2012.11.27 tue

新聞1面トップ 2012年11月27日【解説】ワンイシュー政治の可能性

新聞1面トップ 2012年11月27日【解説】ワンイシュー政治の可能性


【リグミの解説】

徒党を組む
「徒党とは、あることをたくらんで集まった仲間・団体」。広辞苑の定義です。「徒党を組む」というと
、何となく悪だくみをするために仲間を集めるニュアンスを感じますが、「徒党」も「たくらみ」も、本来はニュートラルな言葉のはず。「政党とは、政治活動をたくらんで徒党を組むこと」と定義したとき、有権者が受け取るニュアンスは、ニュートラルでしょうか、ネガティブでしょうか、それともポジティブになるのでしょうか。

本日の新聞1面トップは、読売新聞、朝日新聞、東京新聞が、「嘉田由紀子・滋賀県知事による新党結成の動き」です。「脱原発」を掲げた新党が乱立する中、なかなか連携することができずにきました。しかし、「第3極」の動きのリードしてきた日本維新の会が、太陽の党との合流で「脱原発」の看板を下げたことで、新しい動きが始まりました。嘉田氏の新党「日本未来の党」(仮称)の立ち上げをきっかけに、「徒党を組み直す」動きが加速しそうです。

我欲の政治
評論家の片山杜秀さんが読売新聞に、「政党とは我欲が絡んだ必要悪」というエッセーを書いています(読
売新聞11月25日13面)。この中で、フランスの思想家トクヴィルが『アメリカの民主政治』で、「政党とは、自由な政治につきものの悪弊である」と記したことを紹介しています。

1830年代の米国を旅したときの印象に基づいた本ですので、日本は江戸時代末期になります。既に「人民が主役」の民主主義の国であった米国で、トクヴィルの目に政治家はどういう存在に映ったか。「政治家はまず初めに自らの利益を見極め、次に自らの利益の周りに群衆しうる同種の諸利益が何であるかを見るように努力する」。つまり、我欲が先にあり、それを取り繕うことで票に結び付けていく、ということです。

利己と利他
トクヴィルのこの見方は、「徒党を組む」政治家をネガティブなニュアンスで捉える典型に見えます。確
かに日本でも、苦労して政治家になろうとする人々の中に、「我欲のため」と思わせる例が過去にありましたし、現在も存在するように見えます。政治をシニカルに見ている人々は、「それが政治というもの」、と言うかもしれません。

一方で、我欲(「利己」)のない純粋な志を持って、政治に参加しようとする人々もいると思います。しかし、民衆のために「利他」の精神を発揮しようとする政治家も、ひとりでは何もできません。「徒党を組む」ことで、はじめて政治的影響力を行使できるようになります。ここに「罠」があります。

罠の1つは、「利己的な政治家」と「利他的な政治家」が、一緒になることで、政治の「本音と建て前」が分離していくこと。もう1つは、「利他的な政治家」の志が、選挙に勝ち勢力を維持拡大することにエネルギーの大半を吸い取られるうちに、そのことが自己目的化し、「利己的な政治家」の仲間入りをしてしまうことです。

嘉田さんは、こうした「罠」を意識したのか、坂本龍一さんや加藤登紀子さんなどの文化人を中心とした組織を立ち上げ、それを核に新党を形成しようとしています。また自身は滋賀県知事にとどまり、国政には打って出ない方針といいます。

大政党と小政党
トクヴィルは、正当には大と小があり、特徴の違いがあることも指摘しました。大政党は、「天下国家に
ついて新しい理想を掲げ、政治家の我欲を公益に下に隠す。話が大きいだけに、国家を破壊するリスクも高い」。一方、小政党は「個別的な事柄を前面に出すので、政治家の行動はあからさまな利己主義で彩られる」。

嘉田さんが期待されているのは、「脱原発の顔」です。乱立する中小政党の多くが「脱原発」を訴えながら、ひとつの勢力として連携できないでいます。そこで、環境社会学者であり、滋賀県知事として大飯原発の再稼働に反対してきた嘉田さんに、「脱原発派」政党の期待が集まりました。仕掛けたのは、「国民の生活が第一」の小沢代表のようです。

現実を冷静に見据えれば、「徒党を組む」政治の現実には、ネガティブな面とポジティブな面の両方があることがわかります。同様に、政治家の真意(本音)の中に、我欲(利己)と、理想(利他)の両方が隠されているはずです。政治家に我欲のない高い志を期待し、民衆のために利他の精神を発揮することを求めるのは、ひとつの理想です。しかし、より重要なのは現実としての政治を前進させることです。これは、大政党も小政党も、等しく負う責務です。

ワンイシュー政治の可能性
そのためのひとつの方策が、「ワンイシュー(ひとつの課題)」で政党同士が連携し、解決策を具体化し
、実行する政治のやり方です。消費増税(税と社会保障の一体改革)に「政治生命」を懸けた野田首相は、民主党分裂の危機を犯しても、民自公の連携を選択しました。今、中小政党が、国論を二分する「原発政策」で、「脱原発」の立場を鮮明にし、連携することは、政治勢力作りとしてリアリティーがあります

我欲の政治は、「Win-Lose」の構図です。しかし政治家に一方的に負担を強いる利他の政治は、「Lose-Win」であり、こちらも長続きしません。とはいえ、政治家と有権者の本音と建前が両立する「Win-Win」の関係を、複雑化した今日の政治・経済・社会の中で一貫して求めることは、容易ではありません。

そうした中、着実な一歩を踏み出す現実的な方法論として、「ワンイシュー」での連携があります。それが成功する大事な礎は、そのイシューの解決策を徹底して議論し、プランニングすることです。そうすれば、政策や主義や思想の「違い」が自ずと浮上し、本当に連携すべき課題が明らかになります。リアリティーのある「Win-Win」は、「対立」ばかりを強調する政治からは生まれません。建て前(利他)と本音(利己)をつなぐ、前向きで冷静な「対話」の中から、あるべき「日本の未来」が協働で創り出されていくのではないでしょうか。

(文責:梅本龍夫)



讀賣新聞

【記事要約】 「脱原発新党きょう判断」

  • 嘉田由紀子・滋賀県知事は26日、脱原発を掲げた新党の結成を目指す意向を表明した。新党名は「日未来の党」を中心に調整している。
  • 関係者によると、嘉田氏は10月中旬に小沢氏に新党結成を持ちかけられた。「時間が足りない」と断ったが、再会談し意見交換をした模様。新党は、「国民の生活が第一」なととの合流や連携を模索している。
  • 嘉田氏は、「減税日本・反TPP・脱原発を実現する党」や「みどりの風」との連携や合流も検討している。「第3極」で、日本維新の会とは別に、「脱原発」を軸とした勢力の結集につながる可能性がある。

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/


朝日新聞

【記事要約】 「第3極、二分の流れ」

  • 嘉田由紀子・滋賀県知事は27日、「脱原発」を掲げた新党結成を表明する見通しだ。党名は「日本未来の党」を中心に調整している。総選挙公約は、「原発ゼロ」「環太平洋経済連携協定(TPP)参加凍結」「消費増税凍結」を柱に据えることを検討している。
  • 嘉田氏は、「原子力政策の議論をしてほしいと切に思っているが、国政政党を見るとなかなか一本にまとまらない」と語る。嘉田氏は、「第三極中道『脱原発・みどり連合』結成の呼びかけ」案で、原発ゼロを目指す政党が緩やかに集まる「オリーブの木」構想を提唱している。
  • 新党は、「脱原発」を掲げる「国民の生活が第一」、「みどりの風」、「減税日本・反TPP・脱原発を実現する党」との連携を検討している。日本維新の会に第3極の主導権を握られたきた「脱原発派」の政党は、第3極内の対立軸を鮮明にすることで、新たな勢力を結集できると期待する。

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/


毎日新聞

【記事要約】 「消費増税前、改革強調」

  • 財務省は26日、今後4年間で国家公務員宿舎を半減すると発表した。全国に1万684ヵ所ある宿舎のうち、約半分の5046ヵ所を廃止、売却する。
  • 対象は、築年数が40年を超える物件や耐震性に問題がある物件を中心に選定。売却収入から宿舎の解体費用などを差し引いた約1700億円は、主として東日本大震災の復興財源に充てる。
  • また、割安との批判がある宿舎の賃料を平均約2倍に引き上げる。値上げ幅は過去最大。ただし、民間の賃貸住宅と比べると、なお安い水準にとどまる。

(毎日jp http://mainichi.jp/

日経新聞

【記事要約】 「電子債権の利用急増」

  • 企業間の電子債権の利用が急拡大している。企業間の決済で、手形や売掛債権に代わるペーパレス対応となる。採用企業は約5万社、債権残高は1兆円に達し、ともに1年前の2倍強となった。
  • 電子債権は、手形の発行や管理の費用や手間を減らし、資金繰りを楽にする。約100社との決済で導入したホームセンターのコメリは、「(紙でないので)印紙税を節約できる」と語る。
  • 全国銀行協会の電子債権記録機関「でんさいネット」も来年3月末までに稼働開始できる見通しだ。でんさいネットは、全国1300の金融機関を通して電子債権の発生や譲渡などのデータを一元的に管理する。地方の企業の利便性も高まり、電子債権が一気に普及する可能性がある。

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/


東京新聞

【記事要約】 「脱原発、結集加速」

  • 嘉田由紀子・滋賀県知事は26日、「脱原発」を旗印にした「新党」を検討していることを明らかにした。まず嘉田氏が中心になり、文化人らで脱原発を訴える組織を立ち上げる。音楽家の坂本龍一氏や歌手の加藤登紀子氏らにも協力を要請している。
  • この組織に、「国民の生活が第一」と「減税日本・反TPP・脱原発を実現する党」が合流を検討している。「みどりの党」も連携する方向で調整している。合流できない場合は、それぞれに党を残しながら、比例代表で統一名簿を作る案も浮上している。
  • 共倒れを避けるために、脱原発を訴える政党の連携の必要性が言われながら、なかなか進展しなかった最大の理由は、脱原発の象徴となる「顔」がなかったこと。環境社会学者で大飯原発の再稼働に反対してきた嘉田氏は、「顔」になり得ると、脱原発政党は熱い視線を送る。

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)



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