2012.10.23 tue

新聞1面トップ 2012年10月23日【解説】好奇心が未来を切り開く

新聞1面トップ 2012年10月23日【解説】好奇心が未来を切り開く


【リグミの解説】

存在を消す
ドキュメンタリー映画『100,000年後の安全』は、フィンランドの核廃棄物の地下最終処分場「オンカロ」の建造が決定されるプ
ロセスを関係者の証言で追います。核のゴミが安全になるには、10万年かかります。それはどれぐらいの時間なのか。映画の中で「オンカロ」の政策決定者たちは、確実にやってくる氷河期のことを語ります。それぐらい遠い将来、果たして人類は生き残っているのか。生きていたとしても、コミュニケーションは取れのか。10万年前といえば、ネアンデルタール人が生きていた時代です。10万年後の人類は、どうなっているかわからない、という想定はリアリティーがあります。

フィンランドの責任者たちは、あらゆる可能性を想定したあと、「オンカロ」が極めて危険な場所であることを正しく伝えることは不可能だ、という結論に達します。そして、地下に核廃棄物の最終処分場があることを示す痕跡を、すべてなくすことを決定します。「オンカロ」とは、フィンランド語で「隠れた場所」という意味ですが、この映画を観て、「存在を消し、やがて無となる」というニュアンスも感じ取りました。

原発か風力か
本日の新聞1面トップは、朝日新聞と日経新聞が原発に関連する記事です。朝日は、「風力購入、過小に設定」というタイトルで
、6電力会社が原発を100%稼働することを前提に、風力発電の買い取り上限を設定していたことを問題視する記事です。

原発は、いったん稼働すると発電量の微調整ができません。このため、電力需要の安定的基盤を原発が担い、ピーク時対応など、発電量の調整は、火力などが担います。風力は、一定の出力を維持できないので、電力会社が買い取るときは、火力を調整します。原発を過去の実際の稼働率であった60~80%と想定すると、火力の調整幅が増え、結果として風力の買い取り枠が増大する、というのが記事に趣旨です。

この記事を読むと、電力会社は、原発を軸とした自前の発電体制を堅持したい、風力などの再生可能エネルギーの買い取りはできるだけ抑制したい、という考えが強いことをうかがわせます。

自家発電量は既に原発並み
一方の日経は、電力会社が原発主導の発電体制を堅持したいのだとしても、すぐには原発の再稼働が望めない現実を前提に、経
済活動のルールをどう変更するか、という視点の記事です。

現在の送電規制では、自家発電設備を持つ企業が、グループ会社などに送電する場合に、需要の100%を賄うことを条件としています。経産省は、この規制を50%まで緩和する方針を打ち出すそうです。「企業は、原発が再稼働が見通しにくい中、電力会社の供給力だけに頼りにくい面もあり、電力需給の安定には、節電努力に加え、自家発電装置の上積みが重要になる」、と日経の記事は締めくくっています。

東日本大震災後に、企業が自家発電を相次いで増強しました。ガス火力が中心の自家発電は、既に5600万キロワットの供給量があり、電力全体の2割程度にあたるそうです。20%と言えば、3.11以前の原発の発電比率です。

リスクとリターン
企業は、リスクをできるだけ限定し、リターンは可能な限り拡大したいと考えます。自家発電の増強は、リスクを限定したい企
業の思惑の結果ですが、大災害などの有事に備えた設備は、平時には電力会社からの電力購入を減らすなどの有効活用をし、できるだけリターンを増やしたいと考えるのは、自然なことです。そういう意味では、経産省の規制緩和が50%に留まっているのは、電力会社の経営安定を優先したもので、自由な経済活動の恩恵に依然として蓋をしているものと言えます。

その電力会社ですが、企業マインドはどのあたりにあるのでしょうか。原発を最大限維持することで、「リスクを最小化し、リターンを最大化」したいという考えが、朝日新聞の記事の背景にもあると思います。そのマインドは、一見自然なことのように見えます。しかし電力会社は、果たして原発のリスクを正しく想定しているのでしょうか。脱原発を決意したドイツのシュレーダー前首相は、「原発はミスに寛容でない」と語っています。確率が低くても、一旦事故が発生すれば、被害の大きさは目を覆うものがあります。そして人間は、ミスを犯すものです。

原発の本当のリスク
しかし、原発の本当のリスクは、核のゴミにあるのではないでしょうか。世界中で、フィンランドだけが核廃棄物の最終処理を
決定し、具体的に動いています。日本は、地下埋蔵を前提にしていますが、実際には場所が決まっていません。

そんな中、極めて深刻な提言が発表されました。日本で最高の学問的権威を持つ組織といわれる学術会議が、「原発の高レベル放射性廃棄物の処分について、深い地層に埋める現行の政策を『いったん白紙に戻すくらいの覚悟』を持って見直すことが必要」とする提言をまとめ、原子力委員会に提出しました(参照:日刊工業新聞)。現代の科学では、活断層が見つかっていなくても地震の可能性があること、さらに地震によって地下水が地上に吹き出す可能性も予測不能であることが、主な理由です。


そして、地上の核廃棄物の一時貯蔵設備は、日本全体で満杯の7割まで来ています。高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する専門家であった多摩大学大学院教授のい田坂広志氏は、「『原発ゼロ社会』は選択の問題ではない。不可避の現実である」と警告しています(参照:日経ビジネスオンライン)。

電力会社に本当のリスクマインドがあれば、原発を用意周到に終息させ、でき
るだけ早く再生可能エネルギーなどに代替していくことが、結局はリターンの最大化につながることを理解できるはずです。

好奇心という希望
「オンカロ」の責任者たちが、地下埋蔵された核のゴミのリスクを警告するコミュニケーション手段を断念した理由は、それが
通じなくなる可能性を想定したからだけではありません。人間(あるいは人間のような知性をもった生物)は、好奇心が旺盛で、「ここに何があるのだろう?」と探求したくなる可能性があるからです。だから、忘れ去られ、無になるのが良い。

でも、ここに希望があります。人間を人間らしくしている根本に好奇心があります。「核のゴミってどうなっているんだろう?原発を続けると、最後はどういうことになるのか?」この大きなテーマに蓋をせず、生来の好奇心で探求し続ければ、かならず未来を切り開く扉が見えてくるはずです。原子力エネルギーというパンドラの箱を開けた人類は、その箱の底に残るものを、純粋な好奇心で覗き込む時を迎えています。

(文責:梅本龍夫)



讀賣新聞

【記事要約】 「再生医療実現、国に責務」

  • 民主、自民、公明の3党は、iPS細胞(新型万能細胞)などを使う再生医療の実用化に向けた法整備を進めている。早ければ、29日召集予定の臨時国会に、議員立法で再生医療推進法案を提出する。
  • 再生医療推進法案は、再生医療実用化にあたっての基本法となり、国に対して「法制上」「財政上」「税務上」の措置を義務づける。具体的には、①大学などでの先進的な研究開発への助成金交付、②高度な技術を有する企業などの参入促進、③必要性の高い「再生医療製品」などの早期承認・審査体制の整備、④専門知識を有する人材の育成―など。
  • iPS細胞は、がん化する可能性と、精子や卵子をつくる技術研究に関しては、生命倫理上の課題もある。法案では、安全確保や生命倫理について、有識者らの意見を聞き、国民の理解を得ながら推進することも併記する。

(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/


朝日新聞

【記事要約】 「風力購入、過小に設定」

  • 北海道電力、東北電力、北陸電力、中国電力、四国電力、九州電力の6社は、買い取れる風力発電量を少なく見積もっていることが判明した。原発をフル稼働想定にすることで、風力の買い取り余地を抑制しており、風力の普及を妨げる結果になっている。
  • 原発は、いったん動かすと目いっぱい発電しなければならず、出力調整ができない。これに対して火力は、分単位で出力調整ができる。このため、原発の比率を下げれば、火力の調整幅が増え、風の強弱によって発電量が変化する風力を取り込む買い取り上限枠が増える。
  • 6電力会社の実際の原発稼働率は、以下の通り(運転開始から2011年度末までの平均)。▽北海道電力=82.8%、▽東北電力=65.9%、▽北陸電力=55.8%、▽中国電力=74.7%、▽四国電力=80.7%、▽九州電力=80.0%―。九州電力と中国電力は、原発稼働率を数割減らして見積もれば、風力を3割ほど増やせる、と認める。他の4電力は、どれだけ増やせるか、明らかにしていない。

(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/


毎日新聞

【記事要約】 「通学路30%、歩道なし」

  • 通学路に指定されている全国の国道と都道府県道のうち30%は、昨年3月末時点で歩道が全く整備されていないことが、国土交通省の調査で判明した。「簡易整備」(規定未満の狭い歩道の設置、または、路側帯をカラー舗装しただけ)も12%あり、未整備と合わせると、安全対策の不十分な通学路は、42%に上る。
  • 通学路の整備状況は、以下の通り。▽歩道未整備=1万3103キロ(未整備率30%) 内訳:国道=189キロ(同4%)、都府県管理国道=1934キロ(同24%)、都道府県道=1万980キロ(同35%)、▽簡易整備=5370キロ(同12%) 内訳:国道=838キロ(同16%)、都府県管理国道=1072キロ(同13%)、都道府県道=3460キロ(同11%)―。
  • 道路政策に詳しい橋本成仁・岡山大大学院准教授は、「誰もが歩道のあるところを通学路に指定したいが、そもそも歩道のない道路は多い。統計は日本のインフラ状況を如実に表している。登下校に限らず危険な道はあるので、町全体で安全を考える必要がある」と話す。

(毎日jp http://mainichi.jp/

日経新聞

【記事要約】 「企業の自家発電を拡大」

  • 経済産業省は、企業の自家発電の送電規制を緩和する。既存の電力会社との併用をしやすくし、自家発電設備の新規投資を後押しする。同省は、23日にも発表する。
  • 現在の規制は、自家発電設備を持つ企業が、グループ会社などへ送電する場合、相手先の電力需要を100%賄うことが条件となり、それができなければ100%電力会社または新電力から調達しなければならない。これが規制緩和後は、相手先の電力需要の50%を満たせば良く、残りの50%は、電力会社または新電力から調達できる。
  • 自家発電は、ガス火力が中心で、国内の供給量は5600万キロワットと、電力全体の2割程度ある。しかし厳しいルールにより、自家発電設備の多くは休眠状態だ。原発の再稼働を見通しにくい現状では、電力会社の供給力だけに頼りにくい面もあり、電力需給の安定には、節電努力に加え、自家発電装置の上積みが重要になる。

(日経Web刊 http://www.nikkei.com/


東京新聞

【記事要約】 「『ごみ屋敷』解消、支援条例制定へ」

  • 東京都足立区は、自宅にごみを溜め込む「ごみ屋敷」の解消のため、家主が撤去費用を支払えない場合に区が負担するなどの支援策を盛り込んだ条例を制定する。ごみを強制撤去し、その費用を家主に請求する条例は、杉並区、大田区、荒川区が制定しているが、費用の支援を含む条例は都内で初。全国的にも珍しい。
  • 足立区は、路上にあふれたごみや、伸びた庭木の枝などの苦情が昨年度1200件あった。このうち83ヵ所で現場確認をしたが、57ヵ所が未解決だった。高齢による体力の衰えや認知症の問題があったり、職員が訪問しても居留守を使われることが理由。足立区は、強制撤去しても、再びごみが増え始める可能性があり、解決には不十分と判断した。
  • 片付けに同意した人には、医療機関の紹介や、撤去費用を払えない場合には、上限100万円程度を区が払う内容を条例に盛り込む。こうした支援策に加え、指導や勧告に従わない場合は、強制撤去も可能にする。条例は、24日の区議会で可決される見込みで、来年1月の施行を目指す。

(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)



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