【リグミの解説】
あいまいの効用
読売新聞の1面トップは、政府の「エネルギー基本計画」が定まらないことを伝える記事です。
東日本大震災直前の2010年に定められた現行計画では、原発比率を50%以上に高める目標となっています。2010年の原発比率は20%でした。現在稼働しているのは、関西電力大飯原発3、4号基だけです。冬を前に、北海道電力の泊原発1~3号基の再稼働の是非が議論されています。それが仮に実施されたとしても、全国の稼働可能原発50基の1割程度です。
一体全体、今の日本の実際の電力需要に対する原発の依存度は何%なのでしょうか。政府や電力会社から、「現実」(ファクト)を正確に理解共有するデータや情報が開示されないため、あいまいな議論が続いています。関電の今夏の実質ピーク需要は、どうだったのか。検証情報も出てきません。
政府は、原発推進派と脱原発派の対立が再燃するのを避けたい、と読売新聞は示唆しています。原発比率の目標だけが先行することを批判する声もあります。確かに、具体的な戦略と行程表がなければ、目標数値は絵に描いた餅でしかありません。しかし、目標もなければ、すべての動きは停滞するか、迷走するかのいずれかです。
対立を回避する「あいまいの効用」は、麻薬のようなものです。短期的な効用はありますが、長期には、着実に気力、体力、知力を奪っていきます。
経済の体力
朝日新聞の1面トップは、電力会社の給与水準についての記事。経産省は、家庭向け電気料金の値上げの条件として、給与水準を大手企業平均並みに下げることを打ち出しました。その数値は、約600万円というもの。地域独占で、他に実質的な選択肢がない一般家庭からすれば、高い給料を払い続けるために電気代の負担が上がるのは納得ができない、という面は確かにあります。
しかし、これを言い出すと、公務員の給与はどうか、という話にもつながります。あるデータでは、国家公務員の平均給与は662万円、地方公務員では728万円です(参照「年収ラボ」)。他に代替手段のない公益サービスを受けるために税金を払っている。そういう理屈からすれば、公僕(パブリック・サーバント=公衆のしもべ)と呼ばれる役人の給与は、再考の余地ありです。
とはいえ、日本は今デフレ脱却を必死に模索しているところです。公平と平等のために給与を下げれば、消費など経済活動は低迷し、ディスカウント競争でモノの価格は下落し、デフレが加速する可能性もあります。国全体としては、下がり続けるサラリーマンの平均給与(2011年で409万円)を上げていく施策が必要ではないかと思います。
公正さや平等は、理念としては正しいと思いますが、経済の体力を奪う方向に舵を切る結果になるとしたら、問題です。
数値目標の効用
毎日新聞の1面トップは、次期衆院選に向けたマニフェストづくりの動きに関する調査報道です。民主党は、「理念・哲学型」のマニフェストに後退させ、数値の実現性を問われないようにしたい。そんな思惑が記事から見えてきます。
数値目標の効用は、何でしょうか。それは「あいまい」を許さないということです。理念や哲学は大事です。それがすべての出発点であり、軸そのものです。しかし、そこの留まっている限り、何も現実化しません。理念は、行動を通して実現していくもの。その行動のあり方を定めたのが戦略です。しかし、戦略は方法論(How)であり、実現したい目的や目標(What)は示しません。
ここで数値が登場します。数値目標は、目指す世界の具体像を一番端的に表現します。そこには、言葉で書き連ねたものがもつ「あいまいさ」はありません。逆に言えば、数値目標を明示しないで選挙に臨もうとする政党は、「あいまいの効用」を利用しようとしている、ということです。そのような政党が主張することは、どんなに耳に心地よくても、賞味期限は短いと知るべきです。
民主党は、3年間の政権時代を徹底検証して、より骨太で実現性の高い数値目標を率先して掲げるべきです。このことで、自民党をはじめとする対抗勢力に対する「違い」を鮮明にすることにもなります。この困難で人気のない道を本気で進めば、日本の政治と社会は、成熟し、進化していけます。
(文責:梅本龍夫)
讀賣新聞
【記事要約】 「エネルギー計画、越年へ」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事要約】 「電力値上げ、年収減条件」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事要約】 「数字書けばうそつきに ~政党を問う(上)」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事要約】 「日本車、中国で年2割減」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事要約】 「尖閣購入、理由作れず ~石原の選択(中)」