【リグミの解説】
新装開店
ファッションや飲食などのブランドショップを展開している事業者は、定期的に店舗のリニューアル(改装)をします。内装や設備等が傷むということもありますが、イメージを一新して、顧客を飽きさせない必要があるからです。政治も、ファッションに似たところがあります。
本日の新聞1面トップも3紙が衆院選挙関連の記事です。読売は、野田首相がTPP推進を公認条件にすることで、離党者がさらに増える可能性を指摘。朝日は、自民党の安倍総裁が日銀の金融政策に関する発言をは日々エスカレートさせ、株価が上昇していると報道。毎日は、日本維新の会に太陽の党が合流するシナリオは、1ヵ月前の橋下氏と石原氏の秘密会談で決まっていたとスクープ。
メディア戦略
ファッション・ビジネスは、ブランドイメージを確立し、維持発展させることが生命線となります。そのために、店舗を磨き、魅力的な商品やサービスを提供し、そして、雑誌などのメディアにさまざまな形で登場することを画策します。お金があれば、「純広」と呼ばれるイメージ広告を出稿します。より顧客にアピールするのが「タイアップ広告」です。雑誌の編集部が取材した記事という体裁を取りますが、企業側がお金を出してページを買い取って作る広告記事です。
ブランドにとって一番効率が良いのは、雑誌社が取材し自主的に記事にしてくれるケースです。ブランドに力があれば、雑誌は勝手に取り上げてくれます。そのブランドのことを記事にすれば、読者が注目し、雑誌が売れるからです。同じことが政治についても言えます。発言力のある政治家や政党は、新聞や雑誌がどんどん取り上げてくれます。勢い、政治家はマスコミ受けの良い発言をし、注目されることを狙います。
自民党の変化
自民党が3年前に下野した途端、新聞は手のひらを返したように、自民党のことや所属議員の動静を伝えなくなりました。自民党の議員たちは、野党の悲哀を初めて体験しました。自民党は、既成のメディアを相手にしても、与党民主党の露出度には勝てないとわかり、独自のメディア戦略を練りました。その様子が、日経ビジネス2012年9月24号の『国会議員「IT活用度」ランキング」に詳しく報じられています。
同誌によると、自民党は、15政党で唯一、「HP」「ブログ」「動画配信」「メルマガ」「ツイッター」「フェイスブック」「ネット献金」のすべてを活用。政党と政治家個人の連携度も高く、ソーシャルメディア上の双方向のコミュニケーションでも最上位の評価となりました。少なくても、メディア戦略では、自民党は変わりました。正確には、変わらざるを得まえんでした。
勇ましい発言
それが、民主党の敵失もあり、衆院選で与党に復帰できそうな勢いとなった今日、新聞や雑誌の自民党の取り上げ方は、既に与党並みです。自民党というお店のリニューアルは成功したように見えます。しかし、メディアの消費者である有権者は、実は自民党のどこが変わり、どこが変わっていないのか、よくわかりません。ファッション・ビジネスであれば、顧客は感覚で反応します。「いい感じ」がすれば、成功です。しかし、政治は、「なぜいい感じ」なのかを語らなければなりません。
その「語り」の最たるものが、選挙戦における政党幹部や政治家個人の演説であり、メディア取材への回答です。自民党の安倍総裁の「輪転機をぐるぐる回して無制限にお札を刷る」という日銀をけん制する金融政策に関する発言は、とてもわかりやすいです。「無制限」という言葉使いが、何かしら幻想を抱かせます。積極果敢な経済政策を次々と打ち出し、日本を再生するというイメージ戦略には、ぴったりの表現ともいえます。
でも、有権者はちょっと冷静になる必要があります。日本維新の会の橋下氏や同党に合流した石原氏などは、「個人ブランド」の作り方を良く理解した政治家です。メディア受けする発言をし、脚光を浴びることで、政治的影響力の維持と拡大を図ります。そして選挙になると、すべての政党と、すべての政治家が、同じ路線を突っ走り始めます。合戦だ!と雄叫びを上げ、拳を突き上げます。安倍さんも、橋下さんや石原さん並みの「個人ブランド」づくりを決意したように見えますが、どうなのでしょか。
政治とブランド
政治は、ブランド・ビジネスに似て、数年に一度、選挙という名のリニューアルを繰り返します。問題は、ブランド政治家の中味です。安倍総裁は、自身が首相であったときと、何が変わったのでしょうか。どこが同じなのでしょうか。橋本氏と石原氏は、毎日新聞がスクープした秘密会談で本当は何を「握った」のでしょうか。橋下氏は、「脱原発」の看板を下げたことを批判されると、既成政党よりも維新の方がよほど政策が一致していると反駁しました。
今回の米国の大統領選では、相手陣営を攻撃するネガティブ・キャンペーンのテレビ広告が実に5割を超えたそうです。オバマ大統領が初当選した4年前は、1割弱にすぎませんでした。合戦であれば、相手を攻撃し足を引っ張れば、勝てます。しかし、上質なブランド・ビジネスは、そういうことは決してしません。自分のブランドイメージを傷つけるだけだからです。自分自身を磨き、高めることで、消費者にアピールし、選択してもらう。それが、ブランドの本来の姿です。
日本ブランドの再生
ブランド・ビジネスの本質は、芭蕉の「不易流行」にあります。その時代の気分や進取の文化を打ち出す「流行」がなければ、退屈で飽きられます。しかし俳諧の本質である「不易」を忘れては、泡沫のように消えていくもの。永続するブランドは、「不易」と「流行」の絶妙のバランスを体得しています。
日本という国の「不易流行」を本当に理解し、体現できる政党と政治家は存在するでしょうか。ネガティブ・キャンペーンや向う受けのする勇ましい発言は、「衆愚」の政治の典型です。少々地味でも、本当の日本の「ソフトパワー」を理解し、引き出す政治が今本当に必要です。
政治は、有権者の賢明さの度量計です。「衆愚主義」(人気取りの政治、それに反応する大衆)から「衆知主義」(みなで知恵を出し合い、政治・社会・経済を良くしていく態度)に移行できるか。日本のブランド力を試す選挙が来月実施されます。
(文責:梅本龍夫)
讀賣新聞
【記事要約】 「民主党離党11人に拡大」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事要約】 「市場、連日の安倍相場」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事要約】 「1ヵ月前に役割『取引』 ~流動維新(1)」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事要約】 「リクルートがネット通販」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事要約】 「福島、終わらぬ除染」