【リグミの解説】
衆院解散・総選挙の論点
衆院解散が決定した瞬間、本会議場の議員たちは一斉に「万歳三唱」をしました。慣例に従って、ということなのかもしれませんが、一体何が「万歳」に値するのでしょうか。本日の新聞1面トップは、全紙「衆院解散、総選挙」の記事です。各紙の強調点は以下の通りです。
読売: 民主政権の3年問う
朝日: 政権交代の総括
毎日: 民主・自公・第3極の乱立
日経: 政権枠組み焦点に
東京: 衆院解散、課題積み残し
ここから3つのポイントが見えます。第1が「政権交代の検証」(読売、朝日)、第2が「2大政党制の今後」(毎日、日経)、第3が「決められる政治へ」(東京)です。
政権交代の検証
初めて国民が「政権を選択」した国政選挙が2009年のの衆院選でした。この3年間の民主党政権の棚卸をしっかりし、国民は何を選択し、その結果どういうことが起きたのかを徹底検証すべきだと思います。ただ、そのときにもっぱら民主党のマニフェストの問題や政権運営の稚拙さを指摘するだけでは、本当の検証にはなりません。
必要なのは、民主党に先立つ自民党の長期政権との比較検証です。特に自民党政権末期の「安倍政権(2006年9月~2007年8月の11ヵ月)」、「福田政権(2007年9月~2008年8月の11ヵ月」、「麻生政権(2008年9月~2009年9月の12ヵ月)」と、民主党の3政権の比較検証が大事だと思います。
各政権の長さを比較しても、民主党も「鳩山政権(2009年9月~2010年6月の9ヵ月)」、「菅政権(2010年6月~2011年9月の15ヵ月)」、野田政権(2011年9月~2012年12月の15ヵ月)」と近似しています。自民党の末期3年と、民主党のスタート3年は、日本の政治環境の基本課題として、一続きです。
2大政党制の今後
民主党は、自民党との「違い」を強調するために「リベラル色」を打ち出しましたが、紆余曲折を経て、自民党と差異の見出しにくい「保守色」に染まりました。そうであれば、保守本流の自民党に戻した方がいいかというと、下野した自民党は、今度は民主党との「違い」を打ち出すために、「保守色」を一気に強めてきました。
この点で、野田首相の発言の「前に進めるのか、政権交代の前に時計の針を戻して、古い政治に戻るのかが問われる選挙だ」は、一面的な指摘でしょう。かつての自民党は、全体としては「保守」ですが「リベラル」とのバランスを取る「中道保守」を本流としていたと思います。それが機能しなくなったのが、末期の3政権だったのではないでしょうか。そこで「新生自民党」は、「保守色」の鮮明化=右傾化のリスクを恐れなくなりました。
「民主党がダメだから昔の自民党に戻す」は、既に不可能なのではないでしょうか。覆水盆に返らず。むしろ政権交代によって、怪我の功名のように生まれた「保守(右)―リベラル(左)」というややトラディショナルな「二項対立」の軸で、2大政党制の意味と意義を整理した方がいいのではないかと思います。そうすると、「第3極」が本当の「第3の選択肢」なのか、あるいは「保守ーリベラル」の代理戦争なのか、自ずと明らかになると思います。
決められる政治へ
東京新聞は、本日の1面トップ記事で、野田政権の「積み残し課題」を列挙しています(参照:記事要約)。このリストは、総選挙後に解消するでしょうか。恐らく、新たなリストが積みあがっていくのではないかと思います。なぜでしょうか。逆説的ですが、民主(第1極)と自公(第2極)と「第3極」の「対立軸」がはっきりしないからです。
昨日の「リグミの解説」で、一貫した「主義」をもった2つの「大きな物語」を創ることが、2大政党制の責務だと主張しました。どちらの「大きな物語」がより多くの国民を納得させるか。その魅力度を競うのが選挙です。そして、選挙後は、2つの主義(「保守」と「リベラル」)が示す2つの「物語」を分裂状態にとどめず、国民全体で共有できる「ひとつの物語」にする政治主導が開始されるべきです。
かつて自民党が、自党内の「保守」と「リベラル」をバランスさせたことを、今度は2大政党(ないしは2大勢力)が、正々堂々とした討論と「対話」を通して現実の着地点を見出していく必要があります。「右」か「左」を主張するのは簡単です。有権者の受けもいいかもしれません。でも、一番大変で、一番価値のあることは、「三遊間に落球」させないことです。どの政党も、日本の全体に責任を負っています。
自民党の末期3年と民主党の始まりの3年を総括するのが、今度の選挙です。「決められない政治」から「決められる政治」へ。そして、本当に意味で「万歳」と喜べる政治を。政治家と有権者の「学習能力」が問われています。
(文責:梅本龍夫)
讀賣新聞
【記事要約】 「衆院解散、総選挙」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事要約】 「政権交代、総括へ」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事要約】 「衆院解散、総選挙」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事要約】 「衆院解散、総選挙へ」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事要約】 「お任せ政治、脱却の時」