2012.11.14 wed

新聞1面トップ 2012年11月14日【解説】いろいろな権力

新聞1面トップ 2012年11月14日【解説】いろいろな権力


【リグミの解説】

権力の在り方
権力は集中した方が意思決定は迅速になり、組織を自在に動かせます。しかしそれは、独断専行の危険と隣り合わせ。そこで権
限を分散すると、間違いや危険を回避できますが、正しいことをタイミング良く実行できなくなる可能性があります。本日の新聞1面トップは、「権力」に関する記事が3本集中しました。

読売新聞の記事は、民主党の常任幹事会で「党の総意」として野田首相に衆院解散反対を伝えた、というもの。素人には、国政を担う政党の権力構造はわかりにくいものがあります。そもそも、民主党常任理事会って何でしょう。読売によると、「党規約に関する事項や党所属議員の処分など、重要事項を承認・決定する機関。その他の議決機関として、党大会、両院議員総会がある」とのこと。

民主党の権力
これでもよくわからないので、民主党のHPを覗いてみました。普通の企業であれば当たり前の「意思決定機構」や「組織図」
というものがありません。「党機関」というメニューを開くと、役員の一覧表で、「組織」というメニューは都道府県別の支部の一覧表になっているという具合(参照:民主党HP)。

なるほど、国政を担う政党は、政治家個人の寄り合い所帯なのだと納得しました。昨日の「リグミの解説」で、コンビニの経営者(フランチャイジー)と本部の関係を論じましたが、政党は本部の存在しないフランチャイジー(個人政治家)の集合体なのかもしれません。政党と政治家の関係を縛る契約書がないので、政治家は何か気に入らないことがあると、簡単に「離党カード」を切ろうとするのでしょうか。

東京都知事の権力
本日の東京新聞は、強大な権力を持つ東京都知事に関する検証記事です。大統領に比される都知事は、自分ひとりで意思決定が
できますが、首相は閣議決定を経なければ物事を決められません。

近年、地方の時代を掲げ、地方自治体が国政に物申すが姿勢
が強くなっています。「失われた20年」を経て3.11を体験した日本が、大きな時代の変革期に入ったためですが、そもそも自治体の首長には権限が集中していて、実績を出しやすいのに対して、国政は権限が分散され政争にあけくれるのが、もどかしく見えるということもあると思います。

中国共産党の権力
朝日新聞は、1面トップで中国共産党の党大会で、胡錦濤総書記が「完全引退」カードを切り、江沢民・前書記長の院政に終止符
を打ったことを伝える記事です。胡氏は、軍事委主席に留まるなどして、党人事に介入を繰り返す江氏に悩まされてきたといいます。

書記長であり、国家主席でもあり、軍事委主席も務める最高権力者の胡氏ですが、かつての指導者のようなカリスマ性はありません。毛沢東や鄧小平のようなカリスマなきあと、集団指導体制に移行した時代に、全体のバランスを取れるテクノクラート(官僚政治家)として登場した胡錦濤氏は、統治機構のスキを付く院政を排除するために、自分の代では院政をしないという「完全引退カード」を切ることで、党を身綺麗にしようとしているのでしょうか。

企業の権力
では政治との比較で、企業のトップの権力や意思決定機構はどんな感じでしょうか。株式会社であれば、一番上に株主総会があ
り、その下に株主が選任した取締役会が存在。その取締役会が決議する代表取締役が社長の地位につき、業務執行をします。でもこれが形式の示唆するとおり機能することはまずありません。日本では、権力の集中した社長と物言わない取締役のパターンと、院政を敷く会長や相談役に気を使う実権の限定された社長の2パターンが典型としてあるようです。

権力と統治機構に「正解」はありません。より良いと思う方法を取り入れ、進化し続けることで「あるべき姿」に変容していくことが肝要です。筆者が体験したオーナー企業の事例でいうと、まず創業者の「院政」が起きないように「完全引退」を前提とした内部規程をつくりました。そして日々の意思決定は、社長が①「全員一致」、②「多数決」、③「社長一任」―の3択からひとつを選ぶ、という方式を導入しました。いわば「大統領制」と「内閣制」の折衷案のようなものでしたが、その当時の状況にフィットしていたため、一定の成果を上げることができました。

創造的破壊
さて、我が国の総理大臣の権利について。そもそも内閣の合議制で縛られる首相は、政権政党の民主党の議員の「離党カード」
や「首相降ろしカード」に悩まされ、参院で少数である「ねじれ国会」によって野党の自民党などと連携しかければ大きな決定ができない金縛り状態にあります。その中で、唯一ともいえる首相の専権事項が「衆院解散権」。野田首相は、民主党常任理事会が決定した「党の総意」に従う意向はないようです。いわば「解散」という切り札を武器に、最後の大勝負に出ようとしいるように見えます。

リーダーシップには、「現状維持型」「破壊型」「創造型」の3つのスタイルがあります。この3つは、どれが優れているということはありません。状況に応じて併用していくものです。そんな中、日本の20年来の閉塞状況を打破してくれる「破壊型」の強いリーダーを求める風潮が強まっています。

しかし「破壊」とは「創造」に先立つ一手に過ぎません。シュンペーターの「創造
的破壊」は、絶えざるイノベーションの中で進化し続ける強靭で柔軟なリーダーと組織の在り方を提唱したものです。優れた企業は、上手な「創造的破壊」のやり方を血肉化しています。日本の政治は、「解散」という「破壊」のあと、何を「創造」しようとしているのでしょうか。

(文責:梅本龍夫)



讀賣新聞

【記事要約】  「年内解散反対『党の総意』」

  • 民主党は13日、常任幹事会を開き、年内の衆院解散を目指す野田首相への批判や反発が相次いだ。輿石幹事長は首相に対して、「党の総意」として解散に反対する考えを伝えることを決めた。
  • 幹事会では、約10人が衆院解散に反対する考えを表明した。中山義活衆院議員は、首相の退陣に言及した。藤井裕久最高顧問と菅前首相は、衆院の任期満了まで解散すべきでないとの考えを表明した。赤松広隆副代表は、首相がTPP参加表明を目指していることを批判した。
  • 輿石氏はこの後、首相と会談し、常任幹事会の決定内容を伝えたが、首相は年内解散を断行する考えを崩していない。首相周辺は、「解散は首相が決めることだから、誰も止めることはできない。それは党もわかっているだろう。(解散に向けた動きは)粛々と進む」と語る。

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/


朝日新聞

【記事要約】 「胡総書記、完全引退へ」

  • 中国共産党が11日の内部高官会議で、胡錦濤総書記の「完全引退」を決定したことがわかった。複数の党関係者が明らかにした。胡氏は第18回党大会終了後に、総書記のみでなく、党中央軍事委員会主席を含むすべての党の要職を習近平国家副主席に譲る。
  • 胡氏は、「完全引退」の意向を表明。その上で、①いかなる党高官も引退後は政治に関与しない、②今後、軍人委主席も含め引退期限を巡る人事での例外を認めない、との2点を内部規定とすることを主張。最終的に内部会議で了承された。
  • 江沢民・前総書記や鄧小平氏は、党の要職を退任後も、党軍事委主席にとどまることで影響力を保持し、指導部人事などに介入してきた。胡氏は、尖閣諸島問題などの対応のため軍事委主席の慰留を求められ、一旦は留任の意向を示していた。しかし人事での党内混乱が続いたため、再び「完全引退」という最大の政治カードを切った。

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/


毎日新聞

【記事要約】 「かんぽ、100億円不払い」

  • 日本郵政グループのかんぽ生命保険が、民営化後の5年間で、支払うべき保険金計100億円を不払い状態にしていた。金融庁の報告徴求命令を受けて、同グループが再調査したことで判明した。金融庁は、「報告、対策が不十分」として報告命令を解除していないため、新規業務審査にも影響するのは必至とみられる。
  • 金融庁が問題にしたのは、契約者から請求がないことを理由に保険金を支払っていなかった事例。本来は契約者に「請求案内」の形で適切な助言をすべきなのを怠っていた。
  • 保険金の不払い件数は、計10万件にのぼるとみられる。かんぽ生命は、旧日本郵政公社時代の2003~2007年に、26万7千件、352億円の不払いが発覚している。民営化後も保険金支払い体制に不備があったことが浮き彫りになった。

(毎日jp http://mainichi.jp/

日経新聞

【記事要約】 「海外の配信企業、登録制」

  • 財務省は、海外からインターネット配信される音楽や電子書籍に消費税を課していく方針だ。消費税は現在、サービスを提供する事業所などが国内にある場合に課税される。これを事業所の所在にかかわりなく、国内の消費者へのサービスならば課税する枠組みに変え、海外企業にも納税を義務付ける。
  • 財務省が検討しているのは、海外企業に日本の税務当局への登録を求め、消費税の課税漏れをなくす案。制度作りで、欧州連合(EU)が採用する域外企業への課税方式を参考にする。
  • 財務省は、海外の税務当局との情報交換も強化し、登録制だけでは捕捉しきれないネット配信収入の全体像把握に努める。消費税がかかる国内ネット配信との不公平をなくし、内外の企業の競争環境を対等にする。

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/


東京新聞

【記事要約】 「原発政策、国動かせ ~都知事の条件(上)」

  • 都知事の権力は、大統領とも評される。年間予算12兆円は、ノルウェー一国並み。17万人の職員を動かし、ひとりで意思決定する。戦後の平均在任期間は11年に及ぶ。対する首相は、内閣の合議で縛られ、平均在任期間も2年に過ぎない。
  • 石原慎太郎が都知事になった2000年を境に、都から霞が関の官僚への書類は「要望」から「提案要求」に変更された。「国とは上下関係じゃない」と号令した結果だ。国が配る地方交付税に大半の自治体は依存するが、唯一東京都だけは、一度も交付を受けたことがない。自治体運営の目付け役として国が送り込む中央官僚の指定席もない。
  • それだけの権力と影響力がある。「だから東京を通して国を動かそう」と原発再稼働の是非を問う都民条例制定を目指した山木きょう子は考えた。しかし石原は、山木らの動きを「センチメンタルともヒステリックとも思える」と突き放した。「東京が脱原発の態度を示せば、社会に与えるインパクトは大きいはずだ」と山木は語る。しかし。都知事は強い権限と影響力を原発政策で行使しようとしなかった。

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)



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