2012.11.23 fri

新聞1面トップ 2012年11月23日【解説】教育の原点

新聞1面トップ 2012年11月23日【解説】教育の原点


【リグミの解説】

言葉のイメージ
あるセミナー会場で、講師が「連想クイズ」を出しました。「『絆』からイメージできる言葉を90秒以内でできるだけたく
さん上げてください。そしてグループで共通の言葉があるか、発表してください」。エクササイズの結果、3~4人のグループが9ある中で、「共通の言葉が1つでもあった」というグループは、1つだけでした。

東日本大震災が起きた2011年の「今年の漢字」にも選ばれた「絆」(参照:朝日新聞2011年12月12日)。日本人であれば、何かしら共通の思いやイメージを抱く「絆」という漢字ですが、実際には人によって連想する言葉はさまざまでした。「家族」「友人」「つながり」「愛」「あたたかさ」「信頼」「社会」など、10前後の単語が出てくる中で、2人ぐらいは一致するものが出てきます。しかし、3人とも一致、4人とも一致となると、確率はぐっと下がってしまいます。

「いじめ」という言葉
それは、ひとつの言葉に対するイメージが各人で違うからです。持って生まれた感覚(気質)の違いもありますが、育った環境
や経験の違いが大きく影響します。その結果、同じ言葉を聞いても、人によって受け止め方は異なってきます。ある人が、「絆」に思いのたけを込めるとき、別の人はそこに通り一遍以上の価値を置かない、ということも起きます。「絆」を、「いじめ」に置き換えたら、どうでしょうか。

本日の朝日新聞の1面トップ記事は、文部科学省が実施した「いじめの緊急調査」の結果です。この調査の報道は、10月2日にもなされました(参照「リグミの解説」2012年10月2日)。10月の発表では半年で約7万5千件だったのが、今回の調査では、半年で14万4054件と倍増しました。2011年は1年間で7万231件でしたので、今年は4倍のペースということになります。

大幅に増加した「いじめ件数」
文科省は、「大幅に件数が増えたのは、いじめのわずかな兆候でも見逃さないとの意識が高まったから」と説明しています。し
かし、「いじめ」という言葉に対するイメージや価値観もまた、人ぞれぞれです。いじめがこれだけ社会問題化しても、教育現場での受け止め方は、一様ではないようです。そう感じる理由は、都道府県別の調査結果の差が著しいからです。

児童・生徒1000人あたりのいじめ件数は、今回調査で平均10.4件で前年の2.1倍です。しかし、10人以上の県が13ある一方で、3人以下が12県あります。最高は、鹿児島159.5人(2011年2.0人)。最低は、福岡の1.0人(2011年1.2人)。これだけ極端なばらつきがあると、鹿児島は「大袈裟?」、福岡は「隠蔽?」という反応も出てくるかもしれません。

「客観性」から「主観性」へ
今回の緊急調査は、これ以上いじめの犠牲者を出さないためのものです。個人面談やアンケートなど、調査方法は自治体によっ
て異なっています。鹿児島県は、「軽微と思われることでも積極的に把握し、1件でも多く発見し解決する学校こそが信頼されるという認識で徹底した結果」といいます。逆に、認知件数の低い自治体は、「いじめられた」と回答したケースでも、学校の調査で「いじめに当たらない」と判断したケースが多かったそうです(毎日新聞3面)。

ここに、いじめ問題に対応するひとつのヒントがあると思います。広辞苑で「いじめ」を調べると、「いじめること。特に学校で、弱い立場の生徒を肉体的または精神的に痛めつけること」とあります。現在の文科省の定義は、「一定の人間関係のある者から心理的、物理的な攻撃を受けたことにより精神的な苦痛を感じている」というもの。かつては「継続的な攻撃」「深刻な苦痛」という表現がありましたが、2006年に外しました。「いじめ」の定義が、いじめ行為の有無という「客観性」よりも、精神的な苦痛という「主観性」に移っているのです。

「思い」に寄り添う
そういう意味で、鹿児島県の取り組みには先見性があると思います。教師などから見ると、「遊びの一部」や「軽いけんか」に
しか見えないことでも、本人は「いじめられた」と感じている可能性があります。子供は自ら「いじめられた」とは言いません。だからこそ、教師や親は、子供たちの「思い」に寄り添う必要があります。大したことはない、普通のこと、と思えても、子供たちは心の内側に苦しみを抱え込んでいる可能性があります。

そして実は、心の内側に苦しみを抱え込んでいるのは、「いじめられる側」(被害者)だけでなく、「いじめる側」(加害者)にも当てはまります。さらには、「見て見ぬふりをする側」(傍観者)も同様です。いじめ問題は、閉鎖的なコミュニティー全体の課題なのです。教師も、親も、いじめ問題の「当事者」として、まずは子供たちの心の奥にしまいこまれた「思い」に寄り添うこと。それがいじめ問題に対応する大切な姿勢です。

教育の原点
冒頭のセミナーは、元NHKのアナウンサーが主催する「質問力アップ」の講座でした。3000人以上のインタビューを経験する中で
、難しい取材先にもたくさん遭遇しました。そうした体験で、同じ言葉でも、人の反応はさまざまだと知り、「質問力」を高めました。その要諦は、相手の立場に立つこと。自分と違う価値観や感覚の人を受け入れ、好奇心を持ち、その人がしてきたことや語ることに共感する。

持って生まれた性格や育った環境や経験の差が価値観の違いに現れます。しかし、そうした「違い」の奥に、人間性の本質的な共通性があります。だから人は分かり合えるのです。ちょっとした「違い」を異質なものとして排除したり、いじめたりするのでなく、「違い」の奥にあるものに目を向け、「共感」する。この体験こそ、教育の原点ではないでしょうか。

(文責:梅本龍夫)



讀賣新聞

【記事要約】 「第3極、二分化鮮明」

  • 減税日本の河村たかし代表(名古屋市長)は、山田正彦・元農相、亀井静香・元金融相らと会談し、新党「減税日本・反TPP・脱原発を実現する党」(略称・脱原発)を結成することで合意した。「第3極」は、「日本維新の会」「みんなの党」のグループと、「脱原発」「国民の生活が第一」のグループに二分化する方向だ。
  • 「第3極」の主な主張は、以下の通り。▽日本維新の会=「TPP交渉参加」「消費税を地方税化」「新しいエネルギー需給体制を構築」、▽みんなの党=「TPP交渉参加」「消費増税を凍結」「原発の新設を禁止」、▽減税日本・反TPP・脱原発を実現する党=「TPP交渉不参加」「消費増税を凍結」「脱原発」、▽国民の生活が第一=「TPP反対の方向」「消費増税に反対」「10年後に原発ゼロ」―。
  • 河村氏らは、脱原発や反消費増税で一致する「国民の生活が第一」との連携を検討している。一方、「国民の生活が第一」は、「社民党」や「みどりの風」との連携も探っている。

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/


朝日新聞

【記事要約】 「いじめ、半年で14万件」

  • 今年4月から約半年間に全国の小中高校などが把握したいじめの件数は、14万4054件となった。前年度1年分(7万231件)の2倍を超える。文部科学省が22日に発表したいじめの緊急調査による。
  • 文科省は、今回初めて「児童生徒の生命・身体の安全がおびやかされるような重大事案」について、詳細な報告を求めた。全国で278件あり、自殺未遂や入院した事例もあった。文科省は「大半は解決済み」とする。
  • 32都道府県が「軽微な事案でも学校が積極的にカウントした」という。全体の78.9%は「解決済み」と報告された。児童・生徒1千人あたりの認知件数が多かった県は、以下の通り。①鹿児島159.5人(2011年2.0人)、②奈良43.0人(同1.8人)、③宮城37.6人(同6.7人)、④京都31.0人(同1.6人)、⑤京都31.0人(同1.6人)―。

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/


毎日新聞

【記事要約】 「人質5人、立てこもり」

  • 22日午後2時20分頃、愛知県豊川市の豊川信用金庫蔵子支店で、刃物を持った男が、客1人と職員4人を人質に立てこもった。
  • 男は、野田内閣退陣などを求める発言をした。金銭は要求していない。県警は、現場付近を封鎖し、説得に当たっている。
  • 人質のうち、市内に住む客は、午後9時33分に解放、保護された。他の人質にも怪我人はいない模様。

(毎日jp http://mainichi.jp/

日経新聞

【記事要約】 「デジカメ販売1000万台減」

  • デジタルカメラ国内大手6社が、2012年度の販売計画を一斉に下方修正した。前回計画比で1割減の計1050万台の減少となる。2011年度と比較しても、4.5%減と、一転して2年連続の減少となる見通し。
  • デジカメ国内6社の世界販売は、以下の通り。◇キャノン=2012年度計画2780万台(前回計画との差▲240万台)、◇ソニー=同1600万台(同▲200万台)、◇ニコン==同2410万台(同▲90万台)、◇富士フィルム==同1100万台(同▲130万台)、◇パナソニック==同800万台(同▲300万台)、◇オリンパス==同730万台(同▲90万台)―。
  • 高度なデジカメ機能を搭載したスマートフォンの普及、世界的な景気減速、中国での不買運動などが逆風になっている。レンズ交換式が多いキャノンやニコンは、下方修正しても、前年度比で7~9%増える予定で、安定した収益を見込む。コンパクトカメラ中心のメーカーは厳しい。今後、高機能品へのシフトなど戦略の再構築を迫られそうだ。

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/


東京新聞

【記事要約】 「核燃料サイクル、矛盾棚上げ ~レベル7」

  • 5月9日、原子力委員会委員長代理の鈴木達治郎は、旧知の仲の古川元久・国家戦略担当相を訪ねた。鈴木は、原子力委で核燃料サイクルの在り方を議論する小委員会に責任者。「結論は(使用済み核燃料の再処理と地中処分を組み合わせた)併存になりそうです」。古川も「現行の全量再処理はありえないですね」と賛同した。
  • ところが目算が狂った。5月下旬に、原子力委が電力業界など推進派だけを集めた「秘密会議」を開催していたことが発覚。大問題になった。原子力委は、6月21日に「2030年時点の原発比率ゼロなら使用済み核燃料は地中に埋める直接処分、15%か20~25%なら併存が望ましい」とエネルギー・環境会議に報告。しかし、信頼を失った組織の報告は、顧みられなかった。
  • 古川は、政策転換の重要なテコを失い、見直しの動きは失速した。それでも、古川が官民混成の6人衆に起草を託した新エネルギー戦略の原案には、「核燃料サイクルの見直し」がきっちり残っていた。だが原案が経産省などに渡り始めると、内容は青森県と六ケ所村にも伝わり、反発が広まった。政府の最終決定は、原発ゼロを目指すのに、核燃料サイクルは維持―となった。

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)



【本日の新聞1面トップ記事】アーカイブ