【リグミの解説】
体育会と同好会
大学のスポーツクラブには、体育会系と同好会系があります。体育会の目的は、競技に参加し勝利することです。そのために強い選手を集め、厳しい練習に耐え、研鑚を積みます。一方、同好会は仲の良い学生たちが集い、スポーツを社交の場として楽しみます。衆院選挙に向けて、離合集散し、勢力拡大と政権公約づくりを急ぐ各政党は、体育会系でしょうか。それとも同好会系なのでしょうか。
本日の新聞1面トップは、読売新聞と毎日新聞が「政権公約づくり」に関連する記事です。読売は、日本維新の会の公約原案を紹介する記事です。橋下氏がこだわった「消費税の地方税化」は、「非現実的」との批判を踏まえ、「地方共有税」というアイデアに変更しています。「維新八策」では、明確に「TPP参加表明」と「脱原発」を打ち出していましたが、今回の「骨太公約」では、曖昧模糊としたものに変質しています。
ラグビーなのか野球なのか
橋下さんは、高校時代ラグビー選手として全国大会に出場する活躍をしました。大学でも橋下さんと一緒に体育会ラグビー部で頑張ろうと張り切っていた仲間たちは、「野球部の石原さんと一緒になって、新しいスポーツを始める」と突然言いだした橋下さんに戸惑っています。今回の日本維新の会と太陽の党の合併は、そんな様子に見えます。ラグビーボールでは、野球はできません。バットやグローブを持ったまま、スクラムを組む人はいません。
ラグビーと野球は同じ球技だ、スポーツであることに変わりはない、という理屈は無理があります。異種格闘技のような世界でも、たとえば柔道とレスリングでは、ルールがあまりに違いすぎるので、統一ルールを厳密に作って初めて競技が成立します。政治は、勝てば官軍、何をしてもとにかく支持率を上げて、選挙戦で勝利すればいい、という考え方はあまりに乱暴に思えます。何よりも、橋下さんのラグビーでの活躍を期待したいた「ラグビーファン」(元々の維新の会支持者)は、戸惑い、失望しているのではないでしょうか。
名は体を表す
毎日新聞の記事は、民主、自民の争点対立と、「第3極」の動きを伝えています。自民党が「安倍カラー」を鮮明にし、「右傾化」を打ち出したことで、民主党は「中道」という「違い」を打ち出せる状況になりました。2大政党に関しては、事の良し悪しは別として、体育会系のスポーツクラブ(=本流の政党政治)の伝統的なカラーである「保守・右・タカ派」と「リベラル・左・ハト派」というスポーツの「型」は示せつつあるようです。
一方、「第3極」と呼ばれる中小政党のスタンスは、どうでしょうか。「名は体を表す」といいます。政党が、体育会系から同好会系にシフトした走りは、「みんなの党」ではないでしょうか。「みんな」とは誰を指しているのか。それは、同好の士のことでしょう。「テニスが好きな人、集まれ!」。政策通で実務能力に長けた議員が集まったと言われますが、この党名が示すように、何をしたいのかよくわかりません。かつて、「キャスティングボードを握る」ことを目指したみんなの党は、日本維新の会に合流し、いよいよ不明瞭になるのでしょうか。それとも踏ん張って、体育会系の矜持を示すのでしょうか。
「みんなの党」が先鞭をつけた「同好会系政党名」のトレンドは、「国民の生活が第一」で一気にブレークしました。民主党の2009年衆院選のスローガンをそのまま政党名にした小沢さんは、政治にラグビーも野球もない、と見切ってのことなのかもしれません。そして最後発で登場したのが、「減税日本・反TPP・脱原発を実現する党」です。「減税日本」の河村さんが「どえりゃー長い党名になってしまいました・・・」と照れ笑いをしていました。夏はテニス、冬にはスノボー、その間にダンスパーティーもやろう、という典型的に社交同好会。やりたいことは良くわかりますが。
「衆愚」を前提にしない科学
こうした衆院選の政党の動きと、一見関係ない記事が、朝日新聞の1面トップとなった「福島県におけるWHOの原発事故の影響調査」です。内容は、記事要約をご覧いただくとして、ここでは国連機関であるWHOと、国内の科学者のスタンスの違いを指摘したいと思います。
WHOは、科学的知見で客観的にわかることを打ち出す前提で、「過大評価」になってもリスクを明示しようとしました。これに対して、日本の専門家は、低線量放射線での「影響は考えにくい」と繰り返してきました。「高いリスクを一度目にしたら、あとで低い数値に修正しても、住民は信用しなくなる。無用な不安を抱かせるべきでない」というのが、日本の専門家の基本スタンスです。
でも本当にそうでしょうか。日本人の民度は、その程度なのでしょうか。人々は、3.11後に覚醒しました。自分たちでしっかり勉強し、子供たちの命を守ろうとする人々がたくさん出てきています。「リスク・アセスメント」の前提と意味も、ちゃんと理解できるはず。何よりも隠蔽を嫌うのが、今の民意なのです。
「衆知」を集める政治へ
何をするのかわからない政権公約。何でもありですよ、と誘う党名。そして、事実(情報やデータ)や考え方の前提となる仮説を詳らかにしない科学者・専門家。今回の衆院選で、私たちが打破したいものは、「衆愚主義」(大衆は愚かだとい前提で、人気取りに走る政治)です。
戦後営々として積み上げてきた民主主義の成熟度を試すキーワードは、「衆知主義」(知恵を出し合い連携して社会を良くしていく態度)です。大衆の知恵と理解力を尊重し、苦い事実も正しく指摘し、有権者の当事者意識を喚起する政党が、ひとつでも多く表れることを願っています。
(文責:梅本龍夫)
讀賣新聞
【記事要約】 「維新公約に『地方共有税』」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事要約】 「がんリスク、明らかな増加見えず」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事要約】 「争点づくり懸命 ~2012衆院選」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事要約】 「素材安、アジアで拡大」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事要約】 「原発オフサイトセンター、電力系列社がすべて受注」