【リグミの解説】
現在進行形の災害
かつて原発・エネルギー政策は、政治家や行政や電力会社が進めるものであり、国民は原発の立地自治体の住民でない限り、原発の是非を意識することはありませんでした。そして原発が供給してくれる安定した電気という「便利」を一方的に享受してきました。去年の3月11日までは。
今回の衆院選は、3.11後、初の大型国政選挙となります。新聞は、民主党が圧勝し政権交代を果たした3年前と、今回の衆院選の相違をいろいろと記事にしていますが、未来から「今」を歴史の一幕として見れば、3.11が日本のターニングポイントになった、という視点が一致した「軸」になるだろうと思います。その3.11とは何か。一言で言えば、「災害が現在進行形となった」。
「異常」が「日常」となる現実
3.11直後は、パニックや犯罪が起きない日本の災害対応力の高さが外国から賞賛される場面もありました。日本人自身も、東北の津波被害の甚大さに心を痛めながらも、復旧・復興に努めれば、再び平安な日常が戻ると期待していました。
しかし、東京電力福島第1原発事故は、そのような根拠なき楽観を許しませんでした。放射能汚染は広域に及び、除染作業がいつ完了するかもわかりません。福島大学に勤務する方が、「線量計を持ち歩くのが日常になった」と語っていました。「異常」が「日常」になり、それに慣れてしまうのが怖い。そういう声も聞きます。
東京電力福島第1原発事故の深刻さが伝わると、政府や東電の対応のまずさなどに懸念と批判の声が上がりました。それは国内のみならず、海外からも起きました。原発事故は、日本中のみならず、周辺国まで、さらに言えば、世界中を巻き込む大事件となりました。風評被害も広がり、日本ブランドの評価は、急落しました。
3.11というターニングポイント
3.11の前後で起きたターニングポイントに、経済と外交も含まれます。経済では、戦後長らく維持してきたGDP世界2位の栄誉を中国に譲り、3位となりました。その中国、および韓国と、領土問題をきっかけに外交関係が一気に冷え込みました。日本国内にいると、弱り目にたたり目のようにも思えてくる状況です。
こうした状況だからこそ、歴史的な振り返りをし、未来を大きく構想することが大事になります。1945年の敗戦で、日本は歴史を分断しました。「戦前」と「戦後」は、あたかもまったく別種の国家かのごとく振る舞ってきました。日本国内にいると、1868年の明治維新から1905年の日露戦争までの約40年間は、近代史として共有されていますが、そこから1945年までの40年間が「空白」となっています。ここを見ないようにしているので、戦前と戦後が分断されてしまっているのです。
歴史の「空白」と向き合う
今、自民党、日本維新の会などの保守系の政党は、憲法を戦後の「負の遺産」とみなし、強い日本を再生するべきだとの政策主張を打ち出しています。弱り目にたたり目の日本には、意気の上がる姿勢に見え、一見頼もしく見えます。しかし、そうした政党はなぜか、原発・エネルギー政策に関しては、曖昧な態度を取っています。「災害が現在進行形となった」にもかかわらず、そこを「空白」扱いにしています。
一方で、「脱原発」を強く打ち出す日本未来の党を初めとする政党も、GDP2位の座から陥落した日本の経済力の衰退を直視しているようには見えません。国力を維持増進できなければ、第2、第3の「トンネル崩落事故」のようなことが、日常的に起きるようになります。
今本当に必要なことは、日本人が歴史の「当事者」となることです。その手始めが、「原発・エネルギー政策」です。「脱原発」か「原発維持」かは問いません。原発問題(事故、将来の地震等のリスク、核廃棄物の最終処理問題、原発立地自治体の経済)を「空白」にしないことが肝要です。
原発・エネルギー政策という軸足
12月2日の「リグミの解説」で、「脱原発」をシングルイシュー(唯一の課題)にするのでなく、「セントラルイシュー(中心軸の課題)」と位置付けることを提案しました。他人任せにしてきたことを、自分たちの手に取りかえすのが、「セントラルイシュー」のポイントになります。
「脱原発」にはこだわるが、「格差問題」は気にしない、ということはできません。「原発問題」は放置するが、「憲法改正」は積極的というのは本末転倒です。戦前の「空白」を作ったメンタリティーと、「原発問題」を風化させるメンタリティーは同種です。
「原発・エネルギー政策」で日本のみならず、世界に範を垂れることのできる中味ある政治を実行していくこと。それは日本人が日本が抱え込んできた問題の「当事者」となることを意味します。遠回りなようでも、「今の日本」にしっかりと軸足を定めることで、戦前の「空白」に真正面から向き合うこともできるようになると思います。それは、希望ある未来を創造する大きな礎となるものです。きょう、衆院選が公示されます。
(文責:梅本龍夫)
讀賣新聞
【記事要約】 「37トンネル緊急点検」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事要約】 「12党混戦、1500人出馬」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事要約】 「脱原発、問われる本気度 ~選択の手引き」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事要約】 「ローソン、ヤフーと宅配」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事要約】 「忘れない、誓う一票」