2012.10.27 sat

新聞1面トップ 2012年10月27日【解説】数値目標の効用

新聞1面トップ 2012年10月27日【解説】数値目標の効用


【リグミの解説】

あいまいの効用
読売新聞の1面トップは、政府の「エネルギー基本計画」が定まらないことを伝える記事です。

東日本大震災直前の2010年に定め
られた現行計画では、原発比率を50%以上に高める目標となっています。2010年の原発比率は20%でした。現在稼働しているのは、関西電力大飯原発3、4号基だけです。冬を前に、北海道電力の泊原発1~3号基の再稼働の是非が議論されています。それが仮に実施されたとしても、全国の稼働可能原発50基の1割程度です。

一体全体、今の日本の実際の電力需要に対する原発の依存度
は何%なのでしょうか。政府や電力会社から、「現実」(ファクト)を正確に理解共有するデータや情報が開示されないため、あいまいな議論が続いています。関電の今夏の実質ピーク需要は、どうだったのか。検証情報も出てきません。

政府は、原発推進派と脱原発派の対立が再燃するのを避けたい、と読売新聞は示唆しています。原発比率の目標だけが先
行することを批判する声もあります。確かに、具体的な戦略と行程表がなければ、目標数値は絵に描いた餅でしかありません。しかし、目標もなければ、すべての動きは停滞するか、迷走するかのいずれかです。

対立を回避する「あいまいの効用」は、麻
薬のようなものです。短期的な効用はありますが、長期には、着実に気力、体力、知力を奪っていきます。

経済の体力
朝日新聞の1面トップは、電力会社の給与水準についての記事。経産省は、家庭向け電気料金の値上げの条件として、給与水準を
大手企業平均並みに下げることを打ち出しました。その数値は、約600万円というもの。地域独占で、他に実質的な選択肢がない一般家庭からすれば、高い給料を払い続けるために電気代の負担が上がるのは納得ができない、という面は確かにあります。

かし、これを言い出すと、公務員の給与はどうか、という話にもつながります。あるデータでは、国家公務員の平均給与は662万円、地方公務員では728万円です(参照「年収ラボ」)。他に代替手段のない公益サービスを受けるために税金を払っている。そういう理屈からすれば、公僕(パブリック・サーバント=公衆のしもべ)と呼ばれる役人の給与は、再考の余地ありです。

とはいえ、日本は今デフレ脱却を必死に模索しているところです。公平と平等のために給与を下げれば、消費など経済活動は低
迷し、ディスカウント競争でモノの価格は下落し、デフレが加速する可能性もあります。国全体としては、下がり続けるサラリーマンの平均給与(2011年で409万円)を上げていく施策が必要ではないかと思います。

公正さや平等は、理念としては正しいと思いますが、経済の体力を奪う方向に舵を切る結果になるとしたら、問題です。


数値目標の効用
毎日新聞の1面トップは、次期衆院選に向けたマニフェストづくりの動きに関する調査報道です。民主党は、「理念・哲学型」のマニフェストに後退させ、数値の実現性を問われないようにしたい。そんな思惑が記事から見えてきます。

数値目標の効用は、何でしょうか。それは「あいまい」を許さないということです。理念や哲学は大事です。それがすべての出発点であり、軸そのものです。しかし、そこの留まっている限り、何も現実化しません。理念は、行動を通して実現していくもの。その行動のあり方を定めたのが戦略です。しかし、戦略は方法論(How)であり、実現したい目的や目標(What)は示しません。

ここで数値が登場します。数値目標は、目指す世界の具体像を一番端的に表現します。そこには、言葉で書き連ねたものがもつ「あいまいさ」はありません。逆に言えば、数値目標を明示しないで選挙に臨もうとする政党は、「あいまいの効用」を利用しようとしている、ということです。そのような政党が主張することは、どんなに耳に心地よくても、賞味期限は短いと知るべきです。

民主党は、3年間の政権時代を徹底検証して、より骨太で実現性の高い数値目標を率先して掲げるべきです。このことで、自民党をはじめとする対抗勢力に対する「違い」を鮮明にすることにもなります。この困難で人気のない道を本気で進めば、日本の政治と社会は、成熟し、進化していけます。


(文責:梅本龍夫)



讀賣新聞

【記事要約】 「エネルギー計画、越年へ」

  • 経済産業省の総合エネルギー調査会基本問題委員会は、エネルギー基本計画の検討を先延ばしする方針を固めた。「2030年代に原発稼働をゼロにする」目標に対する政府の姿勢が定まらないため。関係者の間では、次期衆院選後の新政権の誕生を見据えたいとの声も出始めている。
  • エネルギー基本計画は、エネルギー政策基本法に基づいて政府が策定し、閣議決定する。2010年に定めた現行計画は、総発電量に占める原発比率を過半数に引き上げることを目指していた。福島第1原発事故を受けて、全面的に見直すことになった。政府は、基本計画の前提となる議論を同委員会に委ねている。
  • 委員会関係者は、「基本計画は年内には決まらない」と明言した。政府内にも、取りまとめを急げば、原発推進派とゼロ派の対立が再燃し、収拾がつかなくなることへの懸念が広がっている。原発、火力、水力、風力などの発電方法の比率が固まらないと、電力会社は設備投資計画を立てられず、電気料金水準も決めにくい。

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/


朝日新聞

【記事要約】 「電力値上げ、年収減条件」

  • 経済産業省は、電力会社が家庭向け電気料金の値上げを申請した場合、社員の平均年収を600万円程度に引き下げることを条件にする方針を固めた。社員1千人以上の大企業の平均(596万円)が基準となる。
  • 電力会社の平均年収は、以下の通り。▽北海道電力=797万円、▽東北電力=820万円、▽東京電力=590万円(値上げ申請前653万円)、▽中部電力=836万円、▽北陸電力=769万円、▽関西電力=805万円、▽中国電力=796万円、▽四国電力=792万円、▽九州電力=833万円、▽沖縄電力=750万円―。
  • 経産省は、福島第1原発事故を受け、実質国営化が決まった東電に対しては、平均年収を公的資金を受けた企業並みに削るよう求め、2007年より23.8%減った。他の電力会社は、公的資金や原発事故の当事者でないため、大企業並みの平均年収としたが、それでも関電で26%、九電は28%の削減となる。

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/


毎日新聞

【記事要約】 「数字書けばうそつきに ~政党を問う(上)」

  • マニフェスト選挙が風前の灯だ。次期衆院選をにらんで、各党はマニフェスト(政権公約)づくりを本格化させているが、民主党内では、若手議員から重鎮まで、マニフェストは「守らない約束の代名詞」と自嘲気味だ。
  • 民主党の細野豪志政調会長のもと、当選1回の衆院議員を集めた懇談会では「次の政権公約は、財源をあまり必要としない項目に絞るべき」「理念・哲学型のマニフェストを」との意見が大勢を占めた。「うそつきと呼ばれることを恐れて日本維新の会の『維新八策』みたいなぼやっとした内容にしないでほしい」という声への反応は、冷たかった。
  • 政策の数値目標や財源、達成期限を衆院選で約束し、政権獲得後に国民の支持のもとで政策を進め、実現度を検証していくのがマニフェスト選挙の原則だ。マニフェストで有権者に何をどこまで訴えるのか。民主党の立ち位置が定まらない。政務三役の1人は、「自分が何者かわからなくなる危機、アイデンティティー・クライシスに陥っている」と語る。

(毎日jp http://mainichi.jp/

日経新聞

【記事要約】 「日本車、中国で年2割減」

  • 日中関係が悪化した影響で、中国での自動車販売の低迷が続いている。2012年のトヨタ自動車、日産自動車、ホンダの3社の中国での乗用車販売が、当初計画を2割程度下回る見通しだ。
  • 3社の2012年の当初計画と見通しは、以下の通り。◇トヨタ=100万台⇒80万台(▲20%)、◇日産=100万台⇒80万台(▲20%)、◇ホンダ=75万台⇒「10万台強の減少」―。
  • 3社は当面、3~5割の減産を続ける見通しだ。中国への依存度が大きい日産は、2013年3月期の連結予想の見直しを検討している。現在の生産水準が続けば、部品メーカーも投資計画の見直しや人員削減の検討に入ると見られる。

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/


東京新聞

【記事要約】 「尖閣購入、理由作れず ~石原の選択(中)」

  • 石原慎太郎・東京都知事が尖閣諸島の購入構想を打ち上げた直後、3人の副知事と関係局長が顔をそろえ、東京都と無縁の尖閣諸島を都が購入する理由づけを検討した。漁業振興案やレジャー案が出たが、いずれも実現性が低く、会議は低調なまま結論を出せずに終わった。
  • 5月中旬に、都は海洋政策を専門とする山田吉彦・東海大教授に助けを求めた。「都は漁船避難所に固執していた。知事の発想を活かそうと必死だった」と山田教授は語る。トップダウンで示された難しい政策を事務方が形にする。尖閣購入は、4期13年半の任期中の宿題の中でも、最大の難問だった。
  • 与那国島では、尖閣諸島をめぐるクルーズ船の建造計画が進んでいる。建造準備委員会代表世話人の新嵩喜八郎氏は、尖閣諸島への灯台建設に関与した石原氏と、数十年来のつきあいがある。石原氏は、「早く船を造ってくれ」と好意的だったという。日中衝突の最前線でレジャーは可能なのか。「そうなるために、石原さんが国政に出るんじゃないか」と新嵩さんは語る。

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)



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