【リグミの解説】
徒党を組む
「徒党とは、あることをたくらんで集まった仲間・団体」。広辞苑の定義です。「徒党を組む」というと、何となく悪だくみをするために仲間を集めるニュアンスを感じますが、「徒党」も「たくらみ」も、本来はニュートラルな言葉のはず。「政党とは、政治活動をたくらんで徒党を組むこと」と定義したとき、有権者が受け取るニュアンスは、ニュートラルでしょうか、ネガティブでしょうか、それともポジティブになるのでしょうか。
本日の新聞1面トップは、読売新聞、朝日新聞、東京新聞が、「嘉田由紀子・滋賀県知事による新党結成の動き」です。「脱原発」を掲げた新党が乱立する中、なかなか連携することができずにきました。しかし、「第3極」の動きのリードしてきた日本維新の会が、太陽の党との合流で「脱原発」の看板を下げたことで、新しい動きが始まりました。嘉田氏の新党「日本未来の党」(仮称)の立ち上げをきっかけに、「徒党を組み直す」動きが加速しそうです。
我欲の政治
評論家の片山杜秀さんが読売新聞に、「政党とは我欲が絡んだ必要悪」というエッセーを書いています(読売新聞11月25日13面)。この中で、フランスの思想家トクヴィルが『アメリカの民主政治』で、「政党とは、自由な政治につきものの悪弊である」と記したことを紹介しています。
1830年代の米国を旅したときの印象に基づいた本ですので、日本は江戸時代末期になります。既に「人民が主役」の民主主義の国であった米国で、トクヴィルの目に政治家はどういう存在に映ったか。「政治家はまず初めに自らの利益を見極め、次に自らの利益の周りに群衆しうる同種の諸利益が何であるかを見るように努力する」。つまり、我欲が先にあり、それを取り繕うことで票に結び付けていく、ということです。
利己と利他
トクヴィルのこの見方は、「徒党を組む」政治家をネガティブなニュアンスで捉える典型に見えます。確かに日本でも、苦労して政治家になろうとする人々の中に、「我欲のため」と思わせる例が過去にありましたし、現在も存在するように見えます。政治をシニカルに見ている人々は、「それが政治というもの」、と言うかもしれません。
一方で、我欲(「利己」)のない純粋な志を持って、政治に参加しようとする人々もいると思います。しかし、民衆のために「利他」の精神を発揮しようとする政治家も、ひとりでは何もできません。「徒党を組む」ことで、はじめて政治的影響力を行使できるようになります。ここに「罠」があります。
罠の1つは、「利己的な政治家」と「利他的な政治家」が、一緒になることで、政治の「本音と建て前」が分離していくこと。もう1つは、「利他的な政治家」の志が、選挙に勝ち勢力を維持拡大することにエネルギーの大半を吸い取られるうちに、そのことが自己目的化し、「利己的な政治家」の仲間入りをしてしまうことです。
嘉田さんは、こうした「罠」を意識したのか、坂本龍一さんや加藤登紀子さんなどの文化人を中心とした組織を立ち上げ、それを核に新党を形成しようとしています。また自身は滋賀県知事にとどまり、国政には打って出ない方針といいます。
大政党と小政党
トクヴィルは、正当には大と小があり、特徴の違いがあることも指摘しました。大政党は、「天下国家について新しい理想を掲げ、政治家の我欲を公益に下に隠す。話が大きいだけに、国家を破壊するリスクも高い」。一方、小政党は「個別的な事柄を前面に出すので、政治家の行動はあからさまな利己主義で彩られる」。
嘉田さんが期待されているのは、「脱原発の顔」です。乱立する中小政党の多くが「脱原発」を訴えながら、ひとつの勢力として連携できないでいます。そこで、環境社会学者であり、滋賀県知事として大飯原発の再稼働に反対してきた嘉田さんに、「脱原発派」政党の期待が集まりました。仕掛けたのは、「国民の生活が第一」の小沢代表のようです。
現実を冷静に見据えれば、「徒党を組む」政治の現実には、ネガティブな面とポジティブな面の両方があることがわかります。同様に、政治家の真意(本音)の中に、我欲(利己)と、理想(利他)の両方が隠されているはずです。政治家に我欲のない高い志を期待し、民衆のために利他の精神を発揮することを求めるのは、ひとつの理想です。しかし、より重要なのは現実としての政治を前進させることです。これは、大政党も小政党も、等しく負う責務です。
ワンイシュー政治の可能性
そのためのひとつの方策が、「ワンイシュー(ひとつの課題)」で政党同士が連携し、解決策を具体化し、実行する政治のやり方です。消費増税(税と社会保障の一体改革)に「政治生命」を懸けた野田首相は、民主党分裂の危機を犯しても、民自公の連携を選択しました。今、中小政党が、国論を二分する「原発政策」で、「脱原発」の立場を鮮明にし、連携することは、政治勢力作りとしてリアリティーがあります。
我欲の政治は、「Win-Lose」の構図です。しかし政治家に一方的に負担を強いる利他の政治は、「Lose-Win」であり、こちらも長続きしません。とはいえ、政治家と有権者の本音と建前が両立する「Win-Win」の関係を、複雑化した今日の政治・経済・社会の中で一貫して求めることは、容易ではありません。
そうした中、着実な一歩を踏み出す現実的な方法論として、「ワンイシュー」での連携があります。それが成功する大事な礎は、そのイシューの解決策を徹底して議論し、プランニングすることです。そうすれば、政策や主義や思想の「違い」が自ずと浮上し、本当に連携すべき課題が明らかになります。リアリティーのある「Win-Win」は、「対立」ばかりを強調する政治からは生まれません。建て前(利他)と本音(利己)をつなぐ、前向きで冷静な「対話」の中から、あるべき「日本の未来」が協働で創り出されていくのではないでしょうか。
(文責:梅本龍夫)
讀賣新聞
【記事要約】 「脱原発新党きょう判断」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事要約】 「第3極、二分の流れ」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事要約】 「消費増税前、改革強調」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事要約】 「電子債権の利用急増」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事要約】 「脱原発、結集加速」