【リグミの解説】
トップダウン型のリーダーシップ
リーダーシップのスタイルは、「トップダウン型」と「ボトムアップ型」の2種類があります。一方、リーダーには、「新世界を創造する」「現状を維持する」「旧弊を破壊する」の3つの役割が求められます。
本日の朝日新聞の1面トップは、田中真紀子・文科相のリーダーシップ・スタイルを象徴する記事です。田中氏は、文科省の大学設置・学校法人審議会が認可した3件の大学新設申請を不認可としました。朝日は、30年間1度もなかった前代未聞のこととして、驚きと戸惑いと批判の目線で報じています。田中文科相は、兼ねてから「大学が多すぎ質が低下している」という考えを持っていたようで、この機に「旧弊を破壊する」「トップダウン型」のリーダーシップを発揮しました。
日本では、少なくともこの10年ぐらいずっと、閉塞感や将来に対する不安が語られてきました。こういう状況が長く続くのは、リーダーシップが不在だからではないかという不満が強まり、現状を打開してくれる強いリーダーを求める気持ちが強くなります。尖閣諸島問題や竹島問題でも、「毅然とした姿勢」を示し、「勇ましい発言」をし、「果敢に行動」する政治家が頼もしく見えたりします。
リーダーシップとフォロワーシップ
しかし、かくも長く変化を拒む政治・経済・社会の状況があるのは、リーダー不在だからではないと思います。むしろ、「現状を維持する」リーダーシップが粛々と機能しているからです。リーダーシップはそもそも、一方的に発揮されるものではありません。この人についていこうといフォロワーが現れて、はじめてリーダーが生まれます。リーダーシップとフォロワーシップは、不即不離の関係にあります。
これが、日本では特に顕著で、あまりに見事にフォロワーが「フォローアップ」するために、あたかもリーダー不在のように見えてしまいます。事務局が事前に根回しをして、会議が予定調和で進むように準備するなどは、日本の組織のお家芸ともいいべき「チームプレイ」です。つまり、日本では「現状を維持する」「ボトムアップ型」のリーダーシップ・スタイルが、一番機能しやすいといえます。
問題はここからです。現状維持を志向する「チーム・ジャパン」は、一体全体どこに向かいたいのでしょうか。日本を覆う閉塞感や不安感は、「現状維持は良い将来をもたらさない」ことを人々が見抜いているからです。現状は維持したい。でもその結果訪れる未来の姿は受け入れたくない。それがフォロワーの中にある漠とした「思い」だと思います。この「集合的な気分」を察するリーダーは、巧妙に現状維持の網の目を張り巡らせ、「変化」や「改革」を阻止します。
フォロワーはリーダーの意を汲み、リーダーはフォロワーの思いに寄り添う。この関係の一番の問題は、「共依存」の関係になってしまい、結果として誰も望まないネガティブな未来を作り出してしまうことです。
「Win-Win」を実現するには
昨日の「リグミの解説」で、戦後の日本の「平和主義」は米国への「依存」することで成立した、と述べました。「依存」の反対は「自立」。今、「毅然とした姿勢」を示し、「勇ましい発言」をし、「果敢に行動」しようとする政治家は、日本の「自立」を志向しています。しかし、あらゆる事象が複雑に絡み合い、瞬時に世界中を駆け巡るグローバル・マーケットの時代には、「自立」は部分最適にしかなりません。それは「Win-Lose」志向であり、互いに自分だが「Win」しようとせめぎ合えば、未来に待っているのは、「Lose-Lose」です。
今日の世界では、「Win-Win」という全体最適を目指すしか道はありません。その前提は、「相互依存」を積極的に進めることです。「相互依存」は「共依存」とは似て非なるものです。「相互依存」は、当事者として自立した者同士が、両者のメリットを最大化する関係です。真のリーダーシップの発揮のしどころが、ここにあります。「現状維持」すべきものはしっかり守り、旧弊は思い切って「破壊」し、希望の持てる新世界を「創造」する。この一連の流れを、ひとつの大きな「物語」のように実行していくのが、優れたリーダーシップのあり方です。
全員参加の「物語」
この「物語」には、全員が参加しています。「トップダウン」ばかりでなく、もっぱら「ボトムアップ」ということもない。リーダーとフォロワーが、問題解決の不可欠の当事者として、相互に深く関係し合い、ひとつの「物語」を紡ぎ出していく。これが新しい時代のリーダーシップ&フォロワーシップのあり方です。
次期衆院選で大勝したい日本維新の会の橋本徹さん、東京都を飛び出して国政選挙の第3極の軸になりたい石原慎太郎さん、そして念願の大臣に返り咲いて持説を実現したい田中真紀子さん。「旧弊を破壊する」「トップダウン型」で非ニッポン的なリーダーシップを発揮する3人の政治家の中で、新しい時代の「フォロワーシップの創造」まで視野に入れたリーダーは、果たしているのでしょうか。
(文責:梅本龍夫)
讀賣新聞
【記事要約】 「厚年基金『5年で解散』」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事要約】 「不認可、大学や学生困惑」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事要約】 「オスプレイ、月内に本土で低空訓練」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事要約】 「東電、福島に『復興本社』」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事要約】 「一目ぼれして38年同じ部屋 ~ドナルド・キーンの東京下町日記」