【リグミの解説】
クルマの自動運転
「運転がすべて自動化されたバスに乗りたいと思いますか?」
この質問は、「人間を信頼するか、機械を信頼するか」の二項対立の質問で、ちょっと適切ではないかもしれません。完全自動化の手前で進んでいること。それは、ドライバーが運転ミスを犯しにくいクルマを設計し、万一ミスを犯したときは機械が人間のミスをフォローアップしていく。それが今、進んでいる技術革新の方向です。
本日の読売新聞の1面トップは、「バス自動ブレーキ義務化」の記事です。
事故原因と対策
最近のクルマの安全技術は、長足の進歩を遂げています。クルマの事故が起きると、日本ではほとんどのケースでドライバーの過失に焦点が当てられます。しかし、自動車という複雑な構造をもった機械を操作した結果起きた事故で、運転者の責任だけ見ていては、絶対にわからないことがあります。
自動車ジャーナリストの清水和夫さんが、自動車月刊誌『カーグラフィック』に連載している「WARNING LAMP」で、関越道バス事故を取り上げました(2012年7月号)。居眠りをした運転手の問題以外に、「道路構造の欠陥」、「シートベルト装着率の低さ」を指摘。今後の対策として、「居眠り防止ステム」や「ドライブレコーダーの装着」を提案しています(参考:「『バス事故』『原発事故』『ダルビッシュ敗戦』にみる責任の取り方」)。
清水さんは、同じ連載の11月号では、自家用車のペダル配置の問題を指摘しています。FF(前輪駆動)の右ハンドル車では、右前輪のホイールハウスが運転席にせり出し、結果としてアクセルもブレーキも「左寄り」に設置されるケースが多くなります。これが、パニックブレーキの時に踏み間違いの原因にもなり得ます。
クルマの設計段階から、ドライバーにとって自然なペダル配置を目指すのが本来のあるべき姿です。清水さんは、「人が運転を間違えるなら、クルマ側も問題があるのではないだろうか。人が間違えやすいなら、間違えにくいクルマを開発する努力を怠ってはいけない」と言います(『カーグラフィック』2012年2月号P196)。
自動車メーカーの対応
自動車が今日のレベルまで安全性を向上させてきた大きな要因のひとつに、ドイツのメーカーの取り組みがあります。速度無制限のアウトバーンでは、事故が起きれば大変なことになります。速度を制限すれば、重大事故は減らせますが、ドイツは全面的な制限はしないで来ています。自動車メーカーも競って高速走行に優れたクルマを開発してきました。
同時に重大事故が発生すると、メーカーは事故現場に行って事故原因とクルマの構造上の問題を自ら確認し、対策を講じてきました。事故の原因は、ドライバーにあったとしても、その事故の被害を小さくすることは可能です。さらに、事故そのものを減らしていく取り組みは、交通システム全体を統合的に捉えることで、より促進していけます。
大手自動車メーカは、クルマ社会の遠い将来の姿として「運転の自動化」を目指しています。各社が開発を進めている自動ブレーキも、その流れの中の技術革新のひとつです。
原因責任と結果責任
ドライバーの過失や、バス運行会社の運営体制を責めるのは、一見、事故の「原因責任」を追及しているように見えます。しかし事故の全体を見ていない一点絞りの原因追求は、事故を起こした当事者(関係者)を処罰して終わりとする「結果責任」型になる危険性を秘めています。
原発事故の原因追求も同じ構造的問題を秘めています。国会の事故調査委員会は、大津波の可能性が指摘されながら、福島第1原発の津波対策を怠った東京電力と当時の原子力保安院の怠慢を指摘し、福島第1原発事故は「人災」であったと断定しました。その指摘は重く受け止めなければなりません。同時に、「人災」という言葉が、一人歩きする危険もあります。
新しく設置された原子力規制委員会は、原発の安全性の新基準づくりを進めています。それに対して、新潟県の泉田知事は、安全委を訪問し、安全基準の策定より東京電力福島第1原発事故の原因究明を急ぐべきだ、という考えを表明しました。「福島事故の原因が明らかになっていないのに、安全基準作りが進んでいる。不信感がある」と泉田知事は語りました(東京新聞2面)。
福島と同程度の事故想定で安全基準を作って良いのか。もっと甚大な被害になる可能性を想定すべきではないのか。「最悪」を想定したくないというメンタリティーも、「結果責任」で済まそうとする背景にあると思います。脱原発を決意したドイツのシュレーダー前首相は、「原発はミスに寛容でない」と語っています。確率が低くても、一旦事故が発生すれば、被害の大きさは目を覆うものがあります。そして人間は、ミスを犯すものです(参照「リグミの解説」2012年10月23日)。
英知を結集する
今日の新聞1面は、東京新聞のトップ記事をはじめ、新しい安全委が出した「放射線量予測マップ」に間違いがあったことを各紙が報道しています。方位の情報を正しくシミュレーションソフトに入力していなかったのが原因のようです。安全委が、安全の前提となる「ミス対応」に甘い姿勢であったことを露呈してしまったのは、大変残念なことです。
高速運行をする大型バスに「自動ブレーキ」を義務化するという国土交通省の対応は、「人間はミスを犯す」という前提で、甚大な事故を軽減しようとする動きとして、評価できます。原発の安全基準については、何をどう組み立てていけばいいのでしょうか。はるかに複雑なシステムであり、事故の影響も比較にならない原発では、文字通り「人類の英知を結集した対策」が求められています。
(文責:梅本龍夫)
讀賣新聞
【記事要約】 「バス自動ブレーキ義務化」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事要約】 「激突国会、異例の幕開け」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事要約】 「電力値上げ全国拡大」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事要約】 「中国リスク収益圧迫」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事要約】 「拡散予測、6原発で誤り」