【リグミの解説】
「二項対立」
「大は小があることで大であり、小もまた大があることで小となる」。プラトンは、主著『パイドン』の中で、ソクラテスが弟子たちに「二項対立」の本質を教えるさまを描写しました。相対の世界は、「二項対立」で溢れています。物事に「良い点や長所」があれば、その裏に「悪い点や短所」が隠されています。
本日の各紙の1面トップは、「良い、優れている」という主張と、「悪い、劣っている」という反論の往来を感じさせる記事です。読売新聞は、「民主党と自民党の党首同士の批判合戦」の記事です。野田首相が、自民党の政権公約の「原発政策」や「国防軍」のことを批判すれば、安倍総裁は、「民主党のようにまやかしで、だまそうとしているのではない」と反論。何やら、米国の大統領選挙のネガティブ・キャンペーンのような様相を呈してきました。
ミャンマーの「光と影」
朝日新聞は、「北朝鮮が大量破壊兵器の関連資材をミャンマーに輸出」しようとしたところを、日米政府が連携して阻止したという記事です。長い軍事政権時代を経て、近年のミャンマーは「民主化」に向けて動き出し、経済発展の可能性から、日本政府も積極的な支援を打ち出し、民間企業の進出を後押しするなど注目を浴びています。先日は、米国のオバマ大統領がいち早くミャンマーを訪問し、アウンサンスーチー氏と会談。スーチー氏を抱擁するオバマ大統領の写真が、各紙に大きく取り上げられました。
一方、毎日新聞は数日前にアウンサンスーチー氏との単独インタビューを行い、ミャンマーの「民主化」が当初想定よりも遅れていることに対してネガティブなコメントを繰り返すスーチー氏の様子を伝えていました(参照「新聞1面トップ記事」2012年11月22日)。今回の北朝鮮との取引は、国連安全保障理事会制裁決議に違反するもの。ミャンマーが核兵器開発を画策していたことも、あらためて浮上させました。脚光を浴びるミャンマーの「陰」が一気に浮上してきた感があります。
民主党の3年間の棚卸し
毎日新聞の本日の1面トップは、民主党の2009年の衆院選マニフェストの成績表の発表です。55項目に渡る政策について、「未着手=1」「着手したが実現の見込みなし=2」「進行中・大部分で実現=3」「実現し政策効果がある程度あり=4」「実現し政策効果が大いにあり=5」の5段階評価をしています。結果は、「平均2.2点」。「政権交代の意義を実績で示したとは言えない厳しい結果となった」と毎日は総括しています。
そして東京新聞は、民主党が「2030年代に原発ゼロ」を打ち出したにもかかわらず、核燃料サイクル政策は維持することになった経緯を検証する調査報道記事です。20年以上前、核燃サイクル施設に受け入れに関して、六ヶ所村が「賛成派」と「反対派」に分断され、隣人同士が激しく仲違いするまでになった様子を描写。大きな犠牲を払って、国の政策を支えた青森の村の漁師は「昔は貧しいけど穏やかな田舎町だった。それが核燃サイクルのせいで国や電力会社に振り回され、おらたちは人間扱いされなかった」と語りました。
「プラスとマイナス」の運動
こうした事象ひとつひとつの「光と影」「ポジとネガ」をどう見ていけばいいのでしょうか。「マイナス」と見えることの裏側には、「プラス」の要素があります。そのダイナミズムを積極的に評価することで、見えてくるものがあります。
- 民主党と自民党が、互いの足を引っ張り合うような言動は、日本の政治にとってプラスにならない。そういう見立ては正論だと思います。しかし、2大政党制は、「二項対立」をあえて促進する政治システムです。互いのどちらが「優れているか」を競う過程で、互いの「劣っている」ところがあぶりだされるのは、それ自体としては健全なことです。野田首相が提唱する党首会談を安倍総裁も受け、公開の場で大いにディベートをすると良いと思います。
- ミャンマーの問題は、政治体制と経済振興がワンセットであることを、あらためて自覚させる記事です。中国がだめならミャンマーがある、という雰囲気もメディアにありましたが、現実はカントリーリスクを織り込んでビジネスをしなければならないことに変わりはないことが明らかになりました。中国はかつて「政冷経熱」と表現されましたが、今は「政冷経冷」。しかし「冷と熱」も「二項対立」のひとつの在り方です。「冷」の要因を取り除けば、自ずと「熱」が見えてきます。同様に「熱」に浮かされず、その奥にある「冷」の現実を見つめる必要があります。
- 民主党のマニフェストの成績表は、厳しいものがありました。しかし、こうした検証は、かつては困難でした。稚拙で拙速であった面は否めませんが、民主党が仕掛けた新しい政治アプローチは、日本の政治環境を着実に一歩前進させました。政権公約という「事業計画書」を提示し、政権を奪取した政党は、そこに記された諸々の政策を実施するプロセスで、第3者の厳しい検証の目にさらされます。それが政党と有権者を鍛えていきます。マニフェストで「握る」ことで、政党も有権者も、政策の「当事者」となります。
- 六ケ所村のことは、日本の都市と田舎の問題を象徴します。都市は原発を電源とする「便利」を享受し、田舎は都市の便利を支える施設を受け入れることで、交付金や雇用、税収などの「便益」を得る。この一見すると「Win-Win」にも見えた構造は、原子力エネルギーの矛盾を覆い隠す中での虚構のものでした。核廃棄物の最終処理問題を棚上げしたまま、原発を稼働し続け、核燃料サイクル政策を維持した結果、六ヶ所村に大量の廃棄物が貯蔵されることに。
六ヶ所村の村長が打ち出した「再処理から撤退するなら、覚書通り施設にたまった使用済み核燃料を各原発に送り返す」というメッセージは、「便利」だけを享受し、その奥に隠された「不便」=「核廃棄物問題」を見ようとしなかった国民の意識を覚醒させました。「不都合な真実」をつきつけられることは、ショッキングなことです。しかし、そのことで「二項対立」が動き出します。
「対話」の効用
ソクラテスが説いた「二項対立」の関係は、ただ相対の間柄をぐるぐるとやりとりする、ということではありません。ソクラテスは、「大と小」の相対関係の奥に、そうした関係性を成立させる絶対の原理たる「イデア」(理念)があることを弟子たちに悟らせました。ハーバード白熱教室のマイケル・サンデル教授が学生たちに議論させる方法は、「ソクラテスの対話法」です。原発に関する「国民的議論」で話題になった「討議型世論調査」を開発したスタンフォード大のフィシュキン教授は、「古代ギリシアの直接民主制」が持っていた対話の方法論を参考にしたといいます。
「ポジティブな面とネガティブな面」が戦い合う運動の先に、両者を合一する一段高い進化のレベルが待っています。ソクラテスは、それを弟子たちとの「対話」を通して明らかにしていきました。現代の私たちも、「二項対立」を「対話」で解決していく姿勢を持つことで、より前進し成熟した社会を創造していくことが可能になります。
(文責:梅本龍夫)
讀賣新聞
【記事要約】 「民・自党首、批判の応酬」
- 野田首相は23日、自民党の衆院選政権公約への批判を行った。自民党の安倍総裁は、これに反論。両党首の応酬が激しくなってきた。首相は、安倍氏に公開の「党首討論」を呼びかける方針だ。
- 首相は、「脱原発」を打ち出す民主党と「(原発について)しばらく立ち止まって考えようというグループ」との違いを強調。自民党が衆院選公約に、自衛隊を「国防軍」と位置付ける憲法改正を明記したことも、「憲法9条改正も含めて、そう簡単にできるものではない」と批判した。
- これに対し、自民党の石破幹事長は、脱原発は実現性の検証が不十分と指摘。また安倍総裁は、「(国防軍)は衆参両院で(憲法改正に必要な)3分の2を確保した上で目指すと(いう趣旨で)書いている」と反論した。民主党の安住幹事長代行は、週明けにも、首相と安倍氏による公開討論会を自民党に申し入れる方針を表明した。
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事要約】 「大量破壊兵器の関連資材、北朝鮮がミャンマーに輸出」
- 北朝鮮は8月、中国経由の船でミャンマーに大量破壊兵器に関連資材を輸出しようとしていた。米国の要請で日本政府が、核やミサイルの開発などに使えるアルミニウム合金を押収した。
- 日米韓は、ミャンマーが既に核兵器開発を断念したと判断。関連国の政府当局者は、ミサイル開発用の部品との見方を示した。日本政府は、北朝鮮が難度の高いアルミニウム合金技術を持つ可能性は低く、中国から入手し、ミャンマーに横流ししたとみている。
- この輸出は、大量破壊兵器を含むすべての武器とその関連物資の北朝鮮からの輸出を禁じた国連安全保障理事会制裁決議に違反する。決議違反を否定してきたミャンマーと中国に対する批判が強まる可能性がある。
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事要約】 「民主、通信簿平均2.2」
- 毎日新聞は、政策の評価・検証を行う非営利団体・言論NPOと合同で、民主党の2009年の衆院選マニフェスト(政権公約)の実現度を検証した。55項目の政策目標について、5段階評価をした。結果は、平均2.2点だった。
- 民主党マニフェストの分野別の実績検証は、以下の通り(高い順)。▽子育て・教育=3.2点、▽雇用・経済=2.5点、▽地域主権=2.3点、▽ムダづかい=2.2点、▽消費者・人権=1.8点、▽年金・医療=1.7点、▽外交=1.6点―。「子育て・教育」の評価が高かったのは、予算をつければ形式的に実現する政策が多いためとみられる。
- 55項目の政策目標で、修正も含めて形式的に実現したことを示す「3」以上は18項目(33%)だった。マニフェスト政策は、約3割が「実現」したといえる。しかし、政策効果を含めて実現した「4」以上は、4項目(7%)にとどまった。民主党政権の検証を受け、今度は各党による今回の衆院選向けマニフェストの内容が問われる。
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事要約】 「地銀・信金に新規制」
- 金融庁は、2014年3月期決算から、地方銀行・信用金庫・信用組合・農協など、地域金融機関を対象にした新たな自己資本規制を導入する。
- 自己資本に関する規制内容と、主な狙いは、以下の通り。▽「劣後債・劣後ローンを一部除外」=資本の質を高め、経営体質を強化、▽「貸倒引当金の一部買い入れ」=貸し渋りを防ぎ、地域経済に必要な資金の供給促進、▽「有価証券の含み損益を除外」=株価低迷時の貸し渋り回避、株価高騰時の過剰融資防止、▽「持合い株相当分を差し引く」=金融機関がお互いに出資して自己資本を嵩上げするのを防止―。
- 来年3月末には、銀行からの借入金の返済猶予を認める中小企業金融円滑化法の期限が切れる。新規制は、金融機関の経営の健全性向上を促すもの。資本内容の充実と貸し出し増加が両立するようにし、貸し渋りを防ぎ、地域経済への影響を抑える。
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事要約】 「立地自治体、強まる不信 ~レベル7」
- 政府が原発ゼロ、核燃料サイクル見直しへを進めていた8月、青森県六ケ所村の古川健治村長は、「このままでは村の存亡にかかわる」と焦っていた。使用済み核燃料再処理工場をはじめ、日本の原子力政策の根幹を引き受けているのに、政府から何の話もなかったからだ。古川村長は、村に状況説明に来た経産省の役人に感情を抑え、伝えた。「村への影響は計り知れないほど大きい。約束に変わりはない。私はぶれませんよ」。
- 20年以上前の1989年の村長選では、賛成派と反対派の争いがあちことで起きた。県や村が地元の説得に使ったのが政府の約束だった。「六ヶ所村を使用済み核燃料の最終処分地にしない」。それから四半世紀、政府は原子力施設のある自治体と協議してから新戦略を練ったのでは、話がまとまらないとして、六ヶ所村との事前協議をしなかった。
- 古川が経産省に伝えた言葉は、再処理から撤退するなら、覚書通り施設にたまった使用済み核燃料を各原発に送り返す、という意味だ。核燃サイクルの問題は、原発の電気を使う人々全員の問題だ。だが、「青森が悪者にされた感がある」(青森県議で民主党県連幹事長の松尾和彦)。微妙だが重要なすれ違いを埋めない限り、核燃サイクル見直しに向けた議論の糸口は見えてこない。
(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)
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