験」と断言しています。これが北朝鮮の「本音」という解釈です。

では発射先送り判断の理由は、どう解釈されているでしょうか。読売は「降雪」などが原因の可能性があり、北朝鮮の「本音」を探ることに慎重です。一方、毎日は「日米韓をはじめとする国際社会からの厳しい反応を考慮した可能性がある」とし、一歩踏み込んでいます。

年に2度ミサイル発射実験をしたことはなく、降雪など条件の厳しい冬は初めてとされる北朝鮮のミサイル発射実験は、なぜ企図されたのでしょうか。いわゆる瀬戸際外交のひとつと思われる今回のミサイル発射予告の「本音」は、何なのでしょうか。

北朝鮮の「本音」
ジャーナリストの池上彰さんによると、北朝鮮が発行する世界地図では、国交がない米国と日本は色が塗られて
いないそうです。
 

「これをどう見るか。北朝鮮は日本や米国を敵視している表れなのでしょうか。私のような意地の悪いジャーナリストは、そうは見ません。『北朝鮮は、それほどまでに日本や米国と国交を結びたいのだな』と読み解くのです」(池上彰著『この社会で戦う君に「知の世界地図」をあげよう』文芸春秋刊 P31-32)
 

長距離弾道ミサイルを発射するか否か、それはいつで、コースや落下地点はどこになるか。日本の防衛体制は大丈夫か。そうした喫緊の問題を速報するのは、確かに新聞のひとつの役割です。しかし、政府広報的な記事の他に、北朝鮮の「本音」に独自取材で切り込み、北朝鮮問題の長期的な解決のための「ビュー」を提供することも、同じぐらい大事なことではないでしょうか。

東京電力の「建前」と「本音」
朝日新聞の1面トップは、「被曝隠し、偽装請負認定」。東京電力は、福島第1原発事故の処理で、不正な多重請負構造はない、としてきました。しかし、東京新聞や朝日新聞が、独自取材で「線量計に鉛カバーを取り付ける被曝隠し」や、「不正な多重請負構造の中で、作業員に支払われるべき手当がピンハネされている」実態をあばきました。

今回、厚生労働省の調査により、「偽装請負」が確認され、東電への是正指導が成されました。東電は「元請各社に再発防止策を徹底させ、立ち入り調査をして確認する」と発表しました。問題はここからです。東電の「建前」は崩れました。しかし、その「本音」はまだ見えません。東電は本当に下請けの実態を知らなかったのか。あるいは知っていて「不正な多重請負構造はない」と言い張っていたのか。

「建前」だけで満足し、その奥にある「本音」を見ようとしなければ、この世の現実の姿は見えてきません。新聞各社は、今回の報道で満足せず、東電が原発事故処理の実態を本当はどう把握し、どう処理しようとしてきたのか、その「本音」をさらに掘り起こしてもらいたいと思います。

衆院選を迎えた各政党の「建前」と「本音」
そして東京新聞は、1面トップに「女性の貧困」をテーマとした調査報道を持ってきました。シングルマザーの困窮や、一人
暮らし女性の職探しの困難さが、事例や統計データと共に示されています。この記事には、衆院選で各党が「女性に約束していること」をまとめています。

民主党:      「チャレンジする女性を応援」
自民党:      「2020年までに、指導的地位に女性が占める割合を30%以上に」
日本未来の党: 「結婚・出産がキャリア形成に不利にならない社会を創出」
日本維新の会: 「女性労働力の徹底活用。女性雇用率を設定」


各党は、保守やリベラルなどそれぞれの「主義」があり、「女性」や「貧困・格差」の関しても価値観や考え方、政策のアプローチに違いがあります。今回の衆院選は、前回のマニフェスト(政権公約)選挙を受けて、公約がかなり明瞭に出てくる選挙となりました。また日中、日韓関係の悪化を受けて、「憲法改正」や「防衛」のテーマが急浮上しています。各党の公約のうち、より「本音」に近いものがどれで、有権者をつなぎとめるための飾りとして付記する「建前」がどれか。表面の言葉に惑わされない眼力が求められています。

「建前」と「本音」の和解
あらためて、「建前」と「本音」とは何でしょうか。わかりやすく言えば、建前は「世の中はこうあって欲しい
」という「理想」であり、本音は「実際にはそんな綺麗に物事は進まない」という「現実」です。建前は、社会を秩序立てる「あるべき姿」ですが、そうした「理想」は、常に「現実」によって裏切られるので、人々は「ほんとうの思い」を隠し持ち、実際にはそうした「本音」に従って行動しがちです。

しかし、普段感じ、意識している「本音」の奥に、もう一段深い「本音」が隠されています。私たちの心のこの無意識の層で、「本音」は「建前」と和解したいと願っています。北朝鮮は、世界の正統なメンバーとして受け入れられ、先進国並みの豊かさを享受したいと願っているでしょうし、東電もまた、原発事故以前の尊敬されるクリーンイメージの企業に戻りたいと願っているのではないでしょうか。

「建前」と「本音」を「対立関係」に留めているうちは、社会は良くなりません。「本音」が示している「現実」を掘り下げ、こういう社会にしたいという「理想」の姿を鍛えていくことで、「本音」は「建前」と和解していくことが可能になります。悲惨で厳しい現実を前に、高邁な理想を掲げ、社会変革を進めてきた歴史の事例はたくさんあります。歴史に学ぶ大切な視点が、ここにあるように感じます。

(文責:梅本龍夫)



讀賣新聞

【記事要約】 「北、発射先送り検討か」

  • 北朝鮮の朝鮮中央通信は9日、発射予告をしていた「人工衛星」と称する事実上の弾道ミサイルについて、「準備作業の過程で一連の事情が提起され、科学者、技術者たちは発射時期を調節する問題を慎重に検討していると述べた」とし、発射時期の先送りの可能性に言及した。
  • 韓国政府は、北朝鮮が3段目ミサイルの設置を終えたとみている。「早ければ8日にも本体への燃料注入作業が始まる」と予想されてきた。降雪により、発射準備作業に何らかの影響を与えた可能性もある。
  • 日本政府は8日、弾道ミサイルを発射した場合、北朝鮮への現金の送金・持ち出しの規制強化の検討を本格化させる方針。ミサイルが日本の領土や領海に落下した場合に備え、ミサイル防衛(MD)システムによる迎撃態勢などもほぼ整えた。

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/


朝日新聞

【記事要約】 「被曝隠し、偽装請負認定」

  • 厚生労働省は、東京電力福島第1原発事故の収束工事の下請け8社について、違法な「偽装請負」の状態で作業員を働かせていたとして、是正指導する方針を固めた。8社は、鉛カバーを使った「被曝隠し」を行っていた。
  • 厚労省は今年2月、原発工事で偽装請負が広がっている恐れがあることから、改善を促していたが、東電は「違反事例はない」として本格調査をしてこなかった。同省は今回、東電と東京エネシス(グループ会社)に改善を要請した。
  • 東電が否定してきた不正な多重請負構造が存在し、作業員の安全を脅かしていたと監査当局が認めたことになる。東電は、改善要請について「立ち入り調査をして確認する」としている。

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/


毎日新聞

【記事要約】 「北朝鮮、ミサイル発射延期示唆」

  • 北朝鮮の朝鮮中央通信は、人工衛星打ち上げを名目とした事実上の長距離弾道ミサイルの発射実験について、「時期を調整する問題を慎重に検討している」と語り、発射延期を示唆した。
  • 「発射のための準備作業を最終段階で進めている。その過程で、一連の事情が生じた」としているが、日米韓をはじめとする国際社会からの厳しい反応を考慮した可能性がある。
  • 北朝鮮は、10日から22日の間に人工衛星を打ち上げると発表し、5日には発射台に設置する作業を完了していたことが判明している。日米韓や中国などが、発射阻止に向け圧力を加える動きを強めていた。

(毎日jp http://mainichi.jp/

日経新聞

【記事要約】 「電力購入、最大9割減」

  • JX日鉱日石エネルギーは、2014年度にも集合住宅向けに電力自給率を大幅に高める電力システムの請負事業を始める。原発の稼働停止で電力大手が家庭用電力料金の値上げに動く中、割安な電力供給に商機が広がっている。
  • JXエネは、できるだけ電力を自給する事業モデルが特徴。電力自給システムは、燃料電池、太陽光発電装置、蓄電池で構成する。不足する電力は、JXエネが高圧契約の電力を販売する新電力(特定規模電気事業者)として供給する。
  • JXエネは、横浜市と川崎市の社宅で実証実験をし、必要な電力8~9割を賄えることがわかった。マンション1棟が外部から購入する電力量を最大9割減らし、大手電力会社より5~10%安い料金帯で各戸に電力を割り振る。新たな電力サービスとして注目を集めそうだ。

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/


東京新聞

【記事要約】 「底辺の暮らし、光は ~非富裕層の現実(上)」

  • 26歳のシングルマザーの女性は、新宿歌舞伎町の外れにある認可外託児所に6つの長男を預け、仕事先の風俗店に向かう。息子が眠る間、月平均50万円稼ぐ。家庭内暴力を繰り返した挙句、蒸発した父親が残した借金2千万円を背負わされた。借金返済の目途は立ったが、風俗以外の仕事で暮らしていけるか、不安も残る。
  • 厚労省によると、2010年の母子家庭の平均年収は、各種手当を含めても約290万円で、子どものいる全家庭の平均(約660万円)の半分以下だ。非正規雇用の割合は、5割を超える。シングルマザーだけでなく、単身女性の貧困も深刻だ。国立社会保障・人口問題研究所によると、2010年時点で20~64歳の一人暮らし女性の3人に1人が、標準世帯収入の半分に満たなかった。
  • 練馬に住む33歳の一人暮らしの女性は、面接で結婚や出産の予定を聞かれ、「わからない」と答えると、そこで面接終了となる。正規社員として2度働いたが、いずれも「ブラック企業」で短期で辞めざるを得なかった。政治に無関心だったが、今回はすべての政党や都知事候補者の公約や考えに目を通した。「暮らしをよくしたい」。

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)



【本日の新聞1面トップ記事】アーカイブ