【リグミの解説】
3種類のリーダー
リーダーには、3つのタイプがあります。「現在の世界を維持するリーダー」「現状を破壊するリーダー」「新しい世界を創造するリーダー」です。石原慎太郎・東京都知事が突然、都知事の辞任を表明。保守勢力を結集する新党を立ち上げ、民主、自民に対抗する第3極の要を目指します。本日の新聞1面トップは、読売、朝日、毎日、東京の4紙が、この話題を大きく取り上げています。マスコミは、都民は、そして国民は、石原さんをどのタイプのリーダーとみなしているのでしょうか。
石原都知事も、日本維新の会代表の橋下・大阪市長も、国政レベルの発言が多く、そこに期待と懸念の両方が渦巻いています。政治家は、言葉の人です。何を発言し、どんな演説をし、論敵とどう討論してきたか。その内容と、語り口、雰囲気に人々は注目します。しかし、政権政党の執行部・閣僚や自治体の首長であれば、言葉と共に、政策の実行内容を棚卸し、客観的に評価する必要があります。何を言ったか以上に、何をしたかを問われるのがリーダーです。
石原都知事の実績
石原さんの都知事として取り組んできた主要な政策は、以下のものがあります。
「新銀行東京」 「認証保育所制度の創設」 「福祉改革」 「米軍基地返還」 「外形標準課税」 「カジノ構想」 「後楽園競輪復活構想」 「首都大学東京」 「ディーゼル車排ガス規制」 「羽田空港再拡張事業」 「臨海副都心開発」 「首都機能移転に反対」 「東京オリンピック構想」 「東京マラソン」 「三宅島オートバイレース大会」 「築地市場移転計画」 「参議院議員宿舎建て替えに反対表明」 「都立霊園再開発」 「都営住宅・特別養護老人ホームの増設拒否」 「都立児童養護施設の廃止」 「非実在青少年規制」 「東京都による尖閣諸島購入計画」 (引用:Wikipedia)。
このリストの個々の施策の評価はともかく、内容は多岐に渡っており、都政にインパクトを与えてきたことがわかります。
1995年に「世界都市博覧会中止」を公約に掲げ、圧倒的な支持を得て都知事当選した青島幸雄氏は、公約の都市博中止以外は官僚・役人任せの行政に終始したと言われます。結果として「現在の世界を維持するリーダー」だったということになるでしょうか。青島さんと比較すると、都民の持続的な支持を受けて、3期目を務める石原さんは、「現状を破壊するリーダー」と、「新しい世界を創造するリーダー」の両面を併せ持っているように見えます。
石原氏の人物像
「破壊と創造を繰り返すリーダー」石原氏は、どんな人物なのでしょうか。1968年に参院選(全国区)に自民党から出馬しトップ当選を果たした当時から、石原氏のことを良く知る人物のお話を聞いたことがあります。日本の国会では、演説や質疑応答をするとき、野次がつきものです。石原さんは、自分に向けられた野次が我慢なりません。演説しているときに野次が飛んでくると、その人物の方を向き「うるさい、黙れ!」と一喝。こんな政治家はいなかったので、拍手喝采となります。ところが、「1、2回でやめておけばいいものを、石原さんは野次が来るたびに『うるさい!』とやりかえす。それを見ていて、最初は賞賛していた議員たちも、次第に嫌気がさしてきた」といいます。
これは、石原さんの性格的な特徴をよく象徴するエピソードだと思います。攻撃されれば、かならずその場でやり返す。常に局地戦で勝利しようとする。そんな無意識的ともいえる行動特性がうかがえます。これは、前線で戦う小隊長としては評価できるかもしれませんが、大部隊を束ねる大将にはふさわしくありません。石原さんは、自民党の国会議員時代に、総理大臣になると公言してきましたが、一匹狼的な言動を繰り返し、人望がなかったと言われます。1995年に任期途中で突然衆議院議員を辞めたときは、政治の世界から足を洗う気持ちだったとも聞きます。
都知事となって何が変わったのか。首長となり、責任の範囲と権限がはっきりしたことで、石原さんの良い面が浮上したのかもしれません。ブレーンに恵まれ、人を使って政策を実行していくアプローチを身につけたことも、大きいのではないかと想像します。「破壊」するだけでなく、「創造」をする。その道程の中間には、たくさんの「現状維持」のこともある。そのバランスの取り方を知ったことで、3期目まで継続する長期政権となったのではないでしょうか。
国政に求められる大局観
問題は、国政ではこのアプローチが通用しそうにないことです。自治体の首長と違い、責任の範囲と権限が分散する国政レベルは、政策の大局観を持ち、政局運営能力に長ける必要がありますが、これは石原さんが一番苦手とするところではないでしょうか。何よりも、日本国への「思い」の強さが情念のレベルに偏り、理念や戦略に高められていないことが心配です。
中国の「南方人物週刊」というメディアは、石原慎太郎氏のインタビュー記事を2年前に掲載しています。その日本語訳が、東京都のホームページに転載されています。同誌が石原氏を取材したのは、「〝嫌中人物〟を取材し、報道する理由は、相手を知り、よりうまく応対するため」でした。その記事にある一文が目を引きます。
「石原慎太郎の日本に対する愛を疑うものはいない。論争となるのは、この愛が正常なのか病的なのかというところだ。」(引用:東京都ウェブサイト)。
局地戦の主眼は、「破壊」です。相手を撃破すれば「勝利」となります。しかし、真の国益のためには、局地戦を我慢して「現状維持」すべきことが無数にあります。その先に、高邁な理念と、周到に練り上げられた戦略をもって「創造」する国家の未来像があります。石原慎太郎氏の「日本に対する愛」が、東アジア諸国との関係改善と相互繁栄をもたらす「正常なもの」であることを願います。
(文責:梅本龍夫)
讀賣新聞
【記事要約】 「石原都知事辞任」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事要約】 「石原都知事が辞任」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事要約】 「石原都知事、辞職し新党」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事要約】 「日本郵政、2015年秋上場」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事要約】 「石原知事、辞職表明」