【リグミの解説】
人気のバロメーター
人気商売には、人気のバロメーターがあります。タレント、俳優、ミュージシャンにとってのバロメーターは、視聴率やチケットの売れ行き、ファンの数、そして雑誌やテレビでの露出度などがあります。政治家には、支持者の数、マスコミに取り上げられる話題性や論調、それに世論調査が加わり、最後は選挙で舞台立てるかどうかが決まります。
ミュージカル『コーラスライン』では、ミュージカルの舞台に上がりたい無名の若者たちが必死に踊り、自己アピールしますが、プロデューサーの冷厳な一言で、「アウト」と「イン」が決まるシーンが印象的でした。今日、政治家の「アウト・イン」を判じているのは、マスコミでしょうか。
世論調査というツール
今日の読売新聞の1面トップ記事は、毎月のように繰り返される世論調査です。野田政権の支持率が19%に急落し、政権末期になったと示唆しています。確かに不支持率が68%と合わせて考えると、調査の回答者の傾向性は明らかです。ただ、「今回の支持率急落は衆院解散・総選挙の時期など、今後の政局の影響を与えそうだ」とする読売の書き方は、ちょっと操作的な感じがします。
新聞が世論調査というツールを利用して、舞台から見えない場所で「神の声」を響かせる『コーラスライン』のプロデューサーのように、「アウト」を宣告したり、未来を予言するのは、基本的に間違っていると思います。調査はあくまでもひとつの「状況証拠」にすぎません。マーケティング調査で顧客に「何が欲しいか」聞いても、iPhoneのような革新的な製品は生まれないように、世論調査もまた、有権者が本当に求めているものを掘り起こすようにはできていません。
嗜好や気分でなく
人気商売は、「嗜好」(好き嫌い)を対象にしています。それは、大衆の「気分」を反映するものです。でも政治は本来、好き嫌いの対象ではないはず。いい気分にさせてくれる政治家が、良い政治をしてくれるわけでもありません。「嗜好」や「気分」によって絶えず姿形を変える「世論」を調査する新聞は、その結果で国民や政治家を「煽る」ことが目的なのではないか。そうすれば、新聞を読む人が増え、新聞の人気が高まる。なおかつ新聞の「意見」を頼りにする人たちが増える。こんな計算が働いているのかもしれません。
新聞をはじめとする今のマスコミに決定的な問題は、『コーラスライン』のプロデューサーの立場を手放そうとしないことです。大衆のために、権力をチェックすることがマスコミの役割のはずなのに、いつの間にか自分自身の権力と権威を維持することに汲々とするようになる。政局を煽る内容の世論調査を繰り返す新聞を見ていると、大衆は「嗜好」と「気分」しかない操作しやすい集団だ、という20世紀的なマスコミュニケーション論に、未だにとらわれているように思えてきます。
主義や議論を
「嗜好」(好き嫌い)でなく、「主義」(「すべき」と「すべきでない」)を追求する。「気分」(気持ちいい、気持ちわるい)に左右されるのでなく、「議論」を積み重ねること。それが今、新聞をはじめとするマスコミに求められていることだと思います。
人気のバロメーターをいくら駆使したところで、それは瞬間風速の姿にすぎません。国民は本当は何を求めているのか、どこに向かいたいと思っているのか。調査された有権者自身もわかっていないが、心の奥底にもやもやと持つ「思い」を引き出し、それを嗜好や気分の縛りから解放し、在るべき姿に具象化していく「熟議」が、今本当に必要になっています。
その第一歩は、国民を「調査対象」ではなく、「政治の当事者」として扱うことです。新聞が最も苦手とする「双方向のコミュニケーション」に取り組めば、今までの世論調査では不可能な議論の積み重ねを読者とすることになります。それは大変なことですが、この協働作業によって得られる果実はとても大きいものがあります。なぜなら、「熟議」ができる国は、民主主義を成熟させ、国民一人ひとりが「当事者」として国のあり方にコミットしていくからです。
(文責:梅本龍夫)
讀賣新聞
【記事要約】 「内閣支持、最低19%」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事要約】 「除染手当、作業員に渡らず」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事要約】 「大飯地層、判断割れ」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事要約】 「『宅急便』当日配送に」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事要約】 「万里の長城、2邦人死亡」