【リグミの解説】
「依存」の67年
日本は戦後67年、「平和主義」を貫いてきました。それは、「依存」のテーマを抱えこんだものでした。
本日の読売新聞の1面トップ記事は、「レアアース問題」です。重要な資源、仕入れ先、販売先などを一ヵ所に集中させれば、効率が良く、安定した事業基盤を築けます。この大きなメリットの裏側に、危険が潜んでいます。それが、「依存」の問題です。日本は、レアアースの殆どを中国からの輸入に頼ってきたため、2010年の尖閣諸島での中国漁船衝突事件で、中国が資源カードを切ったときに大慌てしました。
「依存」の反対語は「自立」。日本が、取れる道は2つあります。レアアースの調達先を分散すること、そして、技術革新を進め、レアアースに代わる素材開発をすることです。日本は、この路線を今進んでいます。
追い詰められた時
日本は、大きな戦略を立て、先験的なことを世界に先駆けて行うことが決して苦手な国ではないと思います。しかし、米国などと比べて、イノベーションの文化に欠ける印象があるのも事実です。背景にはいろいろな理由がありますが、「依存」のメンタリティーが強いことが一因としてあります。
大きな存在に頼り、安定した基盤を確保し、安心したい。日本人に共通する安定志向は、停滞とはちょっと違います。安定基盤を持つことで、こつこつと現場から改良改善を行い、チームプレイでいつの間にか進化した状況を創造している。これが日本のいわばお家芸です。このやり方が、ぴたっと型としてはまるとき、日本は成長しますが、世界が不確定で変化し続ける不安定さに満ちていると、行先を見失い、停滞感に包まれます。
「依存」していた環境が大きく変化するとき、他国であれば、そうそうに見切りをつけて方向転換します。しかし、日本人はなかなか「自立」の選択肢を取りたがりません。今まで築き上げてきた均衡状態、一種の調和ともいうべき社会的環境を壊したくないからです。「空気」を読み合うという現象も、こうしたメンタリティーの反映と言えます。ではどうするか。日本が大きく変化するのは、追いつめられた時です。いよいよダメだとなったとき、日本人は突然大きく動き出します。
「自立」の歴史
レアアースは希少資源であり、これがないとハイブリッド車や、ハイテク家電などのお家芸製品が作れなくなります。そこで政府も企業も、遅まきながら事態の深刻さに気付き、「中国リスク」の回避に走りました。今回のカザフスタンからのレアアース輸入は、その成果のひとつのようです。しかし、中国漁船衝突事件から2年経った今年、再び尖閣諸島問題を契機に勃発した「中国リスク」は、前回をはるかに上回るものとなっています。
ぎりぎりまで「依存」し、いよいよ追いつめられると一気に「自立」に反転する。それが良い方向の選択となった場合、日本は旧弊を脱皮し、気付くと大きく進化しています。幕末から明治維新への変革は、ひとつの好例と言えます。一方で、追いつめられて悪い方向の選択をした歴史もあります。石油の輸出を止められて、対米開戦に暴走し、わずか4年で国土を焦土にしてしまった太平洋戦争の悪夢です。
「相互依存」の時代
日本は戦後70年近く、「平和主義」の国家を築いてきました。それは、米国という軍事力と経済力の両面で文字通り世界一の大国である米国に「依存」することで成立するものでした。そこに、経済を急成長させた中国が台頭し、日本は経済においては、米国以上に中国に「依存」する状況になってきました。その中国は、米国と違う体制や価値観の国です。日本の「平和主義」が今までと同じように続けられる保障は、ありません。
しかし、今日のグローバル・マーケットの本質は、「相互依存」です。相対的に「依存」が強い、あるいは「自立」している、ということはありますが、互いに連結し合い、ひとつの大きなシステムを形成しており、このシステムはますます複雑に絡み合うようになっています。過度な「依存」を回避し、「自立」の基盤を前広に確保することは、国家も企業も成していくべきことです。
同時に、「相互依存」の意味を洞察し、グローバル・マーケットがシステムとして有効に機能する基盤を創造する責任と義務が、日本にはあります。「相互依存」の本質は、「Win-Win」か「Lose-Lose」しかない、ということです。とすれば、相互繁栄を築く試みを、あらゆるレベルで重層的に取り組むしか道はありません。追いつめられる前に、未来のあるべき姿を構想すること。今こそ、日本の「平和主義」の在り方を進化させ、その大きな価値を東アジア、そして世界に広めるべき時です。
(文責:梅本龍夫)
讀賣新聞
【記事要約】 「カザフから重レアアース」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事要約】 「3月業績下方修正」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事要約】 「電波障害対策100億円」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事要約】 「アジア決済、収益源に」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事要約】 「税金に殺されてたまるか ~名もなきケイザイの唄」