【リグミの解説】
政権公約の工夫
マニフェスト(政権公約)を一躍有名にした3年前の政権交代。しかし民主党のマニフェストは、総花的で、実現性にも疑問があり、数値目標として掲げられたものは、「これぐらいはできるはず」という想定の域を出ないものでした。民主党の轍を踏まないように、各党は衆院選向けの政権公約の表現の仕方を工夫しています。
本日の読売新聞の1面トップは、自民党の政権公約に関する記事です。タイトルは、「日本を、取り戻す。」
「を」の後ろに「、」を打つ表記に、コピーライターの仕事を感じさせます。ビジネスで経営幹部用にまとめた資料を「エグゼクティブ・サマリー」と呼びますが、それにあたるのが「政策パンフレット」と呼ばれる最重点政策をまとめた政権公約の本体となります。その下に「政策BANK」と呼ぶ捕捉資料、さらにその下に「J-ファイル2012」という名の詳細資料が続きます。
意味不明のコピー
民主党は、マニフェストという横文字をひっさげて政権交代を果たしましたが、政権復帰を目指す自民党は、古い体質からのイメージ転換を図ろうとしているのでしょう。3層構造の政権公約の作り方は、なかなか魅力的に見えます。しかし、「おっ!」と驚くのは一瞬だけ。「政策BANK」も「J-ファイル2012」も、意味不明のキャッチコピーと気付くと、いささか興ざめ。
4つの重点課題として、「経済を、取り戻す」「教育を、取り戻す」「外交を、取り戻す」「安心を、取り戻す」とあります。マーケティング企画会社の仕事としては、いいものがあると評価できます。でも、古い顔に厚化粧をしても、若返るわけではありません。大事なものは、「キャッチ」の奥に隠れています。
政治決着
政権公約の効用のひとつは、「政治決着」を許さないことです。公約実現へのプロセスはどうなっているかについて、「説明責任」を負い、その実現度合いについての「結果責任」を負い、さらにはできなかったときはその理由を徹底検証し次につなげる「原因責任」を負います。この「3つの責任」は、まともなビジネスであれば、当たり前に負っています。
政治の世界には、「政治決着」という「オールマイティカード」があるようです。与党になった民主党は、このカードを何度も切りました。特に福島第1原発事故後の対応で目立っています。関西電力大飯原発3、4号基の再稼働判断では、何が安全なのか不明なまま見切り発車をしました。今も活断層が直下にあるのではないかと懸念され、検証作業が続いています。
そして、福島第1原発の事故状況の判断です。本日の朝日新聞の1面トップ記事は、原発事故対応の作業員が高線量を浴びながら、無料のがん検診を受けられる作業員が限定されている実態を批判的に報道しています。原発事故の作業現場のずさんな管理体制については、東京新聞が以前から調査報道を繰り返しています。今回の朝日の報道を読んで、「事故収束宣言」とは何だったのか、とあらためて疑問になりました。
3つの責任
昨年12月の「事故収束宣言」までの間に50ミリシーベルト超の放射線量を浴びた作業員が、検診の対象になる、というものです。でも、収束宣言の前後で、事故現場の放射線量の「違い」はどれぐらいあるのでしょうか。今も作業が続いている中、作業員の被曝量が目に見えて下がっているでしょうか。
長らく原発政策を推進してきた自民党は、原発事故について、民主党と同等の責任を負っています。なぜ事故は起きたのか。安全対策はどうするのか。原発政策は今後どうするのか。
しかし、この分野については、「全原発再稼働の可否を、3年以内に結論」という先送り公約です。安倍総裁は、自民党の政権公約は、「できることしか書かない」と力強く語りました。国論を二分してきた原発問題については、政権を取っても、ハンドルができないと言っているのでしょうか。それとも、民主党のように、いつの間にか「政治決着」しているのでしょうか。
原発事故と原子力エネルギー政策についての「説明責任」「結果責任」「原因責任」の3つを政権公約に入れてこそ、自民党の政権公約は、「ほんもの」になると思います。「キャッチ」の奥に隠れている素顔の美醜に、日本の未来が懸かっています。
(文責:梅本龍夫)
讀賣新聞
【記事要約】 「物価上昇2%目標明記」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事要約】 「無料検診、作業員の3.7%」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事要約】 「大統領に不信感」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事要約】 「情報漏洩も課徴金対象」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事要約】 「脱原発、崩れたシナリオ ~レベル7」