【リグミの解説】
「政権仮説」
マニフェストは「政権公約」と訳されますが、民主党のマニフェストは「政権仮説」とした方が実態に近いと思います。本日の読売新聞の1面トップ記事は、民主党が2009年の衆院選で掲げたマニフェストの内容を棚卸し、「全面謝罪」するというものです。
民主党政権の3年間について、」「マニフェスト違反」や「マニフェストに書いていないことをごり押しした」などの批判が渦巻いています。政権を取ってからの民主党は、一所懸命マニフェストを実現しようとしたように見えますが、そもそもの見立てや見通しが甘かったのではないかと思います。実態に基づかない空理空論の部分が少なくなかったのでしょう。
そうは言っても、野党時代が長かった民主党は、入手できる情報やデータも限定されていたため、財源などマニフェストの基軸となる部分を「想定」で埋め合わせたのではないでしょうか。それは致し方のないことと言えます。問題は、「想定」を「想定」にとどめ置いて、壮大な「公約」を掲げたことです。
「想定」とは、「こんな感じではないか」と仮定する状態です。「財源はあるはず」「事業仕訳をすれば埋蔵された無駄が浮上し、3兆円の経費削減が可能」といった「想定」にどれだけの裏付けがあったのでしょうか。
「謝罪」より「検証」を
細野政調会長らがまとめた「マニフェスト重要政策説明用資料」の全容は、まだわかりませんが、「謝罪」以上に大事なのは、「検証」です。当初の「想定」と何がどう違ってしまったのか。そこのところを徹底して洗い出し、次につなげなければ、同じ過ちを繰り返します。あるいは、「あつものに懲りて、なますを吹く」の諺のように、数値を掲げたマニフェストはもうこりごりとなってしまいます。
ビジネスでは、年度事業計画を立てます。それは通常は、中長期の計画の中の1年間の具体的な活動目標であり、数年かけて向かって行きたい方向への「着実な一歩」と位置付けられます。その基本にはかならず数値目標があります。売り上げや利益を明示しない計画は、計画の名に値しません。
ビジネスは、しかし「想定外」との戦いです。計画とずれたら、原因を調べ、対策を立てます。そして可能な限り修正をかけます。この一連のプロセスを「計画(P)⇒実行(D)⇒検証(C)⇒修正(A)」のマネジメント・サイクルと呼びます。「P⇒D⇒C⇒A」がしっかりできている会社は、計画が当初想定からはずれても、着実に修正をかけ、結果を残します。
「想定」から「仮説」へ
言葉を代えれば、事業計画とは、「想定」(こんな感じかなという漠然とした感覚)を「仮説」(裏付けをもったロジック)に組み立てたものです。民主党に欠けていたのは、まさに「仮説」をがっちり組み立てていく視点と取り組みだったのではないでしょうか。
「仮説」がしっかりしていれば、「P⇒D⇒C⇒A」のサイクルを回せます。そして仮説を修正してよりリアリティのある計画に高めていけます。しかし、「仮説」がなく、単なる「想定」で行動していては、「検証」もおぼつきません。「できませんでした」と「謝罪」して終わりです。これでは学びがありません。「謝罪」するときは「原因」を特定し、その「責任」を具体的に取った上でしなければ、うまくいかなかったという「結果に対する責任」しか残りません。
これからのマニフェストはどうあるべきなんでしょうか。ひとつの提案として、与党と野党のマニフェストの位置づけを変えるというのがあります。与党は、政権を取っており、現実がわかっており、情報源にもアクセス可能です。与党は、次期政権をめざし、文字通り「政権公約」を掲げるべきです。一方、野党は「政権仮説」と明言し、その「仮説」がどういう情報・数値データとロジックに基づいているか、詳細に明らかにします。そして、政権を取った暁には、どのように「P⇒D⇒C⇒A」のサイクルを実行するかを国民に約束をします。
「サードビュー」の確立
同時に、政権と国会から独立した「マニフェスト検証第3者員会」のようなものを設け、年単位で政権を取った政党のマニフェストの実施状態を検証していけると良いのではないでしょうか。福島原発事故の国会事故調のように、そのプロセスはできるだけ公開するのが望ましいです。こうした監査と提言のできる客観的な組織が、政権に対して「サードビュー」(客観的な視点)を提供できると、国民も選挙のときにだけ正党を選択して終わりにならず、継続して国政に関わり続けることができます。
あと、各政党はしっかりした政策シンクタンクを持つべきだとも思います。政権政党は、官僚機構の情報・データにアクセスできますが、「官」に依存しない独自の政策立案能力を保持することが大事です。医者の「セカンドオピニオン」を持つようなものです。野党であれば、シンクタンクの提言が「ファーストオピニオン」になります。日本の志ある有能な頭脳を官僚機構に独占させず、シンクタンクという独立した組織にも取り込み、日本の「国家百年の計」を立てていく。それは、日本の民主主義を大きく成長させていく取組みになるのではないでしょうか。
(文責:梅本龍夫)
讀賣新聞
【記事要約】 「マニフェスト全面謝罪」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事要約】 「不認可『未決に戻す』官僚が一計」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事要約】 「廃炉費、政府に支援要請」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事要約】 「新電力拡大策、前倒し」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事要約】 「80年変わらぬ規制 ~変えたい選挙制度(中)」