2012.11.11 sun

新聞1面トップ 2012年11月11日【解説】「命」のテーマと向き合う時代

新聞1面トップ 2012年11月11日【解説】「命」のテーマと向き合う時代


【リグミの解説】

「延命治療せず」
かつて、新しい命は授かるものであり、終(つい)の命は手放すものでした。科学が発展した現代社会は、命を操作する術を手
に入れました。私たちは、「命とは何か」という問いに直面しています。本日の朝日新聞の1面トップは、全国の救命救急センターで、高齢者の「延命治療せず」を経験した事例が6割を超えた、という記事です。

日本救急医学会は2007年に、本人や家族の利益にかなえば延命治療を中止できる指針をまとめましたが、医師たちは、「刑事責任を問われない保障はない」として、延命中止の判断を見送るケースが多かったそうです。ただ近年は、「自分らしい最後を迎えたい」という意志を元気なうちに表明する動きが社会的に広がっています。日本尊厳死協会に登録をしたり、リビングウィル(治療方針についての事前指示書)やエンディングノート(広義の遺書)などの文書を用意する人が増えています。

しかし、たとえ本人の意志が明確に提示されていたとしても、いざ救命救急センターの現場に駆け付けた時、親族の人たちの悩みは深く、延命治療の中止は簡単に答えを出せないケースも少なくないと思います。治療の中止は、家族だけでなく、医療スタッフの心理負担も大きい、と朝日新聞は報じています。

命の選別
一方、新しい命を選別する動きも加速しています。今年9月25日に、「妊婦の血液から、胎児のダウン症などの染色体異常が、ほ
ぼ確実に分かる新しい出生前診断の臨床研究が、国内の10施設程度で始まる」ことが大きく報道されました。妊娠10週から検査可能で、35歳以上の高齢妊婦などが対象。ダウン症の場合、99.1%の精度で検出できます。新しい検査法は、妊娠初期に採血だけで診断できるため、中絶という「命の選別」につながる懸念がある、と東京新聞は報じています(参照:TOKYO Web)。

英国は、2003年にダウン症の出生前診断について国が管理をはじめました。10年前のデータですが、胎児がダウン症と出生前に確定診断された1021人の妊婦の92%にあたる942人が、人工妊娠中絶を選んだそうです(参照:毎日JP)。今後は、遺伝子工学の進歩などにより、親が「望まない」子供を堕胎するだけでなく、親が積極的に「望む」資質をもった子供を選別する動きも出てくるかもしれません。

山中教授のノーベル賞受賞で注目を浴びるiPS細胞が切り開く未来も、若者のような肉体を維持する老人や、サイボーグのように身体能力や知力を強化するなど、SFの専売特許だった物語が、現実化する可能性も秘めているように見えます。山中教授は、治療法の開発を待つ難病の患者たちに応えようとする科学者そして医師としての純粋な「思い」で、研究活動を続けています。しかし、パンドラの箱を開いた人類は、制御不能な方向に暴走する危険性をも秘めているのではないでしょうか。

生命科学を支えるもの
朝日新聞の記事と呼応すように、本日の毎日新聞に「命の選別と向き合う ~救急のプロの仕事」という調査報道が掲載されて
います。東日本大震災の惨禍に飛び込み、必死で救命活動をした医師たちの苦悩が、迫真の筆致でつづられています。この記事のエンディングは、集中治療室にいる老人の死を看取るために、小さな孫たちを入室禁止の部屋にあえて入れる医師の逸話です。子供に「死を実感」させるために。「子供は素直にそれを受け入れる」と医師は語ります。

ハーバード大学の「白熱教室」で有名なマイケル・サンデル教授の講義が、東京で開催されたとき、教授は「遺伝子操作をして子供を選別することは是か非か」と問い掛けました。さまざまな立場の議論が続くのを聞きながら、「命は授かるもの」という思いが湧いたのを思い出します。

そして、授かった命は、いつか終わります。終(つい)の命を「手放す」ことも、大きな命の営みの一部です。新診断法やiPS細胞のような生命科学の成果を積極的に追求する人類の英知は、「命とは何か」を深く受け止める社会の知恵と愛に支えられる必要があります。

(文責:梅本龍夫)



讀賣新聞

【記事要約】 「被災地盛り土、最大17メートル」

  • 東日本大震災で被害を受けた岩手県、宮城県、福島県の12市町が、市街地を盛り土でかさ上げし、現地を再建する計画を立てている。想定面積は、740ヘクタールで東京ディズニーランドの15倍に迫る。
  • 市街地のかさ上げを予定する市町は、以下の通り。▽岩手県=宮古市、山田町、大槌町、釜石市、大船渡市、陸前高田市、気仙沼市、▽宮城県=女川町、塩釜市、名取市、▽福島県=新地町、いわき市―。
  • 12市町の26地区で実施予定だが、都市計画法に基づき対象地域を確定したのは6市町のみ、着工はまだない。かさ上げは、1~6メートルが多いが、宮城県女川町では最大17メートルかさ上げする。土不足や、地盤改良工事による工事の遅れを懸念する声もある。

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/


朝日新聞

【記事要約】 「延命治療せず、6割経験」

  • 全国の救命救急センターの6割以上が、過去1年間に救急搬送された65歳以上の高齢者に対して、延命治療の中止や差し控えを経験していた。朝日新聞の調査に対して、全国254の救命救急センターのうち、57%の145施設から回答があった。
  • 延命治療の中止・差し控えの経験は、以下の通り。▽「経験がある」=63%(91施設)、▽「経験がない」=34%、▽無回答=3%―。「経験がある63%」の内訳は、以下の通り。▽人工呼吸器=302件、▽昇圧薬・抗菌薬=93件、▽人工透析=43件、▽人工心肺=37件―。
  • 中止や差し控えの理由は、以下の通り。▽「家族から本人の希望を伝えられた」=7割(この中には家族の忖度(そんたく)も含まれるとみられる)、▽「数日内に死亡が予測されると医学的に判断した」=5割、▽「苦痛を長引かせ、本人の益にならないとチームが判断した」=3割―。

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/


毎日新聞

【記事要約】 「ルネサス再建、機構案で」

  • 半導体大手のルネサスエレクトロニクスは、政府系ファンドである産業革新機構が主導する再建案を受け入れる方向で最終調整に入った。苦境に立つ国内半導体メーカーを「官民連合」で支える。
  • 産業革新機構による再建案(骨子)は、以下の通り。▽革新機構が1900億円、ルネサスの顧客企業が100億出資し、経営権を獲得、▽当初出資は1500億円とし、残り500億円は成長分野に段階的に投資、▽赤尾社長らは退任、▽数千人規模の追加リストラ実施(一部は主要株主が受け入れ)、▽システムLSI事業を富士通などと統合する交渉を継続―。
  • ルネサスに対して、米投資ファンドのKKRも1000億円を出資する再建案を提示している。しかしルネサスは、機構案の方が出資額が多く、経済産業省などの後押しもあるため、再建の可能性が高いと判断した模様だ。今回の再建案により、研究開発などの成長投資により先端技術を強化するとともに、海外への技術流出の防止を図る。

(毎日jp http://mainichi.jp/

日経新聞

【記事要約】 「スマホ素材、日本が攻勢」

  • 国内素材大手が、スマートフォン向け高機能材料を強化する。素材分野は、長年培った技術力を背景に高いシェアを誇っており、スマホやタブレットに広く採用されている。端末の高機能化や軽量化のため素材に求められる性能も高まっている。
  • 日本の素材大手のスマホやタブレット向け事業の主な取り組みは、以下の通り。▽クラレ=プリント基板用絶縁を量産、▽住友化学=高機能半導体材料の能力増強(累計投資50億円)、▽JX日鉱日石金属=プリント基板の回路材で世界最薄型製品を生産、▽セントラス硝子=タッチパネル用ガラスに参入、従来品のより重さ半減、▽日本合成化学工業=タッチパネル向け軽量樹脂シートの生産能力5倍に、▽昭和電工=リチウムイオン電池を保護する包材の生産能力を倍増―。
  • 素材分野は、装置産業で設備投資がかかる。その上、特殊な性能を出すには長年のノウハウの積み重ねが必要なため、中国、韓国も容易に追いつけない。特にスマホやタブレットなどの先端分野は、日本の独壇場となっている。先端素材輸出の拡大により、日本の貿易収支が改善される要因にもなりそうだ。

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/


東京新聞

【記事要約】 「いじめ、警察連携へ転換」

  • 多摩地区の国分寺市、武蔵野市、国立市は、これまで警察と学校との相互連絡の協定を結んでいなかったが、方針を転換し、協定を締結を検討していることがわかった。文部科学省がいじめ対策の一環として、学校と警察の連携強化を打ち出したことに合わせた動きだ。
  • 3市では議会などから「警察に提供された子供の個人情報が漏れたり、非防止以外の目的で使用される心配がある」などとして、「警察と学校の相互連絡制度」の締結を見送ってきた。しかし、ネットに悪口を書き込むいじめなどは、学校だけでは把握しにくい。また、協定なしでは、生徒の家庭環境など個人情報を警察に提供しにくい事情もある。
  • ただ、連携強化の結果、学校の警察依存が進み、いじめ対応力の低下につながる可能性もある。亀田徹・PHP総研教育マネジメント研究センター長は、「『やっかいな問題は警察に任せればいい』と考えるのは間違い。学校はいじめの事実解明や加害生徒の指導に真剣に取り組むべきだ」と語る。

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)



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