【リグミの解説】
3つの脳
人間には、3つの「軸」があると言われます。「知・情・意」とも呼ばれもので、知性・感情・本能にあたるものです。脳神経生理学者のポール・マクリーンは、『3つの脳説』を提唱しました。生物進化の歴史が人間の脳を形成しているとする学説です。
人間の脳を特徴づけるのは、発達した「大脳新皮質」で、知性を司ります。そのすぐ下には、「大脳辺縁系」と呼ばれる哺乳類の脳があり、私たちの感情の拠り所となっています。さらにその下に、「R複合体」と呼ばれる爬虫類の脳があり、本能的な行動を指令している脳です。1978年にピュリツァー賞を受賞した天文学者カール・セーガンの『エデンの恐竜』で紹介され、有名になりました。
政治家の「軸」はどこにあるのか、選挙を前に、「3つの脳」のどれを優先しているのか、示唆的な記事が今朝の新聞の1面トップにに掲載されています。朝日新聞「石原代表、橋下代行」、毎日新聞 「維新に太陽が合流」、東京新聞「しぼむ政策、顔優先」と、3紙のタイトルが示すように、野田首相の突然の衆院解散で、慌てて「第3極」づくりを進める石原慎太郎氏と橋下徹氏の動きです。
「知性の脳」より「本能の脳」
政局を追っていると、政党と企業組織とはまったく別物だということがわかります。会社法に基づく法人格を創り、株主総会の決議で専任された取締役の契約観念に当たるものが、政治家にはありません。独立した政治家が、ボランタリーチェーンのように集まるのが政党のようです。それゆえ、石原慎太郎氏が「たちあがれ日本」の平沼赳夫氏と合流して「太陽の党」をたちあがたかと思ったら、あっという間に「日本維新の会」に合流しました。
平沼氏は、小泉政権時代に竹中平蔵氏が進めた郵政民営化に反対して自民党を離党しました。その竹中氏は、維新の会のブレインです。東京新聞は、「天敵同士」が合流する呉越同舟の連携を批判的に報道しています。政策の基本には、政治家の「軸」があります。政策とは本来、「知性の脳」が具現化する一貫した「主義」の産物のはず。その「主義」が正反対ともいえるふたりが合流して、何ができるのでしょうか。
石原氏と橋本氏の妥協ぶりは、もっと鮮明です。石原氏は、消費税の地方税化を受け入れ、橋下氏は「脱原発」の2文字を消去しました。第3極の動きを牽制した野田首相は、「小異を捨てて大同につくという言葉を安易に使ってしまうが、小異ではない、大事なものを捨ててくっつく野合になる」と、維新と太陽の合併を批判しています(毎日新聞)。これは、至極まっとうな批判だと思います。
政治屋と政治家
きわめて保守的な橋下氏は、リベラル派やエコロジストとは異なる視点で「脱原発」の本質をつかんだ政治家でした。そこに、既成の「保守」とは異なる清新さを見て取った人も多いと思います。日本維新の会の「魂」は、どこに飛んで行ってしまったのでしょうか。
「腹を割って話す」とか「腹の探り合い」という表現があります。ここでいう「腹」とは「本音」のことです。選挙が眼前に迫って、政治家達の「本音」があぶりだされました。「政治屋は次の選挙を、政治家は次の世代を考える」という諺があります。
「脱原発」と「原発推進」のどちらが正しいかは問いません。問題は、エネルギー政策の在り方が、次世代に多大な影響と負担を与えるということです。何十年もかけて、次世代の国の在り方を提示し、あるべき姿へと導けるのは、政治家しかいません。次の選挙に翻弄される政治屋ばかりでは、日本は不幸です。
政治家の愛
「腹」が象徴するのは、「本能の脳」です。政治家(政治屋)の本音は、選挙に落ちる恐怖との戦いです。「本能の脳」は、生命の危機を恐れる感覚と、この世を物質的に支配しようとする感覚の両方をもっています。この圧倒的な感覚の前では、「知性の脳」が紡ぐ政策や主義は、泡沫のような「建前」に過ぎないのでしょうか。
「本能の脳=爬虫類の脳」は、大きくなることで生命の危機を回避し、この世を支配しようとします。巨大化した恐竜のように、とにかく大きくなろう。政策の不一致は後回しでいい。小異も大異も関係ない。でも、巨大な身体に小さな脳をもった恐竜は、進化の袋小路に入り、地球環境の激変に遭遇し、絶滅してしまいました。
政党が掲げる政策や公約、マニフェストの類は、何のためにあるのでしょうか。民を救うためなのか。それとも民を騙すためなのか。政治家の「建前」(「知性の脳」が紡ぐ政策)と、「本音」(「本能の脳」が突き動かす実際行動)を結合するものがあります。それが、「感情の脳」です。政治家の胸の中心にあるハート、魂です。
建前と本音が一致するところに、人間の本当の心があります。マクリーンは、「3つの脳学説」を「三位一体の脳」と呼びました。政治家の三位一体の脳の中心に、「民を愛する心」が鎮座していることを願います。
(文責:梅本龍夫)
讀賣新聞
【記事要約】 「投票先、自民26%民主13%」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事要約】 「石原代表、橋下代行」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事要約】 「維新に太陽が合流」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事要約】 「ミャンマー支援、500億円」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事要約】 「しぼむ政策、顔優先」