2012.12.07 fri

新聞1面トップ 2012年12月7日【解説】「先進」の姿勢を貫く

新聞1面トップ 2012年12月7日【解説】「先進」の姿勢を貫く


【リグミの解説】

エジプトの民主化
本日の新聞1面トップは、久しぶりに各紙異なるテーマに関する記事です。ここに、「先進とは何か」という視
点を当ててみると、ほのかに共通項が浮かび上がってきます。

読売新聞の記事は、「エジプト対立激化」。ツイッターなどを使って若者たちが民主化運動を進め、ムバラク政権を倒したエジプト。しかし、独裁体制が抑圧してきた宗教的対立が噴出、イスラム主義勢力と世俗・リベラル勢力との対立が続いています。

作用と反作用
作用には反作用が伴います。民衆の解放を求める革命のあとに、しばしば独裁体制が生まれるのは、多くの歴史
に見る通りです。物事は通常、直線的には進みません。作用と反作用がぶつかり合い、うねりながら少しずつ前に進んで行きます。「先進」とは、螺旋状の運動を経て、一歩一歩積み上げていく重い足取りともいえます。

イスラム主義は、アルカイーダなどのテロリズムを思い出させ、「原理主義的」で「狂信的」というイメージがあります。確かにエジプトでも、イスラム主義が台頭した結果、観光客の風俗を規制しようとする動きがあり、観光業界が反発した経緯などもありました。

イスラム主義とキリスト主義
「先進」の指標となる思想は、フランス革命で掲げられた「自由」「平等」「博愛」が基本にあると思います。
そこから生まれる政治制度が「民主主義」であり、経済制度としては「資本主義」を推進する。つまり、個人の人権を尊重し、国民が主権者の政治を行い、自由競争で経済を発展させるのが「先進国」というのが、現代の大まかなグローバル・コンセンサスになっています。

しかし、いわゆる先進国の筆頭格である米国は、「イスラム主義」と対比できる「キリスト主義」の国です。その米国は、一貫してイスラエルを支持しており、これが中東の対立を固定化させている部分もあると思います。

キリスト主義とイスラム主義は、中東を中心とした国際政治の現場で、「作用―反作用」の関係を生んでいます。エジプトを初め、イスラム圏で民主化を進める上で、キリスト圏との「和解」をどう進めていくかが、隠れたポイントになります。「博愛」の精神は、宗教的な抱擁度、そして異質なものへの寛容度に現れます。先進国の「先進度」が問われています。

国家間の「格差」
朝日新聞の1面トップ記事は、「発射ならイラン並み制裁」。北朝鮮は、金正日の新体制になっても、相変わらず瀬戸際外
交を続けています。「南朝鮮」の韓国が独裁体制を脱して数十年、最大の支援国の中国も経済発展を遂げ、北朝鮮は孤立しています。経済発展から取り残された国家の焦りと悲鳴が、瀬戸際外交の裏側にあります。

「先進度」の必要条件が「自由」「平等」「博愛」であるとすれば、十分条件は「Win-Win」の達成にあると思います。民主主義も資本主義も、そのための方便です。いくら民主化し自由競争を導入しても、「格差」が一方的に拡大する社会は、「先進的」とは言えません。なぜなら、一部の勝者と多くの社会的弱者という構図は、独裁体制と大差ないからです。

これは、国家と国家の関係にも当てはまります。日本を含む「先進諸国」が経済成長の果実を享受する一方で、貧困にあえぐ国々が地球上にはあります。北朝鮮の国家としての成り立ちや行動に問題があることは事実です。しかし、制裁というアプローチには限界があります。「先進」を目指すグループに招き入れる姿勢を示し、北朝鮮の凍土を溶かす工夫も同時に組み合わせ、「Win-Win」に少しでも近づけることが求められます。

日本の「先進度」
そして日本。毎日新聞の1面トップは、「羽田トンネル天井撤去」、東京新聞は、「身を切る改革、遠く」という記事です。戦後
70年、明治維新以来の悲願であった「先進国」となった日本。その綻びが、今になって深刻です。国内のインフラを維持し更新することなく、豊かな国家であり続けることはできません。「1票の格差」を是正することなく選挙を繰り返すのは、民主主義の精神に反します。

「先進」とは、到達したある状態を指すのではありません。「先進」とは、作用には反作用があることを理解し、その対立運動自体を前進し発展するエネルギーに変換できる姿勢を指します。日本が「先進国」であり続けることができるか。その試金石は、2大政党制に移行した2009年の衆院選から学び、次に生かす姿勢にかかっています。

(文責:梅本龍夫)



讀賣新聞

【記事要約】 「エジプト対立激化」

  • エジプトで、大統領を支持するイスラム主義勢力と世俗・リベラル勢力との対立が、大規模衝突に発展した。モリシ大統領が15日に実施すると決定した新憲法案を巡るもの。
  • 軍部は、6人が死亡し約700人が負傷した大統領府前に戦車を出動させた。しかし、世俗派は憲法案の見直しなどを求め、引き続き大統領府前でのデモ決行を呼びかけている。
  • 中東での民主化運動による独裁政権の崩壊や社会改革は、イスラム主義の台頭を招いている。世俗勢力とイスラム主義勢力の緊張関係により、エジプトの民主化プロセスは不安定化しており、周辺国の民主化の遅れにつながる可能性もある。

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/


朝日新聞

【記事要約】 「発射ならイラン並み制裁」

  • 日米韓3ヵ国は、北朝鮮が「人工衛星打ち上げ」と称する事実上の弾道ミサイル発射計画を実行した場合、国連安保理事会に対イラン制裁並みの水準に引き上げた制裁措置の決議を求める方針を固めた。
  • イランに対する制裁の中には、対北朝鮮のものには含まれていない項目が複数ある。「金融制裁や、制裁対象となる個人や団体の指定」において、より広範囲にわたる。日米韓は、イランと北朝鮮への制裁措置を項目ごとに比較検討する詳細検討を始めた。
  • 既にさまざまな制裁が科されている北朝鮮への実効性のある追加制裁は難しいとの見方があるが、米国務省のトナー副報道官は、「制裁を強化する方法は常にある」と述べた。米外交問題評議会のスナイダー上級研究員は、「米国はイラン中央銀行への制裁などを実施している」とし、同様の措置を北朝鮮に適用する可能性を指摘。

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/


毎日新聞

【記事要約】 「羽田トンネル天井撤去」

  • 首都高速道路会社は6日、中央自動車道笹子トンネルの天井崩落事故を受け、つり天井式トンネルを緊急点検した結果、つり金具1ヵ所の破断が見つかったと発表した。2006年の定期点検でも別の金具1ヵ所の破断が確認されたが、耐荷重に余裕があるとし補修しなかった。
  • 羽田トンネルは1964年に開通。全長300メートルのうち、長さ約20メートルのつり天井部分が上下線に2ヵ所ずつある。同社は国土交通省の指示で、4日に点検を始め、上り線で金具1ヵ所の破談を確認した。何らかの理由で荷重が偏り、劣化が進んだ可能性がある。
  • 同社は、前回と今回の判明分を合わせて補修した。排ガス規制が進んだため、つり天井がなくても影響がないことから、年内につり天井を撤去する方針だ。作業には最短でも1~2日かかり、通行止めになる見通し。

(毎日jp http://mainichi.jp/

日経新聞

【記事要約】 「最大級の不動産投信」

  • 不動産投資信託(REIT)で、国内最大級の新規上場が続く。REITは、不動産を運用対象とする投資信託で、取得した不動産の賃料収入や売却益を原資に投資家に分配金を出す。
  • 今月21日に、シンガポール政府投資公社系のGLPが投資法人を東京証券取引所に上場する。ニューヨーク証券取引所上場のプロロジスも投資法人を上場する。
  • いずれも上場時の物件取得額が2000億円規模となる。ともにインターネット通販の普及などで需要が高まっている物流施設に投資する。大型物件の取得が相次げば、不動産市場の活性化につながる可能性がある。

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/


東京新聞

【記事要約】 「身を切る改革、遠く」

  • 最高裁が衆院の「1票の格差」を「違憲状態」と判断したのは、昨年3月。それから1年9ヵ月の間、与野党は駆け引きを繰り返すだけで結論を出せず、具体的な手立てを講じることなく衆院選に入った。消費増税で国民に負担を強いる前に行うべき身を切る改革は、すっかりかすんでいる。
  • 「1票の格差」は、最も軽い千葉4区の有権者数が49万7601人に対して、最も重い高知3区が20万4930人で、2.43倍になる。前回の2009年時点の2.30倍よりも拡大。「違憲状態」は悪化している。
  • 消費増税の前に国会が身を切る改革をすべきことは、与野党の多くが共有している。だがこの問題は、衆院選の主要争点にはなっていない。新しく選ばれる議員で構成する来年の通常国会で、中身のある改革を実現するためにも、各党幹部たちが具体案をぶつけあっておく必要がある。

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)



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