【リグミの解説】
「1票の格差」問題
本日の新聞1面トップは、読売、朝日、毎日、東京の4紙が、参院選の「1票の格差」を「違憲状態」とした最高裁判決に関する記事です。各紙とも報道内容にほとんど違いはありませんが、記事の掲載している解説情報に特徴がありました。4紙の記事要約を併読して、「1票の格差」の憲法問題を考えたいと思います。
「合憲」「違憲状態」「違憲」の3択
まず、最高裁の判断は、「合憲」か「違憲」かの二者択一ではなく、「違憲状態」というやや中間的な選択肢があり、今回はそれが選択されています。最高裁の憲法判断の枠組みは、「違憲状態」=「投票価値に著しい不平等が生じている状態」、「違憲」=「違憲状態が相当期間続いているのに是正されていない場合」、というものです。
「違憲状態」から「違憲」へ
では、「投票価値の著しい不平等」が、どれだけの期間続いたら「違憲状態」から「違憲」に変わるのでしょうか。そこは「合理的な期間」が経過すれば「違憲」、という抽象的な表現になっています。「合理的な期間」を判断する明確な基準がないため、最高裁の判決はわかりにくいものになっています(参照:東京新聞1面)。
また判決自体も、「〇〇の期間で、△△まで格差を是正せよ」という具体的な義務が付されるわけではないので、政治の動きが鈍くなるという側面もあると思います。
最高裁判決の影響力
ただ、過去の判決とその後の「1票の格差」を見ていくと、最高裁判断が一定の効果を発揮していることがわかります。1970年代初頭は、衆議院も参議院も、「5.00倍前後」でした。その後、2度の「違憲」と2度の「違憲状態」と判断された衆院は、格差が低下し続けました。
一方の参院は、1971年の参院選の「5.08倍」が「合憲」とされ、その後も合憲判決が続いたため、ついに1992年参院選で「6.59倍」まで上昇しました。その結果、格差は「5.00倍前後」に戻り、その後再び合憲判決が続きました(参照:Wikipedia)。
2009年の衆院選の「2.30倍」が再び「違憲状態」とされたこと、そして今回2010年の参院選「5.00倍」も「違憲状態」とされたことで、最高裁が「1票の格差」の許容枠を狭める方向に舵を切ったことが明確になりました。
問題はここからです。そもそも、常識として5倍もの格差が合憲ということは、納得しがたいものがありました。どんなに譲っても、2倍未満が許容範囲でしょう。実際の格差是正がどこまで進むか、政治家のコミットメントと胆力が問われています。
裁判員のバックグラウンド
今回、最高裁大法廷の裁判員の数とバックグラウンドも今回知ることとなり、興味深かったです。15人のうち、6人が「裁判官」です。つまり、企業でいえば社内取締役とも言うべき"身内"です。次に「検察官」と「行政官」という"仲間的"な者がそれぞれ2名います。この10名のうち8名が合意すれば、過半数が取れる構成になっています。
あとは"中立的"な「学者」が1名、そして"対抗軸"となる「弁護士」が4名です。社外取締役の視点も織り込みながら、社内取締役で決議できる企業のようです。
「1票の格差」という奇策
ところで普通の裁判は、「有罪」か「無罪」の2択ですが、憲法裁判は「違憲」「違憲状態」「合憲」の3択のため、15名だと「5-5-5」になり、判決が出せない可能性があります。その時は、どうするのでしょうか。
でも奇策がありますね。15人のそれぞれに「1票の格差」をつければいいのです。裁判長は、「1.0票」、裁判官の裁判員は「0.5票」(格差2倍)、そしてうるさ型の弁護士裁判員がいたら、「0.2票」(格差5倍)にしてみましょう。これですっきりと判決が出せます。
(文責:梅本龍夫)
讀賣新聞
【記事要約】 「参院選『違憲状態』」
- 最高裁大法廷は17日、「1票の格差」が最大5.00倍だった2010年7月の参院選挙区選は、「違憲状態」とする判決を言い渡した。選挙無効(やり直し)の請求自体は退けたが、現行の都道府県単位の選挙区割りの見直しを初めて明確に求めた。
- 大法廷判決の骨子は、以下の通り。▽「2010年7月の参院選挙区選における1票の価値は、違憲の問題が生じる程度の著しい不平等状態」、▽「この選挙までの間に定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるとは言えない」、▽「都道府県単位の選挙区で定数を設定する方式を改めるなど、立法的措置を講じ、できるだけ速やかに不平等を解消することが必要」―。
- 判決は、15人の裁判官のうち11人の多数意見。判決を受け、都道府県単位の区割りの早期見直しが不可避となる可能性も出てきた。来夏の参院選を控え、民主・自民両党は8月に「4増4減」の格差是正案を国会に共同提出したが、判決が求める抜本対策には着手していない。
(YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/)
朝日新聞
【記事要約】 「参院も違憲状態」
- 最高裁大法廷は17日、「1票の格差」が最大5.00倍だった2010年7月の参院選挙区選は、「違憲状態」とする判決を言い渡した。選挙無効(やり直し)の請求自体は棄却した。弁護士らが「選挙区ごとの投票価値が不平等なのは違憲だ」とし、各地の選挙管理委員会を相手に選挙無効(やり直し)を求めていた。
- 参院選をめぐる最高裁の過去の判断は、以下の通り(選挙時期、1票の格差、判断)。▽1992年=6.59倍「違憲状態」、▽1995年=4.97倍「合憲」、▽1998年=4.98倍「合憲」、▽2001年=5.06倍「合憲」、▽2004年=5.13倍「合憲」、▽2007年=4.86倍「合憲」、▽2010年=5.00倍「違憲状態」―。
- 2007年の参院選を巡る2009年の最高裁大法廷判決でも選挙制度の見直しを促していた。しかし今回は「一部の選挙区の定数増減に留まらず、都道府県単位の区割りを改めるなどの立法措置を講じるべき」と述べ、より具体的に改革を求める内容となっている。
(朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/)
毎日新聞
【記事要約】 「2010年参院選『違憲状態』」
- 最高裁大法廷は17日、「1票の格差」が最大5.00倍だった2010年7月の参院選挙区選は、「違憲状態」とする判決を言い渡した。全国の有権者が選挙無効を求めた17件の訴訟の上告審判決。「都道府県単位の区割りを改める必要がある」と、具体的な制度見直しに初めて言及した。
- 15裁判官の意見は、以下の通り(氏名、出身)。▽「違憲状態」11人=竹崎博充(裁判官)・桜井龍子(行政官)・竹内行夫(行政官)・金築誠志(裁判官)・千葉勝美(裁判官)・横田尤孝(検察官)・白木勇(裁判官)・岡部喜代子(学者)・大谷剛彦(裁判官)・寺田逸郎(裁判官)・山浦善樹(弁護士)・小貫芳信(検察官)、▽「違憲」3人=田原睦夫(弁護士)・須藤雅彦(弁護士)・大崎正春(弁護士)―。
- 最高裁大法廷は昨年、2009年の衆院選についても「違憲状態」と判断している。今回、大法廷は参院の役割について、「衆院とほぼ等しい権限を与えており、急速に変化する社会情勢の中で、長い任期を背景に役割は大きくなっている」と言及し、参院の投票価値が衆院より後退して良い理由はないとする。衆参両院が選挙制度の抜本見直しを迫られる異例の事態となった。
(毎日jp http://mainichi.jp/)
日経新聞
【記事要約】 「物価上昇0%台後半」
- 日本銀行は、2014年度の消費者物価(除:生鮮食品)の上昇率の見通しを前年度比0%台後半とする方向で検討に入った。これまで「2014年度以降、遠からず1%に達する可能性が高い」としてきた。30日に示す「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」でどのような物価上昇率の数値見通しを示すかが焦点となる。
- 中国など海外経済の減速が長引いており、日銀が実質的な物価目標に掲げる「1%」が見通せなくなっている。日銀は9月に10兆円の追加緩和に踏み切ったが、30日に開催する金融政策決定会合で、さらなる追加金融緩和を協議する。長短の国債買い入れ増額、社債や上場投資信託などの購入枠拡大を議論するとみられる。
- 2014年4月に予定される消費税率8%への引き上げは、デフレ脱却が前提となるとの声が根強い。2014年度の物価上昇率1%の見通しが、ひとつの判断基準ともされるため、今回の修正により、日銀に対する追加緩和圧力が高まるとみられる。
(日経Web刊 http://www.nikkei.com/)
東京新聞
【記事要約】 「2010年参院選、違憲状態」
- 最高裁大法廷は17日、「1票の格差」が最大5.00倍だった2010年7月の参院選挙区選は、「違憲状態」とする判決を言い渡した。「都道府県単位の区割りを改め、できるだけ速やかに不平等状態を解消する必要がある」とする異例の付言をした。
- 大法廷判決の骨子は、以下の通り。▽「2010年7月の参院選挙区選における1票の価値は、著しく不平等で違憲状態」、▽「選挙制度の改革には高度な政治判断や時間が必要で、選挙までの間に是正しなかったのが国会の裁量を超えるとはいえない」、▽「国会は都道府県単位を選挙区とする現行制度を改めるなどの解消策を速やかに取るべき」―。
- 国会の定数是正に向けた動きは鈍く、最高裁大法廷は今回、選挙制度の抜本的改革を求めた。「1票の格差」を正さなければ、格差はさらに拡大する。国会は最高裁の「警告」を受け止め、早急に是正する必要がある。
(TOKYO Web http://www.tokyo-np.co.jp/)
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