【リグミの解説】
「自白」の問題
本日の1面トップは、読売、朝日、毎日が、遠隔操作PCで犯罪予告メールが発信された事件での「誤認逮捕」について報じています。誤認逮捕者は4人、いずれも男性で、19歳の学生、28歳の無職が2人、そして43歳のアニメ演出家です。
現在各紙は、ネット犯罪に対して、警察の捜査能力が追い付いていない実態を問題にしています。それは確かに大きな問題です。警察に限らず、政府も、行政も、企業も、教育機関等も、みなネットの脆弱性に晒されています。内部で専門性を高める取り組みは必要ですが、普通にやっていては、ネット犯罪の進化のスピードに追いつけないのではないでしょうか。最新の知見と対策を即時に共有する「官民の組織横断的な取り組み」が、必要なのではないかと思います。
今回の事件でマスコミが未だ問題視していないもうひとつの問題があります。それは、誤認逮捕と「自白」の関係です。大阪のアニメ演出家と三重の無職男性は、一貫して犯行を「否認」しました。東京の男子学生と福岡の男性は、「供述が変遷」しました。
世間一般から見ると、「否認」し続けて釈放されたのは警察の捜査能力に問題があり、釈放は「当然」となります。問題は、「いったんは犯行を認めた」ケースです。やっていないのに自白するのは「不自然」。でも本当にそうでしょうか。
冤罪の構造
クレディ・スイス証券集団申告漏れ事件で逮捕された元外資系証券幹部だった方が、浜田 寿美男著『自白の心理学 』(岩波新書)を元に、「虚偽の自白」に至る6つの要因を体験的に語っています。
- 「取調べの場の圧力」=取り調べの場には、被疑者を有罪方向に引き寄せる強い力がある
- 「弁解の空しさ」=、疑われ続け、『もうわかっていただかなくても結構です』という思いになる
- 「時間的見通し」=いつまで我慢すれば解放されるかわからない苦しみが続く
- 「否認することの不利益」=否認してがんばっても無実だとわかってもらえる可能性はないと知る
- 「いまの苦痛と遠い先の悲劇」=ここで自白しても、裁判所で弁明すればわかってもらえるという気持ちになる
- 「無実の人は刑罰に現実感をもてない」=無実の被疑者は犯罪の現実感がないので、取調べのなかで苦しくなって、追及されるままに罪を認めても、それが実際の刑罰につながるとの現実感はもてない
(参照:「検察なう」)
人間心理の洞察
ネットワークの時代には、すべてのことが、無限にがつながっていきます。そこでは、「リアル」と「バーチャル」が越境し合い、「虚」と「実」がないまぜになります。一生活者として、普通にPCなどを使っている中で、突然「犯罪者」に仕立て上げられる可能性があるのが、現代社会のひとつの現実です。そこに、していないことを認める「自白」へと傾斜させていく捜査当局の諸々の構造が重なると、冤罪が一気に増える可能性もあります。
今回の遠隔操作PC事件で露呈した警察の捜査能力を高めていく上で、「サイバー解析能力」を身に着けることが喫緊の課題となっています。しかしそれ以上に、突然に不条理な環境に遭遇したときの人間心理の「ゆらぎ」をよく洞察し、真犯人を「落とす」能力と、無実の人を「救う」能力の両方を磨いていく必要があります。そうした「サイコロジー洞察能力」は、少数の人間味ある刑事さんにしか期待できないのでしょうか。警察や検察の現場にも、新しい風を吹き込む時代を迎えています。
(文責:梅本龍夫)
讀賣新聞
【記事要約】 「警視庁ウィルス検査せず」
- 警視庁は、インターネット上で犯行予告が相次いで書き込まれた事件で、パソコンのウィルス検査など必要な捜査をせずに、福岡の無職男性を逮捕したことがわかった。遠隔操作型ウィルスの想定をしていなかったことが原因だ。
- 警視庁は、お茶の水女子大付属幼稚園への脅迫メールの送信元を調べ、IPアドレスから男性のPCを割り出した。男性は当初否認したが、捜査員から迫られると容疑を認め、威力業務妨害容疑で逮捕された。同庁は、脅迫メールが送られた時間帯に男性が自宅にいたことは確認したが、ウィルス対策ソフトでのチェックは行わなかった。
- 片桐・警視庁長官は、「真犯人でない方を逮捕した可能性が高い。断定されれば、お詫びを含めた適切な対応を図る」と述べた。IPアドレスによる容疑者割り出しを重視したネット犯罪捜査の問題点が浮き彫りになった。
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事要約】 「誤認逮捕、捜査検証へ」
- 警視庁の片桐長官は、遠隔操作されたPCから犯罪予告メールが送信された事件について、「真犯人でない方を逮捕した可能性がある。そうだとすれば、お詫びを含めた適切な対応を図る」と述べ、4人の男性の誤認逮捕を認めた。
- 誤認逮捕は、以下の4人。①東京の男子大学生(19)=神奈川県警が7月逮捕・保護観察処分確定、②大阪のアニメ演出家男性(43)=大阪府警が8月逮捕・起訴後釈放、③福岡の無職男性(28)=警視庁が9月逮捕・処分保留で釈放、④三重の無職男性(28)=三重県警が9月逮捕・処分保留で釈放―。
- 捜査過程で、IPアドレスで容疑者を特定する手法や自白への過信が浮かび上がった。誤認逮捕の4人のうち2人は否認を続け、残り2人は供述が変遷した。警察は、アリバイを調べず、否認を聞き入れなかった。4都府県警は今後、捜査の検証を進める。
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事要約】 「警察、逮捕4人に謝罪へ」
- 警視庁など関係都府県警は、遠隔操作されたPCから犯罪予告メールが送信された事件で逮捕された4人について、謝罪を検討していることを明らかにした。保護観察処分の男性(19)については、処分取り消しの方向で検察当局と協議に入った。
- 逮捕された4人の男性は、以下の通り。①東京の男性=神奈川県警逮捕⇒家裁送致⇒保護観察処分、②大阪のアニメ演出家男性=大阪府警逮捕⇒起訴⇒釈放、③福岡の無職男性=警視庁逮捕⇒再逮捕⇒処分保留で釈放、④三重の無職男性=三重県警逮捕⇒処分保留で釈放―。
- TBSなどに「犯行声明」メールが送りつけられ、「真犯人」が浮上したことで、4人は誤認逮捕だったとの見方が強まった。捜査が不適切だったとの指摘も出ている。片桐警視庁長官は、「捜査の検証をしているので、現段階ではコメントを差し控えたい」と述べた。
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事要約】 「CO2排出、原発停止で増」
- 国内大手製造業の2011年度の温暖化ガス排出量が、2010年度より最大2割増大していることがわかった。各社の環境報告書は、電力使用で発生するCO2について、2010年以前の排出係数で算出しているケースが多い。日経新聞が、原発の稼働率が低下し火力発電が増えた2011年度の排出係数で計算し直した。
- 2011年度の各社の温暖化ガス排出量は、以下の通り(2011年度係数で計算した排出量と前年比増減率、2010年度係数で計算した排出量と前年比増減率)。①JFEスチール=5410万トン(▲1%)、5320万トン(▲3%)、②東芝=197万トン(+17%)、154万トン(▲8%)、③日産自動車=150万トン(+20%)、127万トン(+2%)、④シャープ=113万トン(+15%)、87万トン(▲11%)、⑤富士フィルム=76万トン(+2%)、70万トン(▲5%)、⑥NEC=47万トン(▲2%)、37万トン(▲23%)―。
- 2011年度の電力10社の排出係数は、前年度比36%増となった。JFEスチールは、自家発電やコージェネレーション(熱電供給)設備を持つため、電力購入量が少ない。原発稼働率が低いままだと省エネを進める企業の温暖化対策には逆風で、生産の国外シフトに拍車をかける懸念がある。
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事要約】 「1947年洪水の氾濫図『捏造』」
- 国土交通省関東地方整備局は、1947年のカスリーン台風の洪水で発生した水害の氾濫地域を過大に表示した図を作成していた。建設の是非が問われている八ッ場ダムの本体着工条件である、「利根川・江戸川河川整備計画」策定に向けた有識者会議にも示された。
- 氾濫地域には、標高約200メートルの山間部も含まれていた。有識者委員の大熊・新潟大名誉教授は、「上流域で大規模な氾濫が起きたように捏造している。氾濫水量は8分の1程度ではないか」と批判する。
- 一部の委員から「捏造した氾濫図」として撤回を求める意見が出されており、ダム建設の根拠となる治水の必要性の議論に影響を与えそうだ。整備局河川計画課は、「被害地域を唯一、示した水害被害図に基づき、機械的に作った。氾濫図は最大流量の算出で使っていない」としている。
(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)
【本日の新聞1面トップ記事】アーカイブ