【リグミの解説】
分裂する米国
「二項対立」を解決する方法はあるのでしょうか。昨日、米国の大統領選で現職のオバマ氏が再選を果たしました。本日の読売、朝日、日経が1面トップでオバマ氏の勝利宣言演説の内容を伝えています。毎日と東京新聞も1面の2番記事の扱いです。
米国の国論を二分するテーマは、「自由」対「公平」です。アメリカ人に、「最も根本的な価値は何か」と尋ねたら、大多数の人が「自由」と答えるのではないでしょうか。それは、欧州から新天地の北米大陸に渡り、アメリカ合衆国の独立宣言をした「建国の父」たちの精神そのものだからです。その「自由」の在り方を保証する考え方が、「公平」です。
「自由」と「公平」
「自由」を享受する人々は、各々のやる気と創意工夫で人生の目的を達成していく。そうして手に入れた「アメリカンドリーム」は、周りから賞賛され、正当に評価される。成功者は、成功を独り占めせず、寄付や非営利の活動で社会に還元をはかり、次の人々が「自由」の果実を手に入れられるように支える。社会が成功者を肯定し、成功者は社会を支える。これが米国流の「公平」の姿だと思います。
「自由」を米国を米国たらしめる「必要条件」だとすると、「公平」は米国社会の下支えをする「十分条件」とみなすこともできます。「自由」と「公正」は本来、「二項対立」するテーマではなく、互いを支え合ういわば「二項同体」の価値です。ところが、オバマ大統領の第1期の4年間で、米国は「自由」=「減税、小さな政府、自由な経済活動、自己責任」を取るのか、「公正」=「増税、大きな政府、経済活動の規制、格差是正」に方向転換するのか、という二者択一で揺れることになりました。
「1%」対「99%」
元々、共和党は「自由」を重視し、民衆党は「公平」を大切にするという傾向があり、1期4年から3期12年程度の期間で政権交代が成され、国家としての調整を図ってきました。しかし、オバマ氏が大統領に就任したのは、今般の世界不況の引き金となったリーマン・ショックの直後。「ウォール街占拠運動」に象徴されるように、「自由」対「公平」は、「富の過半を手にする「1%の金持ち」と普通に生活する蓄えすら失っていく「99%のその他の人々」の対立という様相を見せるようになりました。
米大統領選の結果を解説する各紙の社説のタイトルです。
読売新聞: 「続投オバマ氏を待つ財政の崖」
朝日新聞: 「理念を開花させる4年に」
毎日新聞: 「チェンジの約束実現を」
日経新聞: 「日米が手を携え世界の安定支えよ」
東京新聞: 「融和を歴史に刻めるか」
財政問題という喫緊の課題を問題視する読売と、米国の外交イニシアティブに期待する日経以外の3紙は、オバマ氏が4年前の掲げた「チェンジ」が実現するのか注目しています。そもそも「チェンジ」とは、どのような理念の実現を目指したものだったのでしょうか。
1つのアメリカ
オバマ大統領は、上院が「民主党過半」、下院は逆に「共和党過半」という「ねじれ現象」に苦しめられてきました。今回の大統領選で同時に挙行された両院の改選でも、「ねじれ構造」が続くことが決定しました。財政再建に向けて、超党派で課題解決に向かっていけるか。大統領の指導力と、共和党の対応がカギを握ります。「一つのアメリカ」になれるのか。それとも「分断されたアメリカ」の溝が深まっていくのか。
オバマ氏が本当に目指す「一つのアメリカ」とは、リアリティーとしては、民主党と共和党の融和の実現を意味します。しかしオバマ大統領が4年前に掲げた「チェンジ」は、単に2大政党が妥協し、現実路線を取れる状態を作ることではないでしょう。その理念は、「自由」と「公平」がもう一度、手を携えて米国を希望の未来に導く社会を実現することだと思います。
「1%」を生み出す躍動力は、いつの時代にも米国の輝く魅力です。しかし「1%」を支える「99%」の底力こそが、本当の米国の姿なのかもしれません。「政治屋は次の選挙を、政治家は次の世代を考える」という格言があります(本日の毎日新聞1面「余禄」)。再選を果たしたオバマ大統領が、歴史に名を残す「政治家としての4年間」をスタートできるか。世界のリーダーとしての「フェアプレー」(公平の精神の発揮)を期待します。
(文責:梅本龍夫)
讀賣新聞
【記事要約】 「米財政再建、超党派で」
- 米大統領選で再選を決めたバラク・オバマ大統領は7日、地元シカゴで勝利演説を行った。オバマ氏は「政治の現状が示すほど、我々は分裂していない。我々はともに未来をつかむことができる」「財政や税制、移民の問題を解決するために、民主、共和両党の指導者と話し合うことが楽しみだ」と語り、超党派で議論し諸課題に取り組む姿勢を強調した。
- 米大統領選の開票状況は、選挙人の当選ライン270に対してオバマ氏303(26州)、ロムニー氏は206(24州)だった(未確定29)。オバマ氏は、激戦区のオハイオ州、バージニア州など7州のうち、投開票トラブルで未確定のフロリダを除き6州でロムニー氏に競り勝った。ただ得票率の差はわずか数ポイントだった。
- 大統領選と同時に行われた連邦議会選で、上院は民主党、下院は共和党が多数派を占めることが決まった。改選前と同じ「ねじれ状態」が続く。2010年の中間選挙で民主党が大敗して以来、オバマ氏が実現を目指した富裕層増税を柱とした財政再建策は、共和党主導の議会で実現を阻止されてきた。大統領も譲歩を嫌い、対話を拒んできた経緯もある。議会との関係修復は容易ではない。
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事要約】 「『対立超え経済再生』」
- 米大統領選で再選されたバラク・オバマ大統領は7日、地元シカゴで勝利演説を行った。オバマ氏は「我々は激しく戦ったが、それはひとえにこの国を愛し、その未来を気にかけているからだ」「個人の野心や政治的な主張の違いで分裂することなく、共に歩み続けよう」と述べ、共和党との党派対立を乗り越えて、経済再生に取り組む姿勢を強調した。
- 米大統領選の開票状況は、オバマ氏(民主党)が303の選挙人(25州+首都ワシントン)と過半数の270を大きく上回り、206(24州)のロムニー氏(共和党)に勝利した(未確定が29人)。ただ、得票率(得票数)では、オバマ氏50%(5981万3698票)、ロムニー氏48%(5761万5353票)と僅差であった。
- 同時に行われた上下両院議員選でも、上院(定数100のうち33が改選)は民主党、下院(定数435全改選)は共和党が多数派を占めることが決まり、「ねじれ状態」が続くことになった。オバマ大統領は、具体的な施策として、財政赤字の削減、税制改革、移民制度改革、エネルギー問題、雇用創出を挙げたが、減税や歳出削減を求める共和党との歩み寄りなしには、政権運営が立ち行かない。
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事要約】 「田中文科相、一転認可」
- 田中真紀子文部科学相は7日、不認可としていた2013年度新設予定の3大学を「認可する」と述べた。文科省は近く正式に通知する。審議会が新設を認めた答申を覆す異例の「不認可」からわずか5日で全面撤回し「認可」に戻した。3大学は、秋田公立美術大(秋田市)、札幌保健医療大(札幌市)、岡崎女子大(愛知県岡崎市)。
- 田中文科相は、「不認可」を一転させた理由について、「(大学の在り方に)一石を投じなきゃと思っていた」「(大学設置を検討する審議会の改革を)やってみたいと思ったら大臣に着任してすぐで、きつかった。個人攻撃されても結果オーライならいい。全党が『方向性はいい』と言ってくれた」と述べた。
- 今回の「3大学不認可」は、田中文科相が2日の記者会見で「大学の数が多すぎて教育の質が低下している。許可の在り方を見直したい」という発言に続く判断だった。文科省は田中氏の「問題提起」を受け、新設大学の認可基準や大学設置・学校法人審議会の在り方を見直す検討会を発足させる。2013年2月中に結論を出す方針。
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事要約】 「経済再生、超党派で」
- 米大統領選は、オバマ大統領(民主党)が激戦州の大半を獲得し、共和党のロムニー氏を破り、再選を果たした。シカゴ市での勝利宣言で「国民の融和に向けた営みは前進する。我々は一つの国家、一つの国民として運命を共にする」と強調し、国内の結束を訴えた。
- 1期目に金融危機後の景気回復になどに一定の成果を上げたという認識のもと、「債務削減、税制改革、移民改革、石油の海外依存脱却」などを2期目の課題に挙げた。ロムニー氏は、オバマ氏に電話し「我が国をうまく導いてくれることを祈っている」と語り、敗北を認めた。
- 大統領選と同時に投開票された上下両院議員選では、上院(定数100のうち33が改選)は民主党が多数を確保したが、下院(定数435全改選)は共和党が多数派を占めることが決まり、「ねじれ議会」が続くことになった。2期目のスタートを控え、直面するのが「財政の崖」への対処だ。オバマ氏は、党派対立を超えた対応を訴える。
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事要約】 「3大学、一転認可」
- 田中真紀子文部科学相は7日、2013年度新設予定の3大学について、これまで「不認可」として判断を覆して、「諸般の事情も鑑み、現行制度にのっとり適切に対処する」と述べ、大学設置・学校法人審議会の答申通りの判断に戻った。文科省は週内にも新設を認め、正式に大学側に通知する。
- 田中文科相は2日に、審議会の答申を覆したあと、6日には検討会議を設置して大学認可制度の在り方を協議し、新たな審査基準をつくる方針を示していた。しかし3大学側は「法的措置も辞さない」と猛反発する中、5日間の迷走の末、「認可する」の判断に立ち戻った。
- 田中文科相が2日に明らかにした大学設置認可制度の抜本的な見直しは、文科省として取組みを続ける。2013年2月までに新しい審査基準を策定し、同3月末が期限の新規申請に間に合わせる方針だ。
(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)
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