【リグミの解説】
権力の在り方
権力は集中した方が意思決定は迅速になり、組織を自在に動かせます。しかしそれは、独断専行の危険と隣り合わせ。そこで権限を分散すると、間違いや危険を回避できますが、正しいことをタイミング良く実行できなくなる可能性があります。本日の新聞1面トップは、「権力」に関する記事が3本集中しました。
読売新聞の記事は、民主党の常任幹事会で「党の総意」として野田首相に衆院解散反対を伝えた、というもの。素人には、国政を担う政党の権力構造はわかりにくいものがあります。そもそも、民主党常任理事会って何でしょう。読売によると、「党規約に関する事項や党所属議員の処分など、重要事項を承認・決定する機関。その他の議決機関として、党大会、両院議員総会がある」とのこと。
民主党の権力
これでもよくわからないので、民主党のHPを覗いてみました。普通の企業であれば当たり前の「意思決定機構」や「組織図」というものがありません。「党機関」というメニューを開くと、役員の一覧表で、「組織」というメニューは都道府県別の支部の一覧表になっているという具合(参照:民主党HP)。
なるほど、国政を担う政党は、政治家個人の寄り合い所帯なのだと納得しました。昨日の「リグミの解説」で、コンビニの経営者(フランチャイジー)と本部の関係を論じましたが、政党は本部の存在しないフランチャイジー(個人政治家)の集合体なのかもしれません。政党と政治家の関係を縛る契約書がないので、政治家は何か気に入らないことがあると、簡単に「離党カード」を切ろうとするのでしょうか。
東京都知事の権力
本日の東京新聞は、強大な権力を持つ東京都知事に関する検証記事です。大統領に比される都知事は、自分ひとりで意思決定ができますが、首相は閣議決定を経なければ物事を決められません。
近年、地方の時代を掲げ、地方自治体が国政に物申すが姿勢が強くなっています。「失われた20年」を経て3.11を体験した日本が、大きな時代の変革期に入ったためですが、そもそも自治体の首長には権限が集中していて、実績を出しやすいのに対して、国政は権限が分散され政争にあけくれるのが、もどかしく見えるということもあると思います。
中国共産党の権力
朝日新聞は、1面トップで中国共産党の党大会で、胡錦濤総書記が「完全引退」カードを切り、江沢民・前書記長の院政に終止符を打ったことを伝える記事です。胡氏は、軍事委主席に留まるなどして、党人事に介入を繰り返す江氏に悩まされてきたといいます。
書記長であり、国家主席でもあり、軍事委主席も務める最高権力者の胡氏ですが、かつての指導者のようなカリスマ性はありません。毛沢東や鄧小平のようなカリスマなきあと、集団指導体制に移行した時代に、全体のバランスを取れるテクノクラート(官僚政治家)として登場した胡錦濤氏は、統治機構のスキを付く院政を排除するために、自分の代では院政をしないという「完全引退カード」を切ることで、党を身綺麗にしようとしているのでしょうか。
企業の権力
では政治との比較で、企業のトップの権力や意思決定機構はどんな感じでしょうか。株式会社であれば、一番上に株主総会があり、その下に株主が選任した取締役会が存在。その取締役会が決議する代表取締役が社長の地位につき、業務執行をします。でもこれが形式の示唆するとおり機能することはまずありません。日本では、権力の集中した社長と物言わない取締役のパターンと、院政を敷く会長や相談役に気を使う実権の限定された社長の2パターンが典型としてあるようです。
権力と統治機構に「正解」はありません。より良いと思う方法を取り入れ、進化し続けることで「あるべき姿」に変容していくことが肝要です。筆者が体験したオーナー企業の事例でいうと、まず創業者の「院政」が起きないように「完全引退」を前提とした内部規程をつくりました。そして日々の意思決定は、社長が①「全員一致」、②「多数決」、③「社長一任」―の3択からひとつを選ぶ、という方式を導入しました。いわば「大統領制」と「内閣制」の折衷案のようなものでしたが、その当時の状況にフィットしていたため、一定の成果を上げることができました。
創造的破壊
さて、我が国の総理大臣の権利について。そもそも内閣の合議制で縛られる首相は、政権政党の民主党の議員の「離党カード」や「首相降ろしカード」に悩まされ、参院で少数である「ねじれ国会」によって野党の自民党などと連携しかければ大きな決定ができない金縛り状態にあります。その中で、唯一ともいえる首相の専権事項が「衆院解散権」。野田首相は、民主党常任理事会が決定した「党の総意」に従う意向はないようです。いわば「解散」という切り札を武器に、最後の大勝負に出ようとしいるように見えます。
リーダーシップには、「現状維持型」「破壊型」「創造型」の3つのスタイルがあります。この3つは、どれが優れているということはありません。状況に応じて併用していくものです。そんな中、日本の20年来の閉塞状況を打破してくれる「破壊型」の強いリーダーを求める風潮が強まっています。
しかし「破壊」とは「創造」に先立つ一手に過ぎません。シュンペーターの「創造的破壊」は、絶えざるイノベーションの中で進化し続ける強靭で柔軟なリーダーと組織の在り方を提唱したものです。優れた企業は、上手な「創造的破壊」のやり方を血肉化しています。日本の政治は、「解散」という「破壊」のあと、何を「創造」しようとしているのでしょうか。
(文責:梅本龍夫)
讀賣新聞
【記事要約】 「年内解散反対『党の総意』」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事要約】 「胡総書記、完全引退へ」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事要約】 「かんぽ、100億円不払い」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事要約】 「海外の配信企業、登録制」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事要約】 「原発政策、国動かせ ~都知事の条件(上)」