【リグミの解説】
活断層の再定義
本日の毎日新聞と東京新聞の1面トップは、「原発の活断層定義の見直し」についての記事です。活断層の定義は、以前は「5万年前以降に動いた可能性があるもの」でしたが、現在は「13万~12万年前」以降に定義変更されています。原子力規制委員会は、ここからさらに「40万年以前」まで遡る新定義を検討しています。
関西電力大飯原発の再稼働判断の最中、直下に活断層があるという専門家の指摘が報道されました。しかし、十分な検討や検証もないまま、再稼働が正式決定され、今日に至っています。原子力規制委は、電力会社任せにせず、大飯原発については独自調査に着手する予定です。新組織は、原発の安全性に関する定義を見直し、安全の検証に自らも入り込もうとする姿勢を示していることは、福島第1原発事故という大災害を経験した日本が、ようやく新しい方向に動き出した証ともいえ、評価できます。
安全基準の限界はどこか
その一方で、安全基準はどこまで厳格にすれば良いのか、さらにその基準を満たしていると本当に言えるか、活断層を漏れなく発見できるのか、心配もあります。日本学術学会は、9月11日に発表した「高レベル放射性廃棄物の地下処分」に関する報告書で、次のように警告しています。
「日本は火山活動が活発な地域であるとともに、活断層の存在など地層の安定性には不安要素がある。さらに、万単位に及ぶ超長期にわたって安定した地層を確認することに対して、現在の科学的知識と技術的能力では限界があることを明確に自覚する必要がある。その自覚を踏まえた上で、説得力のある方策を探すべきである。」(引用:日本学術会議『高レベル放射性廃棄物の処分について』P5)
昨日の「リグミの解説」で、フィンランドの核廃棄物の最終処分場「オンカロ」についてのドキュメンタリー映画『100,000万年後の安全』に触れました。核のゴミ(高レベル放射性廃棄物)を地下処分することを決定するプロセスで、フィンランドの責任者たちが、10万年の間に何が起きるか、真剣に議論しました。結論は、何が起きるかわからない、というものでした。
あらゆることを想定することは不可能です。少なくとも、地震国でないフィンランドで、10万年間岩盤が安定し、地下水が突然地上に吹き出すといったことが起きない、と想定できる場所を選定しました。しかし、当事者意識を持ち、用意周到に検討を重ねて意思決定をしたフィンランドですら、本当はどこまでの確証があるのか。映画を観ていて、人間の科学的知見と英知の限界を超えた先に、10万年単位の地球の変動があるように思えました。
新しい「安全神話」へ
40万年前まで遡って地層を解析し、安全性を確認することは、是非やってもらいたいと思います。その上で、私たち日本人が真剣に考えるべきことは、54機もの原発が、日本列島にあるという現実をどう判断するかです。
世界の原発立地国で、このような環境は日本だけだと言われます。日本の国土は世界のたった0.25%ですが、マグニチュード6以上の地震の20.5%が日本で起きています(参照:地震情報サイトJIS)。単純計算で、世界平均の80倍以上の確率で大地震が起きている国が、世界で3番目の原発大国だという現実。まさに「神話レベル」の安全への確信がなければ、とてもここまでの原発立地はできなかったと思います。
逆説的な言い方になりますが、今こそ本当の「安全神話」を創造する時ではないでしょうか。40万年前のことや、10万年後のことを、人類は正確に知ることはできません。それでも科学の進歩を信じ、そのときどきの最高の英知を結集して、仮説をを立て、検証していく。新しい発見があれば、勇気をもって仮説を変更し、安全基準も更新をする。そして、今できることをしっかりやっている、ということを国も、専門家も、電力会社も、リアルタイムで徹底して開示し説明をする。国民はそれを当事者として確認し、納得共有する。
「神話」とは本来、「今ここ」で常に刷新され続ける物語です。そのことで、最も多くの人々が共有し続けられる物語となります。物語は、それを生きるものです。新しい原子力政策は、過去の基準や、既得権益に固執せず、科学がもたらす新しい発見に開かれたものとして、日本人全員が共有できるものとなるべきです。
(文責:梅本龍夫)
讀賣新聞
【記事要約】 「東大、9月始業検討」
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事要約】 「地震保険料、最大30%上げ」
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事要約】 「活断層定義拡大を検討」
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事要約】 「日産、タイ生産を倍増」
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事要約】 「活断層の定義、大幅厳格化」