【リグミの解説】
エジプトの民主化
本日の新聞1面トップは、久しぶりに各紙異なるテーマに関する記事です。ここに、「先進とは何か」という視点を当ててみると、ほのかに共通項が浮かび上がってきます。
読売新聞の記事は、「エジプト対立激化」。ツイッターなどを使って若者たちが民主化運動を進め、ムバラク政権を倒したエジプト。しかし、独裁体制が抑圧してきた宗教的対立が噴出、イスラム主義勢力と世俗・リベラル勢力との対立が続いています。
作用と反作用
作用には反作用が伴います。民衆の解放を求める革命のあとに、しばしば独裁体制が生まれるのは、多くの歴史に見る通りです。物事は通常、直線的には進みません。作用と反作用がぶつかり合い、うねりながら少しずつ前に進んで行きます。「先進」とは、螺旋状の運動を経て、一歩一歩積み上げていく重い足取りともいえます。
イスラム主義は、アルカイーダなどのテロリズムを思い出させ、「原理主義的」で「狂信的」というイメージがあります。確かにエジプトでも、イスラム主義が台頭した結果、観光客の風俗を規制しようとする動きがあり、観光業界が反発した経緯などもありました。
イスラム主義とキリスト主義
「先進」の指標となる思想は、フランス革命で掲げられた「自由」「平等」「博愛」が基本にあると思います。そこから生まれる政治制度が「民主主義」であり、経済制度としては「資本主義」を推進する。つまり、個人の人権を尊重し、国民が主権者の政治を行い、自由競争で経済を発展させるのが「先進国」というのが、現代の大まかなグローバル・コンセンサスになっています。
しかし、いわゆる先進国の筆頭格である米国は、「イスラム主義」と対比できる「キリスト主義」の国です。その米国は、一貫してイスラエルを支持しており、これが中東の対立を固定化させている部分もあると思います。
キリスト主義とイスラム主義は、中東を中心とした国際政治の現場で、「作用―反作用」の関係を生んでいます。エジプトを初め、イスラム圏で民主化を進める上で、キリスト圏との「和解」をどう進めていくかが、隠れたポイントになります。「博愛」の精神は、宗教的な抱擁度、そして異質なものへの寛容度に現れます。先進国の「先進度」が問われています。
国家間の「格差」
朝日新聞の1面トップ記事は、「発射ならイラン並み制裁」。北朝鮮は、金正日の新体制になっても、相変わらず瀬戸際外交を続けています。「南朝鮮」の韓国が独裁体制を脱して数十年、最大の支援国の中国も経済発展を遂げ、北朝鮮は孤立しています。経済発展から取り残された国家の焦りと悲鳴が、瀬戸際外交の裏側にあります。
「先進度」の必要条件が「自由」「平等」「博愛」であるとすれば、十分条件は「Win-Win」の達成にあると思います。民主主義も資本主義も、そのための方便です。いくら民主化し自由競争を導入しても、「格差」が一方的に拡大する社会は、「先進的」とは言えません。なぜなら、一部の勝者と多くの社会的弱者という構図は、独裁体制と大差ないからです。
これは、国家と国家の関係にも当てはまります。日本を含む「先進諸国」が経済成長の果実を享受する一方で、貧困にあえぐ国々が地球上にはあります。北朝鮮の国家としての成り立ちや行動に問題があることは事実です。しかし、制裁というアプローチには限界があります。「先進」を目指すグループに招き入れる姿勢を示し、北朝鮮の凍土を溶かす工夫も同時に組み合わせ、「Win-Win」に少しでも近づけることが求められます。
日本の「先進度」
そして日本。毎日新聞の1面トップは、「羽田トンネル天井撤去」、東京新聞は、「身を切る改革、遠く」という記事です。戦後70年、明治維新以来の悲願であった「先進国」となった日本。その綻びが、今になって深刻です。国内のインフラを維持し更新することなく、豊かな国家であり続けることはできません。「1票の格差」を是正することなく選挙を繰り返すのは、民主主義の精神に反します。
「先進」とは、到達したある状態を指すのではありません。「先進」とは、作用には反作用があることを理解し、その対立運動自体を前進し発展するエネルギーに変換できる姿勢を指します。日本が「先進国」であり続けることができるか。その試金石は、2大政党制に移行した2009年の衆院選から学び、次に生かす姿勢にかかっています。
(文責:梅本龍夫)
讀賣新聞
【記事要約】 「エジプト対立激化」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事要約】 「発射ならイラン並み制裁」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事要約】 「羽田トンネル天井撤去」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事要約】 「最大級の不動産投信」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事要約】 「身を切る改革、遠く」